第8話「依頼人の訪問」

 修行を始めてから一年と五ヶ月が経過した。俺は大きく成長を遂げた実感が湧いていた。


「良いですよ! その調子で掛って来てください!」


 今日の修行は雪姫さんが直々に見てくれていた。修行が始まって六ヵ月を過ぎたところで彼女の指導が受けられるようになった。それが俺を大きく成長させている事実が窺える。

 まだ雪姫さんが術式を使って相手することが出来ない。根本的におよそ一年半の修行で対等は難しい内容だった。しかし、体術で少しずつ対応が利いて来る感じが見られる成長が窺えて今は凄い懸命さが増していた。早く雪姫さんに術式で来られるような実力を付けたいと強く思って励んでいる。


 一方で美兎も俺と辿る道は同じだった。実際に両者ともに霊術以外の異術を扱った修行がメインとして取り組んでいる現状にあった。

 美兎は序盤から天術が扱えていたが、俺は一年が過ぎた後で妖術を引き出す期間が設けられる状況が目立つ。


 俺が持つ妖術はお父さんから遺伝した異術だと教わって期待が膨らんでいた。


「そもそも妖術は妖怪を自らに憑依させて取得する術師から派生した異術だえる。人類の脅威とも言われる妖怪の力を手に入れた頃から大きく術師の生存率が変化して実力に差が生じた」

「妖術が派生して歴史が動いて術師の大元に影響しました。それを二人は引き出せれば強大な戦力となることは間違いないです。だから、早く使いこなせるようになってください」

「分かっている。けど、未だに変身を遂げたことがない。多少は異なった効果が表れて来たけど、本来の姿に変身できない点が不十分だと雪姫さんから指摘されていた。


「楽典様は星楽様から遺伝した【黒鋼狼】を引き出して実践で活かせることを願いたいんです。これが完全に扱えれば大して身が縛られるはずがなかったでしょう。取り敢えず妖術を完全に取得して操作が自在に出来る状態を作りたいですね?」


 雪姫さんの語る俺に到達して欲しいところは理解できる。実際に妖術は人間を強化する上で取り入れた訳だろう。そんな事情を踏まえて妖術の有効活用は取り入れても良いのだと思うところが強い。強くなりたいなら妖術は取得したい異術であると考えられる。


「とにかく妖術が自在に扱える術師を目指してください。それが今後の希望です。楽典様は当主の座を受け継がれる人材ですからね?」

「分かっている。有益な情報が聞けて助かる。今後も妖術を使いこなすための修行は続けて行こう」

「うん!」


 そうやって俺と美兎は定まった目標地点に到達するための修行が今日も行われる。


 すると、使用許可が永久に出ていた訓練場に雪姫さんが率いる部隊の一人が入って来る。彼は慌てた様子を窺わせながら急用の報告を伝えた。


「楽典様! 急ですいません! 実は星楽様から依頼人の話を聞いて解決させるように指示が出ました!」

「もしかして依頼が来たのか? それなら少し修行から外れる。後で用事が済まされても時間が余った時は合流する」

「お気を付けて行ってらっしゃいませ」

「頑張って!」


 急用と言う名目でお父さんが受けた依頼を遂行させる行動が起きる瞬間を迎える。


 最近だと頻繁に実戦経験を積まされることが多くなって来た。根本的に普段の修行で鍛えている技を実践するために与えられた使命な速やかに遂行して力を示したいと思った。この経験が俺を高めてくれると信じて依頼を受けるのだった。


(今日の依頼人はどうやら大富豪だって聞いた。うちと並ぶほど稼いでいるらしいが、本当に匹敵する家柄で給料が出ると聞いた。別に金は欲しい訳じゃないから断るに越したことはない。こっちは己を高めるために活動しているんだからな)


 俺の目的はいつでも逸れないような意識で臨んでいる。それが自分の掲げる一貫性であると考えていた。それを通して学びたい強さ求めて邁進したい。

 今は単純に次期当主が俺に務まるか不安を抱きながら生活を送っている。そんな生活でも最後に行き着けば最高だと言う自信が持てる。


 単純すぎる願望を抱えた。内心に抱いた願望はお父さんが認めてくれる実力で世間を生き残るために必須事項だった。いつまでもお父さんに縋って生きたいと思わないで美兎と安定した日々を過ごしたかった。


 そして依頼人が待機する一室に入った。俺が入室して依頼人を座らせて待機させるためのソファを目指す。、ソファが位置する場所は把握しているから俺は依頼人の正面に座れるように行動した。

 すると、入室した瞬間に依頼人が即座に来たことを察知して立ち上がって声を掛ける。その男性は入室の段階で俺を歓迎するような態度で接して来た。


「やっと来ましたね! どうやら楽典殿は修行中だったようですいません。実は同じ大富豪として楽典殿を応援するつもりで依頼したいと思ったんですよ。どうか引き受けてもらえませんか?」

「依頼なら受けさせてもらいます。お父さんに受けて来いと指示れましたからね? それよりも一旦ソファに腰を下ろしてください。互いに座れてから話を聞きます」

「分かったよ。それなら座ろう。それで受けて欲しい依頼内容だが、現代の異術は仕事として取り入れる者が多い。知っている通り、詐欺目的で霊媒師を名乗る輩が存在します。今回は詐欺霊媒師を倒して刑務所に送ることです。どうかお願い聞いてもらえますか?」

「一見、聞いてみれば正義を掲げた上で依頼する方のようですね? それで詐欺霊媒師が誇る実力を聞いて良いですか?」


 俺の疑問点は相手が誇る実力だった。もし、依頼だからと言って俺が赴いた場合に実力不足を理解したと仮定する。そもそも実力が劣って命を奪われるかも知れない瞬間と直面した後に施す対応策が生存を賭けた選択肢だと言える。実際に以前の一戦で命が助かった瞬間を後悔したことはなかった。

 つまり、仮定が通された時に俺は命乞いするかも知れない。命乞いが了承された場合は俺の自由を保障する必要性がなくなる。それと大きく味方側の損失を生む行

動が命じられて壊滅させるように指示する。それを逆らった時は俺が葬られて終結する問題でしかない。

 結局は片方の選択が残る結末を辿らないから解決しないことは分かった。だから、受けた依頼は自身で片付けたい気持ちを持っている。それが俺にも可能だと言える範囲内で提案する。

 その前に相手の名前を聞いて置く必要性がある。だから、丁寧に名前が聞き出せるだけの対応力で話を進めた。


「取り敢えず名前を教えてください。依頼人は全員が名前が知っていないと話が進められません。これは全て現代当主が定めた方針です。もし、教えられない事情があるなら引き受けられない一件として扱わせてもらいます」

「あー、気が利かなくてすいません。私は黒森財閥の執事を担当しています。藤平泰介と申して取り合わせて頂いている次第です。今回は話を聞いて下さるだけでも助かります。良ければ依頼を受けてもらって解決して頂きたいんです。よろしくお願いしますね?」

「どうも。俺は安藤楽典です。父、安藤星楽から一任されて依頼を受ける選択する使命があります。俺だと不安で取り合われたくないなら父を通せるでしょう。どうか了承して頂いて取り合いたって行こうと思います。よろしくお願い致したいです」

「やはり、次期当主と言われているところが信頼に置ける理由でした。だから、楽典殿が引き受けて下さる場合はどうか解決して頂きたいと思います」


 互いが名前を知れた時点で大きく依頼は引き受けて行こうと考えていた。


 基本はどんな依頼だろうが受ける姿勢が望ましい。けど、実際は依頼人が怪しくない人物だと根本的に証明したいから名前は聞き出して置くのだった。


「名前を教えて頂きありがとうございます。ここから先は依頼となる一件が解決して欲しいと思った内容を聞かせてください。後は基本的に依頼人が希望された内容が絶対に通ることはないです。何故なら緊急事態が起きて依頼なんて通さなくなる時があります。または依頼が意外と難しくて急に続けられない場合は申し訳ないが断ることを許して頂きたいです。以上が依頼される際に了承して頂かないといけない事項となります」


 少し長い注意事項を説明した後で依頼する内容を聞き出す。泰介さんは慣れた口調で話を進めて依頼の詳細が伝わるように説明する。


「実は最近の霊媒師は多くが詐欺目的で活動する輩の増加傾向にあるんです。それが一昨年から結成した霊術師を集結させた組織が暗躍して被害を受ける事件が多発する話を良く噂で聞くことが頻繁にありました。それを許さない旦那様が善意を以て潰したいと前々から言って来たんです。しかし、旦那様は大して異術を扱った修行に励んで来なかったが故の参戦は難しいことで悩んでいました。何度か星楽様に取り合ってもらうための話を持ち掛けましたが、他の仕事が忙しくて引き受けられる日を待つように言われたんです」


 泰介さんの口から施された事情説明は凄く共感を起こさせる内容だった。それが理由で俺の受ける意思が固まった。

 俺が受けている本来の依頼は雪姫さんから聞いた情報だと社会の治安を守ることを目的とした活動だった。それが祖先から受け継がれた上で現状がある。今を継いで来た祖先の意思は人々を救済して治安が安定するように働くことが本来の目的だと心得ている。だから、今回の依頼は受けたいと心から思える意思を持った。


(俺は困っている人たちを救うために生きて行く。それが人のためを思う行動原理で俺を突き動かす理由だと言える。もっと修行して依頼を遂行させることで強くなった経験が本来から掲げた目的の達成だと思いたい。その意思が命を賭けた一戦でも突き進んで行ける覚悟なんだろう。きっと俺が次期当主を継いで子孫に後継して行ってやるんだ……!)


 そんな決意が依頼を自ら受けさせる鍵のような役割を担う。その鍵は強くなりたいと思う気持ちだけで高まって来る。

 取り敢えず俺は一任された依頼の遂行を目指す。ただ一心に向かう心を大切に持つと見えて来る道が進む方向を指し示す。


 そして最後まで話を聞いた上で依頼を遂行させるために出発期間を設けて決めた当日が詐欺師たちを打ち倒して刑務所に送る決行予定日となった。さらに掲げられた目標と対峙して立ち塞がる脅威から逃げない意思を仕上げるために努力したいと考えた。


「へぇ? 次は詐欺霊媒師が集う組織を潰す依頼が来たんだね? それは一人で挑戦して大丈夫かな?」

「問題ない。その組織は妖怪退治と除霊を詐欺目的の上で実施するインチキ野郎の集まりだって。つまり、そこまで鍛錬を積み上げて来ていない可能性が上がっている。だから、最低限の修行はこなして前日を迎えた頃に早く就寝する予定を入れた」

「ふーん? まぁ、弱いから油断して殺されたら冗談で済まされる問題じゃないのかな? そこは用心して向かうところだと思う」

「分かっている。用心しないで挑む訳がないだろ? 俺だって真剣に戦うつもりで行くんだよ。だから、遂行失敗で終わるつもりはない」

「頑張ってね!」

「おう!」


 俺を気遣うように美兎が声援を送ってくれる。それがとても嬉しくて不意に頬が緩んでしまった。それを見ていた美兎は指摘する意思を見せなかった。隣で先を見詰めながら機嫌が良い美兎を見た時にそっと横から抱き締めた。美兎の身体は柔軟で抱き心地が良かった。

 そして一言だけ抱き付かれても喚かない美兎に向けた感謝を伝えた。それが言い終えるまで待っていた美兎が喜んでくれる気持ちを吐いて次の依頼に備えた。


「俺は必ず人々を守り抜いて見せる。それは俺が美兎と生きるために悲劇を遠ざける一戦だと心底から誓う!」


 途中まで告げられた一言の先を間が置かれて美兎の興味が限りなく高まる瞬間を狙って最後を続けて伝えた。


「お前を傷付けさせない。そんな決心と安心して暮らせる環境を維持する一戦かも知れないから俺は全力で挑んで来る」


 最後は美兎が瞳から溢した涙を感じながらしばらくを共に送る。


 美兎と紡いで行く愛は命が尽きるまで途絶えさせないと内心に誓って覚悟を固めるのであった。

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