第3話「お父さんの弟子」

 俺は美兎が提示した方針を取り入れて普段の修行は全て改善された。まずは起床と朝食を取る時間を早めて修行に長く組み込めるように調整した。このお陰で俺の修行時間は増えて鍛えるために必要となる間が延びたことは確かだと言える。だから、俺は延長された時間の幅だけ修行に取り組ませてもらった。


「最近は特に修行が有意義に思える。これも時間が増えたから身を置けることに凄い費やせるのが大きく影響していると思う」

「私は大したことはしてないよ。根本的に貴方様が起床時間を早められるだけのことが出来るから成立する訳じゃないかな? つまり、本来の目的を達成させる力があるから出来たこと何だよね? そこは楽典くんの賜物でしょ?」

「そんなことはない。もし、出来なかったら少しずつやらせるつもりだったと思うところがあるんだよ。だから、そこまで変わらないだろ」

「そうかなぁ〜?」


 五分間の休憩を挟んで息を整えた俺たちは日々の修行に身を費やして本来の家業が継げる状況を作り出す。本来はお互いに中学校で勉強しながら修行するはずが、家庭の事情が登校しなくても良いと判断されて専門的に取り組めている。実際に俺たちは週末だけ修行を休んで勉強する日が設けられていた。そこで学習して通常の中学生と学力に大した差を付けさせない方針が取られているのだ。

 実際は勉強にそこまで苦痛を感じることはなかった。その感覚で勉強は進められて行くので俺たちの学習能力は低いと言わせない結果が出せている。だから、必要以上の修行期間を削るなんてことが許される瞬間などは皆無と言えた。


「楽典くんの異術は凄いね? 黒い光は触れると弾けるから拳に収束させて殴れば打撃と共にダメージが加えられる。それを身体にも収束してしまえば相手が来る攻撃を弾くことが可能だよ!」

「けど、それは瞬時に行う必要がある。何故なら常に身体を覆うだけの霊力を消費しながら攻撃する時の媒体となる拳にも同じことを施すなんて許容オーバーだからな」

「なら、即座に判断して身体が守れる手段を作ってあげれば問題ない。拳と身体の収束をベストタイミングで行えるのは最小限の消費減少に繋がるからね!」


 最近の修行でお互いが駆使する異術を効率よく扱う方法を探してスムーズに実行させる術を研究した。これが今後に活かされることは確かだと言えるはずだと確信を得ている俺の下にお父さんから通達が届く。


「今度の水曜日は午前だけ修行を空けて欲しいか? お父さんの指定した人物と会って話して来るって言う内容らしい」

「なるほど。きっと重要だから行かないとまずよね? これは絶対に行った方が良い」


 美兎の意見にも一理ある。それは俺の方も考えていたことだった。やはり、お父さんが手配した話なら必ず意味があると考えるのが普通だろう。なら、今回も修行時間が潰れるけど、会う他に選択肢はないと思った方が利口である。


「取り敢えず予定を空けて置けば良いんだろ? お父さんの申し出を断るなんて出来ないからな」


 朝食後の歯磨きを終えてお父さんから来ていた話に対して呟いた。その時は偶然にも俺だけしかいなくて美兎はと俺に立っていた。美兎なら歯磨きで時間を掛けるようなことはしないと普段から見て来た中で判断できる点を俺は知っている。だから、美兎が戻る前に俺だけ一人で修行場に向かった。


 後から美兎も合流して修行は始まった。先に行ってしまっことに対する文句を言われる気配がない時点で大きく不満を持たれている訳でもないと判断した。それ以上に普段は俺が遅れた時は置いて行かれていたから今日は俺が実行する立場でも可笑しくはない。それをお互いが了承しているから何も言わないでも通じる話だった。


 そして約束した通りの日付を迎える。俺は美兎と歯磨きの後で別れた。美兎は特に予定の変更がないからいつもと変わらない修行に入る。俺は着替える必要性があるので部屋に戻って来て服の準備を始める。服装は自分で選ぶ癖を付けるように言われていたから人と会う約束を果たす時は凄い考えて不備のないように努めた。


 時間に遅れないペースで向かった先はスタバだった。相手が大のコーヒー好きだと聞いて選ばせてもらった場所である。俺もコーヒーは好きで週末の勉強は飲みながら真剣に取り組む姿勢を見せていた。最近はコーヒーを入れる技術が身に付けたちから使用人の介入は控えさせている。その分だけ俺はコーヒーの作る技術が向上してとても美味しい奴が飲めていることは確かだった。


(時間よりも早い到着だから待たせることはない。相手は写真で確認しているから見掛ければすぐに自分の場所が伝えられる。後は内容を聞く態度に気を付ける必要性が問われるだろう)


 そんな風に思考を巡らせて時が来た。しかし、そいつの気配は恐ろしく感じられなくて背後に立っていたことに気付かなかった。


「やぁ? どうやら考え事をしているようで悪いけど、いい加減に気付いてくれると助かるね? 安藤楽典くん」

「——はっ!? き、来ていたんですか!?」

「もう背後で待機して五分は経過したかな? 駄目だよ? どんな時でも術師は気配が読めないと背後から殺されるかも知れない。それに備えて危機感を持って常に敵の出現を予測することが死を遠ざける鍵なんだから」

「ま、誠にすいません! まだ修行に身を置いたばかりなもので!」

「ふむ。聞いていた話は本当だったんだね?」


 そうやって聞かされた話が本当であったような口ぶりで俺の正面に来て座った。彼は五分の経過を終えるまで俺の背後を取って待ち続けたと気付いた時に恐ろしい人だと認識が抱かれた。


(気配なんて感じなかった。まさに忍者みたいなお方だな?)


 そんな感じで俺は初対面でもある彼の登場に驚愕する結果を迎えた。それは彼から言わせて致命的で術師にとって不測の事態だと示した。実際に相手の気配を読んで行動することはお父さんから言われた時を思い出す瞬間に立ち会えたようで凄く関心が強まった。後は話を聞いてどんな人か確かめる必要性を見出す。


「ここで自己紹介をさせてもらう。私の名前は伊神健也と言う者だ。君と同じ術師の家系に生まれた」

「どうも初めまして。安藤楽典です。お父さんに言われて今日はお話を伺って参るように指示を受けて来ました。今回はよろしくお願いします」

「よろしく」


 初対面の俺に対する態度はとても丁寧で落ち着きのある印象を与えた。これがお父さんと深い関係を築いたお方なんだと思わされてしまう。さすがにお父さんが言っていた話ではうちと密接な関係にある家系の長男で一時期は修行を見てあげていた弟子みたいだ。お父さんの育て上げた術師なら実力も相当に至るはずだと強く思わされる。その瞬間は非常に緊張感を高めるような存在感を漂わせえていた。


「今日の待ち合わせ場所はそちらが気を利かせて選択してもらって凄く感謝の気持ちでいっぱいだ。今後ともよろしくお願いできると非常に助かるよ」

「いいえ。待ち合わせ場所の選択は父の使命だったので俺は何も出来ていません。感謝するなら父に申し上げてください」

「師匠も相変わらずと言えるお人柄だ。非常に何よりで安心した」


 健也さんが口にした言葉でお父さんの人柄が少しだけ分かった気がする。あまり話したことがないお父さんを知らない情報で埋め尽くされている現状は俺の迷いが生じる理由の一つとしても過言じゃない。しかし、それでもお父さんが立派で誇り高いことは信用の一線を超える一心が俺に抱かれている。初めて会った時の感覚はお父さんの威厳を強く持たされるぐらいの存在感を漂わせて俺を翻弄した事実は今でも尊敬に値すると心から思っていた。


「それじゃあ本題に入るとしよう。今回の話を進める上で出題したい内容は大きく幾つかある。しっかり聞いてくれたまえ」

「はい」


 真剣に聞く態度を取ると俺を正面に向けて話された内容は必要と思われる分を判断して取り入れる手法で健也さんと対峙した。冷静に語られる話が溢れて望まれた結果と違う事態を招いてしまうことは避けたい。確実に本来の話をちゃんと聞けた上で目的を達成させる形を取るのが基本だと考えながら遂行に当たることを目指す方針を決意する。


「一つ目は安藤家と合同で活動に取り組みたいと考えた結果として同盟を果たす提案がある。それに対する正式な決定は師匠の判断で構わないが、取り敢えず君と意見を交えてから切り出す方針にしたい。同盟が成立した後はお互いの組織拡大を目指す計画を会議で話し合う形で連携を取ると言う提案に賛否を尋ねたいのだ。その決定が今後の我々に大きく影響するならば賛否の判断に一声を掛けてもらえると良いかも知れない」

「俺だけが決め手となる瞬間は凄い責任が重いです。それと後で父の口から聞かれる言葉が俺を咎めていたなんて結果はない方が好ましいでしょう。その場合だと自分から提示した方が適切じゃないですか?」


 俺が言いたいことは今回の面会で話し合われた内容に関する情報は自身で提示して賛否を決めてもらう方に意見が寄る傾向を辿っている。今は俺よりもお父さんの意見を直接聞いて置いた時に得られる確信は相応の結果が出ると期待して待ち侘びたい。その方が主に責任の重みが軽減されて俺は楽である。

 すると、そんな意見の中で健也さんはもう一歩の踏み込みが見られる。それは俺の意見を大きく揺るがす鍵を握る発言が下される。


「不安が募って断る気でいるのは構わない。けど、それは君が考えた中で意義がなくて師匠にも話せる内容であることが最低条件に添えよう。だから、この話を師匠に持ち掛けるなら本人が聞かせた時の賛成率が強い場合を想定して判断してくれないか?」

「は、はぁ……?」


 いきなり持ち出された話は俺の判断で賛成を勝ち取れることの確信があった時は伝えて欲しいと言うのだ。今後の立場が問われる提案を俺だけの判決が左右されるが、問題ない保証は自身の思考で捉えた方の選択で構わないらしい。


「それを言われると迷いますねぇ。同盟が結ばれた時のメリットが大きいことは確かだと言えるんです。けど、万が一の確率で反対を示された場合を避けたいと希望されると判断に自信が持てません。そこはご自身で決めるだと駄目ですか?」

「そこまで言うなら一つ目の話は保留としよう。それだけは俺の方から持ち掛けて了承を得たいと思う。後は残りの話を聞いて欲しい」

「分かりました」


 こうして話は続いて健也さんと一時間を費やして今回は終了する。慣れない相談を受ける側に立つ経験が積めて自分の立場が如何に重要であるのか思い知らされた瞬間を味わえた。健也さんの分かりやすい話が今後の自分に大きく影響する時が来ることで適切に判断して動かないと次期当主は務まらないと思って今の段階で積める経験は受けたかった。


「それでは失礼するよ。今日はありがとう。凄く良い対応だったから次回も期待している」

「どうも。こちらこそありがとうございます」


 そんな感じで別れた後で俺は走って帰宅した。せめて修行が削れた分は取り戻したいと全力で走る選択を決めて帰宅する。家に到着した頃の自分は体力を消費しているようだが、実際に満足するだけの運動が出来た訳じゃない。その点に関することは取り敢えず後の修行で巻き返す意識を持った。


「ただいま」

「あっ! お帰りなさい! どうだったかな? お父様が組まれた話し合いは順調に進められたの?」


「取り敢えず幾つか相談に乗る形で話は聞かせてもらった。凄い真面目そうで実はお父さんの弟子だったらしい」

「へぇ~? 凄いじゃん!」

「今は休憩時間か?」

「うん! 貴方様がいなくてもちゃんと一人で修行に取り組んでいたから大丈夫だよ!」

「それは良かった。ま、お前がサボるなんてあり得ないわ」


 美兎のお出迎えを受けた俺は普段と同じように修行が積めていた彼女の様が聞けて安心した。やはり、一人だからと言って修行を怠るような人間じゃないと分かっていた俺の内心で美兎を疑うことなどはしなかった。ただ、怠ってしまった分の結果は後で返って来るのが当然の話である。如何に時間が有効だと思えるのか問われる仕事を受け持った俺たちに必須とも言える努力は修行が一番の基礎になると考えている。だから、そこをどれだけ全うして行けるかで術師の価値は定められる。

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