謎が集まる床屋さん
水を得た魚
第1話 自分なら
チョキン、チョキンとハサミが音をたて、その音がするたびに黒い髪がバサッと落ちる。
この床屋のオーナー、山川 飛雄は慣れた手つきで髪を切る。
もともとは探偵志望だったが、全然仕事が来なく、生活のためにやむなく床屋になった。
「この辺とかこんな感じで、どうですか?」
と鏡を持ち後ろに立つ。
「あぁ、そんな感じでよろしく」
今回のお客様は、ところどころ白い毛が混じったおじいさんだ。
「最近は、何かと物騒になって来ましたね」
床屋である以上、コミュ力は必須だ。会話をしないと、一時間も黙って髪を切ることになってしまう。
「そうじゃね。ところで知ってるかい?ここらで最近、泥棒が入ったらしいじゃないか」
(もちろん知っている。色々なお客さんが話していたからな)
「そうなんですか?知りませんでした」
(ここでネタが尽きたら、また次の話題を話さなきゃだからな)
そう思い、知らないフリをすることことにした。
「実は、あの公園の家の近くでな、、、」
と知っている話と全く同じ話を聞いた。
話が一段落ついたとき急に質問をしてきた。
「ところで、お前さんは、なんで床屋をやっておる?」
急に話題が変わりびっくりしたが持ち前のポーカーフェイスで乗り切った。
「もともとは探偵志望だったんですけどね、、、」
と苦笑いをした。
「そうか、そうか。もともとは探偵志望じゃったか。なら、一つこの問題を解いてくれんかのう」
そう言って、返事をしないまま話だした。
「とある親戚から聞いた話なんじゃが、どうやら夜にうめき声がするらしいんじゃ」
「うめき声ですか、、、」
「ああ、うぉぉぉん、とな。うるさくて夜も眠れんらしい」
耳の辺りの髪を切る。白と黒が混じった髪がパラパラと落ちる。
「そうですか。原因はわかったんですか?」
一拍、何かを考えてるような顔をしていった。
「いや、まだ解決しておらん」
「、、、そうですか」
後ろに行き、ハサミからバリカンに持ち替え、横側の長い部分を切っていく。
「探偵さんや、この原因わかるかい?」
数秒、沈黙が続き言った。
「本当に、原因がわからなかったんですか?」
これが、一番の引っ掛かりだった。
「音のする方へ言って見ようとは思わなかったんですか?」
「動物の仕業かもしれんじゃろう」
予想してたかのように答えた。
「動物の仕業だと思うのなら、柵を作って解決のはずですが、未だ貴方はまだ解決していないと言いました」
今度は老人が黙る番だった。
(お客さんの話に首をツッコミすぎなのはわかっているけど、、、探偵だった頃の癖で未だ解決していない事件は、解決したくなっちゃうんだよな)
これから、床屋さんによる事件の解決推理が始まる。
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「どのへんから、音がなっていたんですか?」
「草木が生い茂ったところの奥からじゃ」
反対側の耳の辺りも同じように整え、次は前髪に取り掛かる。
「一体何週間前から、その騒音は始まったんですか?」
思いだすように言った。
「一週間くらい前じゃったかな」
気のせいか額に汗がたれてる。
その汗が、自分の目に入って痛そうだ。
チョキン、チョキンとハサミが音を鳴らす。
床屋は話始める。
「知っていますか?あの泥棒の事件も一週間前なんですよ」
「知っているとも、だが、たまたまだろう」
と予想どうりの返答が来た。
「貴方の頭とても傷ついていました。それに、少し濡れていたんです」
老人は黙って耳を傾ける。
「まるで、草木が生い茂る場所に無理やり入って、木の枝などに傷つけられた傷のように。そして、頭についた葉っぱを洗ったかのように濡れていました」
床屋に来るのに頭を洗う人はそうそういませんと付け加えた。
「親戚じゃなくて貴方の体験談ですよね。この話」
老人はすこし笑って言った。
「こんなことでバレるなんてな。あっぱれだ名探偵」
そう褒めだした。
「そして、貴方は見つけてしまったんだ。泥棒の犯人が使ったバイクを、うめき声の正体を」
前髪が終わり、ひげ剃りに入る。
「なぜ、バイクだと?」
「泥棒の話とつながっているのなら、犯人はバイクで逃げたと言った貴方の話と繋がります」
(他のお客さんからはバイクで逃げたなんて聞かない情報だったからな)
そこから、床屋もお客さんも沈黙の時間が続いた。
お客さんの髭を剃り終わり、お会計に入ったときに話しだした。
「もし、さっきの話で、そのバイクの持ち主が自分の息子だったらどうする?」
「やっぱり、通報しますね。自分の息子で迷う気持ちもあると思いますけど、これ以上人様の迷惑にならないようにするために、自分は通報します」
「そうか」
そう言って、千円札を二枚おいてお店を出ていった。
謎が集まる床屋さん 水を得た魚 @momizigari
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