第2話

第二十九章 宣戦布告


「面白いことを言いますね」


寿司職人は薄く笑った。


「では、提案があります。料理対決をしませんか?同じドラゴンの肉を使って、あなたは加熱調理、私は生で。どちらがより美味しいか、お客様に判定していただく」


美咲の心臓が高鳴った。これは単なる料理対決ではない。19階と21階、ドラゴン・キッチンとドラゴン寿司、そして私たち家族の未来がかかった勝負だった。


「いつにしますか?」


美咲は即答した。


「来週の日曜日はいかがでしょう?ちょうど店の定休日ですし、話題作りにもなります。きっと多くのお客様が見に来てくださるでしょう」


「結構です」


美咲は立ち上がった。大きなお腹が重かったが、今は気にならなかった。


「楽しみにしています」


職人は再び薄く笑った。


美咲は店を出ると、急いで19階へ向かった。ヤマトに報告し、作戦を練らなければならない。


第三十章 戦いの準備と冷静な分析


「料理対決だって?」


俺は美咲の報告に驚いた。


「ええ。向こうから提案してきたの。断る理由はないでしょ?」


美咲の瞳は燃えていた。久しぶりに見る、彼女の本気の表情だった。


「でも、お腹の子は大丈夫なのか?」


「大丈夫よ。魔族の妊娠は人間より頑丈なの。それに、これは私たちの店の存続がかかった勝負よ」


確かに、この勝負に勝てば、客足も戻るかもしれない。負ければ...考えたくなかった。


「どんな料理を作るつもりだ?」


「まだ決めてないけど...とにかく、生では絶対に表現できない美味しさを創り出す」


美咲は厨房に向かい、レシピ帳を開いた。


「ヤマト、最高級のドラゴンを狩ってきて。今度の勝負で使う食材よ」


「まあ、待て、美しい妻よ」


俺は美咲の肩に手を置いた。


「俺に考えがある。まず、ドラゴン寿司のメニューを詳しく教えてくれ」


美咲は、料理対決に盛り上がらない俺に多少イラッとしながらも、事細かにメニュー詳細を伝えた。


「なるほど」と俺は頷きながら呟いた。


「明日、甲州市役所と日下部警察署に行ってくる。早起きしなくっちゃ」


第三十一章 ヤマトの推理


翌朝、俺は早起きをして21階のドラゴン寿司の様子を見に行った。店の周辺を調査すると、案の定、大量の生ゴミが不適切に処理されているのを発見した。


「やはりな」


生のドラゴン肉を扱う寿司屋では、どうしても廃棄が多く出る。特に、あれだけの客数を捌いているなら、切り落としや賞味期限切れの食材がかなりの量になるはずだ。


さらに調査を続けると、20階の森の奥、22階の洞窟の陰にも、明らかにドラゴンの骨や内臓の残骸が不法投棄されていた。


「下級魔法使いの仕業か」


投棄の痕跡から、テレポート魔法を使って運んだ形跡があった。おそらく、ドラゴン寿司が下級魔法使いに金を払って、産業廃棄物を不法投棄させているのだろう。


俺は証拠写真を撮ると、甲州市役所と日下部警察署に向かった。


第三十二章 市民の訴え


「ダンジョン内での不法投棄ですか」


市役所の環境課の職員は困った顔をした。


「はい。私はダンジョン20階の住民として、この問題を深刻に受け止めています。生態系への影響も心配ですし、何より法律違反です」


俺は用意した写真と証拠を提出した。


「確かに…これは問題ですね。すぐに調査チームを派遣します」


警察署でも同様の対応を受けた。産業廃棄物処理法違反は重大な犯罪行為だ。


「明日の午前10時に、現場検証を行います。立会人として同行していただけますか?」


「もちろんです」


俺は内心でニヤリとした。計画の第一段階は順調に進んでいる。

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