第4話「突然の依頼」
俺は今日の修行を終えて美兎が風呂を上がるタイミングを待つ。その間で少し勉強に身を置いて過ごしている時にうちの幹部でもある冬里雪姫さんが部屋を訪れる。
雪姫さんの訪問は予定されていなかったはずだと思って現れた理由を聞いてみると彼女が出した答えは非常に重要性の高い内容だった。
「実は星楽様から伝言を授かってきました。今回は楽典様に遂行して頂きたいとご依頼を受けています。どうか聞き届けてください」
「わざわざありがとうございます。ご用件の方をお聞きしましょう」
「では、話させてもらいます。今度のご用件は少しハードでございますが、貴方様なら遂行できると考えて授けたいと願えている次第です」
そんな感じで畏まりながら雪姫は話を始めた。雪姫と対話した回数は限られているが、普段から敬語を駆使して俺と意見を交えた仲である。
彼女が位置するのは現在の【楽導天星会】が誇る第三部隊の幹部だと聞いている。実際に雪姫が扱う異術は【氷冷術】と呼ばれる瞬時に周辺を凍らせてしまうほどの冷気が発散させられる術師だった。根本的に冷気は体内を流れる霊力が発生を促して当てられたものは全て凍らせられる異術だと教えて頂いた。雪姫に起こせる冷気を溶かせる者は現代にいないとまで噂される始末だった。
「私のご通達したいお話は群馬県に位置する霊山の調査です。そこで最近になって行方不明者が続出していると噂が広まって危険性が見込まれる場所に指定されました。その霊山は最近だと呪術信仰を主とする宗教団体が出入りしていると証言があって向かって欲しいと星楽様が決めらたのでございます。修行を始めて四ヶ月が経過した今なら調査は可能だと星楽様のご判断が下されたのです」
「俺が一人で行くんですか?」
「付き添いは誰を誘っても問題ないです。しかし、死者が出ると星楽様が責任を取ることになるのは確かでしょう。だから、連れて行くならくれぐれも死なせないことが絶対条件です」
「それなら美兎を連れて行くか迷いますね? さすがに美兎は同行するって聞かないと思います。美兎だと初対面の頃は俺が負けていたから同行は無理して来る他の選択肢は受け付けないでしょう。どうすれば良いですか?」
「それなら内密にしましょう。本件が知らなければ付いて行けないと思います」
「それが良いでしょうね? それじゃあよろしく——」
「——群馬県の霊山で起こる事件の解決なら私も行きますよ? やっぱり、置いて行かれるなんて無理があるんですよね?」
「——あ」
いつの間にか背後に立って話が聞かれている状態が知られてしまっていた。そこで一瞬だけ俺が怪訝そうな顔を見せると美兎は笑顔を浮かべながら当然の一言を発する。それは俺の意識して背けたかった特に美兎が言って欲しくない事態を招く内容が含まれている。
「私もご一緒しますよ?」
「無理だ。頼むからお前は付いて来ないで欲しいんだけど?」
「そっちが無理です。私が行かないで貴方様だけご依頼の遂行に向かわれるのは少し困ります。私は貴方様の許嫁なんですから責任を持って同行したいです」
「そんな勝手を通さないでくれないか?」
「それを聞かないといけない義理はありません」
そうやってどう言い聞かせようとしても美兎は一歩も退く姿勢を見せない。実際に美兎が偽って連れて行かないように仕向けても他を頼って目的地が探られるしか道はないと思えて彼女を置き去ることは出来ないかも知れない苦渋の決断を迫られる。そこで雪姫が呆れた表情で俺たちに良い提案を授けてくれる。
「そこまで言うなら私が同行するで良いんじゃないでしょうか? 私は【楽導天星会】の中でも幹部に値する術師です。私の同行が可能であれば二人を阻む死から遠ざけても良いんですが?」
「え? それは雪姫の都合が悪いですよね? 雪姫は率いている部隊を離れても問題ない時間帯は限られていたはずでしょ?」
「はい。しかし、臨時休暇を頂ければ護衛に付いて同行することは不可能とも言えません。どうですか?」
雪姫の持ち掛けた提案は非常にシンプルだった。やはり、雪姫に言えることは本来の活動場所でもある【楽導天星会】を一時的に抜ける必要性が迫られる。それが大きな問題を起こした場合の代償は安易に対処できるとも言えない。そこも考慮した上で雪姫の同行はない方が良いと判断している。
「助かる提案ですけど、さすがにお父さんは了承しないと思います。雪姫がいるだけで修行の成果を出すことに困難を強いてしまう恐れがある点を無視できません」
「だから、ピンチに陥った時を見計らって援護に回るつもりです。それが迎えられなかった場合は一切の援護を了承しない約束を交わしましょう」
「大丈夫か? 実際に手が出た時の罰則は覚悟しないと駄目ですよ?」
俺が特に問題の生じた場合を予測して起こり得る可能性を提示する。それは確実にないと言い切れない可能性に満ちた事態が考えられる点に不安要素が強いから同行に反対する意思を見せている。雪姫の存在は実に助かる話だが、厳密に言わせてもらうと歴然と分かる範疇で止めた方が良い理由が見出せる。だから、雪姫の同行が可能になるなんてことの実現は率直に止めて欲しい。
「楽典様のために罰則が下される事態に陥っても問題ないです。私は全て捧げて楽典様をお守りしたいから言わせてもらっています」
「本職は部隊の幹部である以上はそこまで削れてしまうリスクを背負って違う依頼に挑むことは心配で仕方がないんです。俺が雪姫さんを救えなかった時の傷を負うぐらいなら来てくれない選択をさせるべきだと思います。後悔はしたくないんですよ。だから、大人しく同行を諦めてください」
「承知したくない気持ちは少なくとも私の心配が起こした一心でしょう。だから、同行の許可が欲しいんです。そこで貴方様が危険に遭わない方法は主に傍で見守る係の担当が出た時が一番の効率なんですよね? 違いますか?」
「効率を考えるのは分かりますけど……」
引き下がらない雪姫に対する対応を考えていた時に俺は苦心が及んで認めたくなかったところを了承してしまう。その理由はあの雪姫さんが死ぬなんてあり得ない話でもあるところが一応同行させた時の保証かも知れないと考えた。だから、問題なのは部隊を休めるのか分からない点が生じた。
「それじゃあ可能であればお願います」
「分かりました。星楽様の方にはこちらで伝えたいと思いますのでよろしくお願いさせて頂きます」
「こちらこそ」
そんな意見が纏まった時点で少し肩の荷が降りた。実際は俺たちだけで解決するべき点に雪姫の介入が理由で絶命の危機は訪れないと考えていた。しかし、当件の責任は全部お父さんが担う予定でいるが故に実際の決定が下される時になって場は申告を極めた。
「はぁ? ふざけんな。幹部のお前が楽典さまの依頼に同行するなど必要ない。お前が前回の任務で失態を犯したことを忘れたんじゃないよな?」
「正直あの時は体調不良でも派遣を強制されたことが理由だ。その状況を作ったのは貴方でしょ?」
「どこの口が聞いてんだよ? この場で殺されたいか?」
「殺したければどうぞ? その殺意が実行に移された時の代償は大きく貴方たちが悔いる理由を作りますからね?」
「ほう? 面白いことを言うな?」
冷めた空気を漂わせていた理由は大きく他の部隊で頂点に立つうちでも一人の幹部が雪姫の同行を不要と見て否定している現状が窺えるからだった。実際に二人は雪姫と大差のない実力を有するが、その関係性に生じる闘争心が普段から不仲となる理由として挙げられる。お父さんは別に大して関心を抱かないようであるが、俺はもっと仲良くしてもらった方が良いと思ってしまう。
そこで俺が三人の話に割って入る行動を起こした。それを見た二人が驚愕する様子も窺わせない反応を見せた。
「失礼ですが、彼女の同行は俺からお願いしたい一件です。どうか三人で口論になるようなことは止して頂きたいと思います」
「楽典殿? そんな腑抜けを庇うなんて心優しい。少し面が良くて己の身を買うてしまう卑猥な女に着くと星楽様が落ち込まれますぞ?」
「その一言は取り下げてくれませんか? 俺の侵害に当たります」
「これは失敬しました。しかし、悪気を持って発言した訳でもなくて貴方様の印象に傷が付かないように配慮して参ったまでにあります」
「配慮しようとする意志は嬉しく思いますが、それでも雪姫さんに対して侮辱を投げ掛ける発言は控えて欲しいです」
俺は真っ向から睨みながら幹部の一頭でもある炎嶽正武さんに揺るぎない発言を表ずる。この時に正武さんの見せた反応は落ち着いて動じないような不屈を思わせる瞳で視線を合わせて来る様子が窺える。彼の視線に敵意はなくて反逆の余地すら思わせない雰囲気と口調が俺を逆に戦慄させる。けど、それで食い下がっていられる立場じゃないが故に態度は堂々と正面から向かって行く印象を与えた。
(やっぱ最初から反対に回られると簡単に了承してもらえる訳もないか? しかし、雪姫さんが侮辱されることだけは引き下がれない……! とにかく動揺は見せられないな)
そこで俺が悩みながら正武と対峙する一面を迎えて苦心を強いられる状況が窺えた一線で高らかに上げられた笑い声が俺たちのいる場所に大きく響いて堂々たる様子の滲み出る圧が内心に直撃するような衝撃を与える。
「はーっはっはっは! どうやら楽典殿は雪姫がお好きのようじゃのう? それは真誠に感心する他の一言も出ませんな?」
「仲介役の式澤守利殿か? どうしてこちらにいらっしゃるんです? 今日は休日でしょ?」
「ワシの休日は大いに生い先の短い人生をどれだけ有意義に過ごせるかが問題じゃ。そこでワシが散歩のつもりで現れたことに一切の文句を通すことは許さん!」
「はいはい。その様子だとまだ三十年は生きられるだろ。全く騒がしい奴だ」
(相変わらず元気が有り余っているお人だ。しかし、現状の仲介に丁度良い人材が来てくれたな。ここは雪姫さんの同行を許してもらえるように言ってみようか?)
「こんにちは! 守利さんは今日も元気みたいで何よりです」
「おお~! 楽典殿ぉ! どうも誠実な挨拶をありがとうございます。ところで何を張り詰めている感じを漂わせているじゃのう? ワシにも聞かせてくれないか?」
「貴方の出る幕にも思えないが、話せないことはないだろう。今は楽典殿がお受けした依頼に雪姫が同行することの抗議中だ。どう思った方が上手く話を進められると考える?」
正武さんの質問が守利さんに投げ掛けられた。それに守利さんは本来の役職を踏まえながら俺たちが判断して行く上で問題点と解決策を提示した。
「今回の一件で求められているのは楽典殿が望まれた通りにすれば良いだろう。正武の方針を聞き入れる必要性はなくても問題ない。それにまだ四ヶ月間の修行しか積めていない現状で雪姫が同行することで安全性が高まるなら星楽様の了承は得られるに違いない。そこまで雪姫殿が信用できない訳でもない以上は同行を不要と決める権利は正武にない」
「さすが式澤仲介役。そのご判断は凄く良いと思われる」
「はぁ。それで良いなら俺は止めないが、星楽様の評判が落ちる結果を招いた場合の後悔は深いだろう。それでも同行させるなら俺から言えることはない」
「ありがとうございます」
「それじゃあ決定だ。後は星楽様に伝えて了承が得られた時は同行で決まりだな。楽典様は了承を得るまでは自分でやると良いですが、どんな返事が来るか分からないと思った方が心の負担も減るでしょう。自分たちで決めたことに後悔して嘆く行いは避けてください。見苦しくてしょうがないと思う他ないのが現実だと噛み締めると良いと思います。俺からは以上です。仕事に戻りたいから残った用事は任せました」
「本当にありがとうございます。この件を了承してくれたことは非常に感謝します」
「そんなに感謝されることでもないです。これも楽典様と今後の関係性を築き上げるためでもあります。これからも【楽導天星楽】が栄えて行くための道を踏み締めて我々を導いてください」
「その期待に応えられるだけの術師になります。いつかお父さんのように率いることが出来る術師として先頭に立って見せたいです」
「頑張ってください」
そんな風に正武さんの前で将来を語る姿が見せられた。実際に正武さんは最初の否定が直球で雪姫さんを見下していた感じだが、ちゃんと俺の時は誠実に敬意を表す姿を目撃させた。その点を踏まえると大きく目上の存在に対する態度を弁えることは良く理解している人物になる。それは雪姫さんの場合も同じで二人は同列の存在と対立関係して競争する意思が目立つところが今の地位よりも上がりたいと願う一心が分かる。現段階だと三部隊の幹部は同列に扱われている点が三者の競争意識を際立たせる理由の一つであると初めて存在が知れた時に守利さんから聞かされていた。あの瞬間で三者が口論になっていた姿を目撃してそれぞれが抱く敵意を感じた。三者は己が他の幹部と同列で扱われた時の悔しい一心を表情に出して同じ地位が与えられたことが理由で内心に抱かれた闘争心とプライドが競争意識の確立を誘ったらしい。
今日の話が交わされた時の俺は正武さんが否定して来る事実に驚愕する以外の反応が現れたことはなかった。焦っては否定した理由を尋ねて
(さすがに今日の提案は焦らされる一方で二人が口論を起こした時は困ったなぁ。もっと仲良くしてもらいたいけど、二人は同列に並ぶ他の幹部を嫌っている。そこは今後の向上にも影響するから良いと思える点は十分にあると考えられる。しかし、それが目前で起きてしまった場合の対処が困ることは確かだ。あれを三者で仲良く解決させられたなら釣り合いが取れてとても関係性が安定するはずだと思う。やはり、その実現は難しい話かも知れないのは言われるまでもない)
内心で幹部たちの現状をどうにか変えたいと一心を叶える方法を思考したが、解決策は見出せることは難しくて答えは簡単に言い表せなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます