第9話「依頼開始」
今日はかなり珍しい客人が訪れていた。正面に腰掛けた客人はお茶を口に含んでから話を始める。
「どうやら凄い依頼を引き受けたみたいだね? それも相手は組織で活動している輩だろ? 君が一人で乗り込むなんて危険すぎないか?」
「実際に俺は修行中の身です、だから、鍛え上げて来た成果を確かめたいと思って受けました」
「ふむ。利口だと思われるところは申し分ないが、それでも君は生きて帰れる自信があって言っているのかい?」
「必ず生還して見せます。それが言えないと俺が次期当主を受け継いでも組織は纏まりません。そらなら幹部の誰かに譲った方が利口です」
「うん。良い思考判断だよ。でも、やる気だけで乗り越えられる問題じゃない。そもそも修行を始めて一年半が経過するぐらいで意地を張ることは止めなさい。それでも引き下がらないなら後で後悔するかもよ?」
「重々承知しています。俺は本気で目指したいと考えて遂行する予定です。これは例え健也さんでも止められません」
「そうか。それなら良いと思うよ。だけど、後から後悔して踏み留まる結果が待ち受けていても君は今の考え方を貫けるかな?」
非常に難しい質問だった。それは俺に対する覚悟を試す質問だと思われる。それが口だけの覚悟なら俺は生還できないかも知れないと心配してくれた上で尋ねて来たのだろう。
(確かに言えている。だから、健也さんの意見は真面でどこにも欠点が窺えない。全うだから俺も迷えてしまう。けど、俺の掲げた目標はそんなに容易く切り捨てられるものじゃないが故に選択を迷うなぁ……)
俺は少し迷いながら唸る。やはり、死にたくない気持ちが起きて今後を生きる方に回しても良かった。人生を棒に振るなんて勿体ない決断はしたくたかった。それを踏まえて今後はさらに考えて動ける。
「まぁ、今回の件は依頼を回してもらえたから受けられたんだろ? それなら遂行に挑んで行くのも後々を鍛え上げてからでも良い方針だと思う。だから、本当に遂行して行きたいか選択肢は間違えないようにしろ。良いよね?」
「分かりました。健也さんが提示した忠告は有り難く身に添えて置きます。しかし、今度の依頼はすでに受けてしまったので、それ以降の話はちゃんと現状で無理が生じない判断を下して行きたいです」
「その決意は素晴らしいけど、本当に無茶かも知れない依頼を遂行するつもりなのか? もしかしたら死んでしまう結末が待っていたらどうする?」
健也さんから最終確認を思わせる質問が投げ掛けられる。それは後で後悔するかも知れない予兆を匂わせる質問でもあった。それが掻い潜れなければ俺が依頼を実行することが無謀である点を解消できていないと言いたげだった。それを踏まえた上で俺は健也さんの疑問に対して明確な答えを出した。
「死を恐れて逃げ回っても根本的に解決したしてません。逃げた分だけ相応の結果が出るだけで本当はやり通せたはずの一件だったかも知れないと思い悩むのはごめんです。だから、取り敢えず出来ると思えたのであれば積極的に挑戦して行きたいと考えています。そこから見出せた成長は格別だと思いませんか?」
俺の意見を健也さんに向けて言ってみた。それを聞いた健也さんは笑顔を漏らしながら感想が述べられる。
「ふははっ。そう言った考え方は悪くない。最悪を避けて生きるだけだと直面した時に対応が出来ないことを踏まえて経験して置くと今後に活かされるって話だね? それなら俺は止めないよ」
「ありがとうございます。それと気を遣ってもらえることは感謝でいっぱいです。だから、今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。生還を期待しているよ?」
それだけ会話が交わせた後で俺は健也さんと別れた。健也さんが出て行かれたことを確認した後は今回の依頼が遂行できるような攻略法を探す。これを積み上げて行くと人生に花が咲いてくれると考えた。
そして依頼実行の当日。標的が潜むアジトが明かされた後で俺は護衛を付けた車で到着を目指す。この一件は俺が一人で片付ける予定だから侵入した後から引き返すことは出来ない。
それを踏まえて車内にいる間は精神を安定させる時間として扱った。事前準備は整えて来たから戦闘中に不備が生じるはずがないと依頼人が見送ってくれた件で大きく遂行を確実に果たしたい。
「着きました。ここが例のアジトです」
「ありがとう。しばらくは外に出れないだろう。もし、無理だと判断した時はスマホに連絡する」
「了解です。各地で我々の部隊が配置されているので、いつでも出動要請をお願いします」
「任せろ」
俺は早速車から降りてアジトを目指す。目前に広がる光景は普通の工場にしか見えない印象が受けられた。
しかし、調査の結果だと工場と認識することは誤っていると判断が下される。工場だと思い込まさせて本来の活動が隠れるように仕組まれた組織なんだろう。今から壊滅させるために乗り込んで行くが、今回は単独で行動を起こす点は少し心配要素はあった。その上で俺が複数を相手して一人の術師が倒せるのか分からない輩が多いと予測した。
(この壁をぶち抜いて突入が最適だと聞いた。きっと情報に間違いはないと思われるけど、実際にアジト攻略は難易度が高いことが見込まれる。取り敢えずアジト内の術師を全員倒して組織を潰す目的は変わらないと思う。ここで我々が派遣した内容は秘密処理されているなぁ……。やっぱり、術師は日頃の鍛錬で獲得した成果を挙げて目立ちたい気持ちでも抑えながら扱えれば問題がないかも知れない)
俺は深呼吸してから軽い技を打ち込ませれもらった。大した霊力出量でもない【暗閃烈拳】が壁をぶち破って穴が空いた。俺はそこを通過して中に侵入する。
(侵入成功。後は中の奴らを殲滅するだけだな? この依頼で見出せた成果が実力と見ても過言じゃない。だから、絶対に遂行させる……!)
俺は決意を胸に抱いてから先に歩みを進める。二階に着くまでは出来るだけ敵と遭遇したくないと思いながら階段を探す。
そして俺が階段の位置を見付けると、一気に駆け上がって行く。
意外と侵入されても気付かれていないことが奇跡のようだった。認知が遅れて相手の行動が未だに始まることがなかった。
(これだと今回は簡単に遂行できそうだ。これを健也さんは遂行が難しいなんて予想してなかったでしょうね?)
すると、駆け上がっていた途中で脳裏に少し先の光景と敵が映った。脳内が映し出した光景と敵はスタンバイしているように見える。
(可笑しい。脳裏が映した様子は何だ? これもお父さんの持つ異術なのか?)
一旦階段を上がる足を停止させる。俺は脳内に流れ込む天力を感じ取って天術だと理解した。まだお父さんが扱える異術を全て教えてもらった訳じゃない。なら、現状で開花した天術は今から活用しても良いと思った。
俺が唐突に開花させた天術がもたらす効果は相手の位置を特定することかも知れない。特定した位置は脳内で可視する効果だと分析して今に活かす決意を固める。
(階段から上がり終わった先に四人が待ち伏せしているのか? すでに侵入したことが分かって配置に着いたんだな? ならば、敵が襲撃して来たところを返り討つ形で倒して行くしかない!)
そんな決意を抱いてかtら一気に階段を駆け上がった。すでに相手の配置は割れている。襲撃のタイミングが分かり切っているなら反撃は容易いことだろう。
駆け上がって行った先で待ち伏せした敵が配置されているところに差し掛かる寸前まで来た。そして敵から姿を現したところで反撃を開始する。
「引っ掛かってなぁ!」
(来た!)
俺は一斉に襲って来る敵を一瞬で見分けて反撃した。先に出て来た奴から即座に殴り掛かる。一人目の攻撃を回避して腹部を目掛けて拳を打ち込む。迷わないで撃ち込まれた一撃はそれなりの威力を誇って直撃した。強烈な一撃を受けた敵は崩れ落ちて行く。
「これは都合が良いかも知れないな?」
「ふざけんなぁぁぁあああ!」
「来ると分かっていればそこまで怖くない」
今度は刀を振るって来たが、修行で習得した防御策を駆使する。腕に黒い閃光を収束させて受ける。腕が帯びた黒い閃光が刀に触れた一瞬で思いっきり弾ける。刀が弾けて態勢を崩した敵を止まらない流れで殴る。すでに防御した時の黒い閃光は解いてから流れを殺さない勢いで顔面を拳が捉えた。
「はぁっ!」
「ぶはっ⁉」
(これで二人目を撃破。残る二人で突破が完了する)
そうやって意識を残った奴に向けると今度は二人で同時に攻撃を仕掛けて来た。
実際に俺は修行で霊具の活用を戦闘に取り入れる方針が取られていた。それを試して見ようと小指に付けた指輪を意識する。施した意識が霊力を指輪に注がれて効果が発動して敵を倒す。
「潰れろ!」
「ぐぁぁぁあああ⁉」
「これは強力だよな? 接近して来た敵に重力を加える霊具だ。警戒しないで近付かれると使いやすくて助かるわ」
これで待ち伏せしていた四人は倒した。取り敢えず前進する前に天術で状況確認を施して置いた。どうやら敵が撃破されたことが知られて次が迫っている。こちらも進んで行って敵と接触する寸前に迫った時が戦闘準備を整えるタイミングだと決めた。
「行くか?」
俺は目的達成を果たすために前進した。こらから組織を壊滅させないと依頼は失敗となる。それは俺の実力が試される瞬間だと心得ている。だから、今回は失敗することは出来ない。
そして走って身体を進めた先で再び待ち伏せる敵が潜んでいることが分かった。それを停止しないで突き抜けると見せ掛けて返り討ちにする。
(もし、敵を過ぎたところを狙うなら一瞬で切り替えて撃破するしかない。それが失敗した時は派手に相手するししてやる……!)
徐々に敵と近付いて行く。距離が詰められる中で俺はすでに戦闘準備を整えていた。
そんな俺に敵が襲撃を始める。次は十二人が配置して俺を待機する姿が見えている時点で返り討ちは可能である。
「来やがったなぁ!」
「前の四人を突破したようだな! それなら俺たちが今から倒してやるよ!」
「現れたな?」
即座に現れた敵が施した攻撃を回避する。これぐらいは大して難しい話でもない。回避した後は速やかに反撃して撃破する。このレベルが相手で幸運だった気がするけど、手応えがなくて成長が促せないかも知れない。
「取り敢えず倒すか?」
「ぐぁっ⁉︎」
「ふんっ!」
「ぶぁっ⁉︎」
敵を纏めて二人とも殴って気絶させた。他は姿を晒しているが、攻めて来る様子が窺えない。そうなると俺から攻める必要性が生じる。
「来ないなら俺が行くぞ?」
「来いよ! ただ突っ込んで行けば倒せる相手じゃないことぐらいは分かったんでね?」
「どの道でも結果は変わらないけど、俺は全滅させる他に目的はない……!」
遠距離から霊力出量を最小限に抑えて技を発動させる。それは一本通路の横幅がギリギリを狙って黒い閃光が球体として収束する。これで霊力は大して消費していない。これが最大出力で放たれた場合は黒い閃光の球体が通過した箇所は消し去る威力だった。
「行くよ?」
球体を収束した後で敵に向けて放つ。それは避けられる訳がない規模を誇る。これを攻略した奴は殆んどがいないはずだった。そんな技を放って見せる。
「暗閃射球ぅ!」
今回の技は大した出力を伴わない分だけ威力は低下するが、それでも触れた物体を弾く性質を活用するなら十分とも言える。隙間から逃げることは出来ない。つまり、正面から打ち消すか引き返して走る他は手段はない。こんな局面に遭遇する奴が抱いた気持ちは理解不能だった。
「さぁ、どう攻略する!」
それが解き放たれた瞬間に大半は反対方向を走って戻る。しかし、今の技は形状と直撃した時の威力を保持する時間が長い。何故なら長時間は保持させるための修行を積み上げて来たから逆に強いでしかない。
ちなみに【暗閃射球】は解き放つ時の勢い加減で速度が調節できる。今回は早くも遅くもない速度を実現させて放った。これを避け切るなんて凄く難しいことは味わってみれば分かる。
黒い閃光が収束されて出来た球体は一方通行に突き進んで行き、随分と遠くまで形を保ちながら周辺を削った。これから逃れた奴は一人もいないことを天術で確認して再び走り出す。
(これなら依頼を遂行させるなんて簡単すぎる。取り敢えずアジト内を隅から倒して回る。それで一日が過ぎる前に終わりたい)
一人で一直線に前進する。天術が相手の位置を特定してくれるから待ち伏せを強く警戒することはなかった。
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