オカルトをブライトに!

大河井あき

プロローグという名の道中

第1話:行き止まり

 頭蓋骨ずがいこつを両手で持った日暮ひぐれの心に湧いたのは、恐怖でも興奮でもなく、もっと波のない感情だった。

 先ほどまで大輪の花火を咲かせて笑っていた空は、とっくのとうに口を閉じている。

 掘った穴の中で、空っぽの眼窩がんかと無言で四角い目を合わせていると、明るさを控えめにした声がかかった。

「これは、警察に言わないといけないのかな。でも、どうしようか。面倒ごとはけたいよね……」

 穴のそばでしゃがんでいる七瀬川ななせがわは困った顔をして赤いふちのメガネを押し上げた。

匿名とくめいで通報する手があります」

 わずかに開かれた大きい口から出たのは、抑揚のない低い声。

「穴をそのままにして、隣に頭蓋骨を置いておけば過程は伝わるはずですから」

 穴から出ると、風が巨体の汗を乾かし、ほとぼりを奪っていった。シャベルで学校の裏山と数時間も苦戦した疲れが、たくましい腕と脚へ思い出したかのように押し寄せる。

「そうだね。じゃあ、あとで私が通報しておくよ。片付けしちゃおっか」

 頷いて頭蓋骨を地面に置き、腕や服に付いた土や草を軍手で払う。二人は低木のそばに置いたそれぞれのリュックに道具をしまっていった。

 その途中、小柄な身体からだが縮んでしまいそうなつぶやきが薄い桃色の唇から漏れる。

「ごめんね。ずっと私のわがままに付き合わせちゃって」

 シャベルの頭を新聞紙で包んでいた日暮は思わず顔を七瀬川に向けた。

「わがままだなんて」

「でも、これで七不思議は全部解決。後悔はないよ。ちゃんと受験と向き合えそう」

 後悔はない。

 その言葉のとおりなら、どうしてそんな、寂しそうに笑っているのだろうか。

 自然と思い返されたのは、二人しかいないオカルト研究会で、自身の道が見つかるかもしれないと信じて過ごした今日までの日々――。

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