龍馬の帰りを待っている、ソラシネ・ソーラ・昇太郎の周りでは、時間だけが重苦しく時を刻んで行った。誰ひとりとして口を利く者はいなかった。

『どうしたのかしら、こんなに遅くなるなんて…、龍馬さまは…』

 ついに、居た堪れなくなったのか、ソーラが最初に口を開いた。

『なーに、心配することはないさ。きっと、神仙大師さまに引き留められているのじゃないのかな…。大師さまは龍馬さんのことを、偉く気に入ってみたいだから、きっとそうだよ』

『それにしては、あまりにも遅過ぎるとは思いませぬか…。昇太郎さま。いかに神仙大師さまとは云われましても、これではソラシネがあまりにも可哀そう過ぎます』

『いえ…、わたくしは何もそのような…』

 ソラシネは、また頬を薄っすらと赤らめていた。

『とにかく、もう少し待ってみよう。そのうち帰ってくるかも知れないから…』

『それにしても遅いですわね…。龍馬さまは』

『心配いらないって、龍馬さんはぼくなんかよりも、ずっと優れたりっぱな精神体なんだから』

すると、その時どこかで『ハァックション…』という、クシャミがしたかと思うとドタドタという足音が聞こえてきた。

『いま帰ったぜよ。ごめん、ごめん。待たせてしもうて、すっか遅くなっちしもうたきに。いま誰ぞ、わしの悪口ば云うとらんかったか…』

龍馬が大きな酒壺を抱えて現れた。

『どうしたんですか。龍馬さん、その酒壺は……』

『これか…、これはな。神仙大師さんが、おまんとふたりで飲めと呉れてよこしたもんじゃ』

『それはともかくとして、龍馬さんはいままで何をしていたんですか。こんなに遅くなるまで…』

『何もしとりゃせんよ。ただ神仙大師大先生さまから、いろいろと教えをば乞うていただけやき、それでこんなに遅くなってしもうたとよ。どれ、それじゃあ、せっかく頂いてきたんじゃき、さっそくご馳になろうかのう』

 龍馬は酒壺を燭台の上に置くと、懐から茶碗をふたつ取り出すと、ひとつを昇太郎に渡すと酒を注いでやった。ソラシネが龍馬の側に寄って行くと、黙って酒壺を受け取ると龍馬にも注いでやるとニッコリ微笑んだ。

『おお、すまんのう。ソラシネ、おまんのこともすっかり待たせてしも打て、まっことすまんのう』

『ところで、龍馬さま。精神大師さまとは、どのようなお話をなされてきたのでございますか…』

ソーラは一番気になっていたことを訊ねた。

『そうですよ、龍馬さん。ぼくも、そのことが気になっていたんですけど、一体どんなことを教わって来たんですか…』

『うむ…、そのことなんだがな。大先生はわしに孫悟空の「斉天大聖」に准ずる「斉天大将」の称号をやるというんじゃ…』

『まあ…』

『それで…、受けたんでしょう、龍馬さん…』

 ソーラも昇太郎も心配そうに訊いた。

『いんや、わしは龍じゃき、猿の称号をなんぞいらんと断ってやった』

『まあ、なんという恐れ多いことを…』

『そうですよ。せっかく呉れるというのにもったいない…』

 ふたりとも、ほとんど無欲に近い龍馬を見て、呆れたよ口調で言った。

『わしは、どうも肩書は好かんき、そんなもんはいらんと再三断ったんじゃが、大先生曰く、持っていても邪魔にはなるものでもあるまい。取っておくがよい。と云われれば断るわけにもいかなくなって、ついもろうて来てしまもうたき。が、そこからが大変だったんじゃ。わしは頼みもしないのに、あの大先生さまは次から次へと法力って云うのんか…。それこそ、聞いておってもさっぱり判らんきに、わしゃあ、黙って聞きいとったんだが最後に大先生はこう云われた。

「その方には、わしが話しておることは即座には解かるまいが、心して聞くがよいぞ。何れその方が窮地に経った折には、必ずやこれらの法力が、その方がを救うことになるであろう。龍馬よ。このことは努々(ゆめゆめ)忘れることなかれ…」

 と、いうわけでのう。ついつい遅くなっちしもうたのよ。みっちり扱(しご)かれたき、すっかりだれてしまったぜよ』

 そういいながら、龍馬は茶碗に注がれた酒をひと息に飲み干した。

『クー、これは旨か酒ぞね。昇太郎さんも早う飲んで見んしゃい』

 昇太郎も龍馬につられてひと口含んだ。すると、何ともいえない芳醇な香りが口いっぱいに広がって行った。

『なんて酒だ…。これは…、こんなにうまい酒は飲んだことがない…。それにしても、この深みのあるうまさは何だろう…』

 昇太郎はいくら考えても解からなかった。それは解からないのが当然だった。これは、後で知ったことなのだが、いま龍馬と昇太郎が飲んでいる酒こそ、天帝たちが祝宴の時にのみ飲む、特別な酒だということだった。

『ところで、龍馬さん。神仙大師さまからは他に何か云われなかったの…。

 ぼくの時は慶応三年の京に行って、坂本龍馬を連れてくるようにと云われたんだけど、龍馬さんは何も頼まれなかったのかい』

『いんや、頼まれたぜよ。わしの場合は、当面の間はゆっくり休養ばとって、昇太郎さんの手助けてもしてやれと云われての。気が向いたら、また来いと云われただけやき。ひとつよろしく頼むぜよ』

『え…、それだけ…。ほかには何も云われなかったの……』

『それがな……。実は、ド偉いことば頼まれて来てしもうたんじゃ…』

『どんなことですか。それは…、龍馬さん』

 何ごとにも動じず、数多くの修羅場を潜り抜けてきた龍馬に、「ド偉い」とまで言わしめたこととは、一体どんなことなのかと昇太郎は訝しく思いながら訊いた。

『それがの…、天正十年に翔(い)けというんじゃ…』

『て、天正十年といえば確か…、織田信長が明智光秀の謀反に遭って、自ら本能寺に火を放って切腹して果てたという…、あの…』

『おうよ。おまんも、よう知っとうとね』

『ぼくはこう見えても、学生時代には日本史は得意でしたからね』

『それで、そこに翔って信長公を連れてこいと云うのが、神仙大師大先生からの命なんじゃが、何でも信長公は荒ぶれる精神体らしいから。その方も、充分気を引き締めて掛るようにとも云われてきたんだが、なんぼ荒ぶる魂かなんかは知らんけんど、時代こそ違え同じ精神体じゃきに何も心配などせんでいいぜよ。と云ってやったら大先生も納得したらしくって、それ以上は何も云わなかったきに、さっそく用意ばして、わしは天正十年六月二日に往かにゃならんぜよ』

『あれ、いまゆっくり休んでから往くように云われたって聞いたけど、もう出かけるんですか…』

『いんや、こういうことはなるべく早く片ば付けんと、気ィが落ち着かんとよ』

『でも、ひとりで大丈夫なんですか…。龍馬さん、何ならぼくも一緒に行きましょうか…』

『いんや、昇太郎さん。今回だけは、わしひとりで往かせてくれや。そうしないと、わしを高く評価(か)ってくれた、精神大師大先生に面目が立たんきに、頼むぜよ。昇太郎さん』

『わかりました。龍馬さん、だけど、気をつけて行ってきてくださいよ。ソラシネはぼくたちでお預かりしますから、心配しないでください』

『ありがとう、恩に着るぜよ。昇太郎さん』

 こうして龍馬は、ソラシネともゆっくり別れを惜しんでいる暇もなく、龍馬は旅支度を始めていた。それが済むと三人のほうに向きなおり、

『それでは、行ってくるぜよ。ソラシネもみんなも達者での』

 と、言葉をかけるとすぐに、

『翔時解向』

 龍馬が叫ぶと、天正十年六月二日・明智光秀の謀反により、自ら火を放って自決したと言われている、京の本能寺に織田信長の精神体を迎えるべく、坂本龍馬は四百余年という時を隔てた天正年間に向けて、その姿はかき消すように見えなくなっていた。

 龍馬の姿が見えなくなって、静まり返った室内でソーラがつぶやくように言った。

『大丈夫なのでしょうか。龍馬さまは、たったおひとりでお出かけになられましたが、信長どのも相当の強者(つわもの)と聞き及んでおります。

 それ故に龍馬さまは無事に信長どのを、この仙郷までお連れすることができるかと、わたくしはそのことばかりが心配でなりませぬ』

『大丈夫だと思うけどなぁ…。ぼくは、いくら生前は猛(たけ)き人であったとしても、精神体になってしまえば荒ぶる心だって、自然に静まって行くんじゃないのかな…。龍馬さんを見てみなよ。あのひとは近江屋に隠れているところを襲われて、死んでしまったんじゃないか。それなのに殺された悔しさや無念さなど、微塵も表に出さないじゃないんだよ。そういうものなんじゃないのかぁ…。精神体として再生されるということは…』

『さあ…。わたくしは、ここ仙郷にて生まれ育ちしもの。人間のことはあまり詳しくは存じませぬ。昇太郎さまが、そのようにお考えなのであれば、そうなのでございましょう』

『でもさ、ぼくだって谷川岳の頂上から落ちて、体もグシャグシャになって死んだはずなのに、ソーラに助けられて、神仙郷まで連れてきてもらったじゃないか。

あの時のことを思ったら、ぼくにとっても精神体として、生きている人のために何か役に立つことが、できるんじゃないかと考えたんだけど、結果的には龍馬さんとか織田信長公とか、死んだひとにしか力を貸してあげられなくて、ちょっぴり残念な気持ちもあるんだよ』

『いいえ、そのようなことはありませんわ。昇太郎さまさえ、その気があるのでしたら本当に困っている人たちを、時代を超えて助け支えてあげることもできるのですよ』

『え…、じゃあ、翔時解を使うのかい…。でも、ぼくの姿は普通のひとには見えないんだろう…』

『昇太郎さま。もうお忘れになられたのですか。あなたには万華変があるではございませんか。あれを用いればどんなものにでも、その姿を変えることができるのです。犬猫はもとより、その気になりさえすればミミズにでも…』

『え、ぼくがミミズになるのかい…』

『いえ、それは物の例えでございますけれど…』

『まあ、いいさ。ところで、ぼくはいつの時代に行けばいいんだろう…』

『それは昇太郎さまが、じっくりと時間かけてお決めになればよろしいこと、取り立ててお決めになることもありませぬ』

『うん、そうだね。諺にもあるけど、慌てる乞食は貰いが少ない。って云うからね』

『そのとおりでございますわ。昇太郎さま』

『よし、それじゃ、じっくりと考えてから行動するとするか…。あ、そう云えば、龍馬さんはどうしたんだろう…。ひとりで大丈夫だったんだろうか…』

 昇太郎は天正十年六月二日に翔んだ、龍馬のことが急に気になり始めていた。

 その頃、当の坂本龍馬は、明智光秀の謀反に遭い自らの手で火を放ち、自決したという織田信長が宿泊していた京の本能寺の焼け跡に立っていた。

 焼け跡は未だ完全に鎮火したわけでもなく、ところどころで火の粉が爆ぜたりあちこちで燻り続けていて、辺り一帯を覆い隠すように煙が立ち上っていた。

『こりゃ、また派手に燃えたもんじゃき、これではどこがどこやら丸っきり判らんぜよ』

 もうもうと立ち上る煙を透かして、周りを見回したが焼け落ちた柱や瓦などの瓦礫があるばかりで、人の焼死体も見当らないという有り様だった。龍馬はさらに目を凝らしてよく視ると、一番奥の方で何やらオレンジ色に輝くものが目についた。

 何だろうと思いながら、龍馬はさらに目を凝らし視ていると、それはいまにもメラメラと燃え上がるような、凄まじいばかりのオーラを放っている精神体だった。

『あれは、織田信長さま…』

 龍馬は急いで近寄って行くと、躊躇することもなく声をかけた。

『織田信長さまでございますのか…』

 オレンジのオーラを放つ精神体は、龍馬に気がつくと静かに振り向いた。

『そうじゃが、その方は何者じゃ…。わしは死んだのか…』

 信長の精神体は茫然自失したように、うつろな声で龍馬に訊ねてきた。

『はい、わしは信長さまより、四百年ほど後の世に生きておりました、坂本龍馬と申します。信長さまは、いまお果てになられまして、精神体として存在しておられます』

『むむ。して、その精神体とはいかなるものか…』

『は、精神体とは信長さまの精神、つまり「心」そのものなのでございます。わしは信長さまの精神体を神仙郷へお連れするために、使わされた者とでもお覚え頂ければと存じます』

『神仙郷…、初めて耳にする名だが、それはどのようなところで何処に在るのだ…』

『はい、ここよりは遥かに遠い、天空高きところでございます』

『何、天空高きところとな。そのようなところにどうやって参るのじゃ…』

『は、空を舞い飛んで参りまする』

『その方はうつけ者か、たわけたことを申すな。このわしが天空など飛べるわけもなかろうが…』

 織田信長はすでに精神体になっていても、その荒々しい気性は衰えてはいないようだった。

『しかし、信長さま。精神体と申しますのは、すでに生身ものではござりませぬ故、いかなる高所でありましょうとも、舞い飛ぶことなど造作もないことのでございます』

『何、それは誠か…。坂本龍馬はとか申したな。その方は、わしより四百年も後の世に生きていたと申したが、どのような術を以ってこの時代まで来たのか…』

『はい、精神体になりますと「翔時解」と申します。法力が授かりますれば、それを用いましてまかりこしました』

『ほう、翔時解とな…。あまり聞かぬ名の術ではあるのう…』

 厳しい表情だった信長の精神体も、龍馬と話をしている中で次第に、その表情も和らいでいくようだった。

『ご納得して頂けたでしょうか…』

『うーむ…。して、われ亡き後の天下は如何いたした。四百年のちの世は如何いたしたのじゃ…』

『はい、申し上げてよいのやらどうかは、わしには判りませんが…』

 と、前置きをしてから龍馬は語りだした。

『信長さまが亡くなられた後は、秀吉さまが一時は天下を統一されて、関白にまでなられましたのですが…』

『何、猿めが天下人にだと…』

『はい、それがご子息の秀頼さまの代になりましてから、徳川さまと大きな戦が二度ほどございました。わしらの間ではこの戦いのことを、大坂「冬の陣」「夏の陣」と呼んでおります。

 この冬の陣では秀頼さまが優勢だったのでございますが、夏の陣では秀頼さまが大敗を喫して敗れてしまいます。その後、徳川家康さまが江戸に幕府を開きまして、戦国の世は終わりを告げもうしました。わしが精神体になった頃までじゃき、約三百年近く続いておりもうしたか…』

『ぬぬ…、徳川の小倅がか…。して、徳の川の世が二百年以上続いたと申すのだな…。それで、その後は誰が国を治めておるのじゃ…』

『はい、われらも徳川幕府を倒さんがために、長きに渡って戦ってきたのですが、どこの誰とも判らん奴らに切られてご覧のような有り様…。それでも、わしが切られる一ヵ月ほど前に徳川の十五代将軍徳川慶喜さまが、朝廷に大政奉還を申し出たと聞き及んでおりますれば、それより以降の世は天皇が治めておられるとか聞いております』

『天子が国を治める…か。神代の時代には聞いてはおるが、それもまたよろしかろう…。徳川ごときに任せておるより、そのほうがどれほどか増しじゃろうて……』

 信長は得心がいったのか、それまで燃え上がるように輝いていた、オレンジ色のオーラも次第に薄らいで行くようだった。

『それでは参りましょうか、信長さま。神仙郷へは、わしがご案内ば致しますき、ついて来てきとうせよ』

『うむ、このわしに空を舞い飛ぶことなぞ出きるのかのう……』

 信長は多少不安げにつぶやいた。

『大丈夫じゃき、ほれ、こうやって飛ぶんじゃ…』

 龍馬はふわりと空中に浮かび上がって見せた。

『なるほどのう…。こうか…』

 信長も龍馬を真似て、空中に浮かんでみた。

『おお…、わしも浮いたぞ。坂本とやら…』

『それでは参りましょう。信長さま』

 ふたりの精神体は空高く舞い上がっていった。

『人間五十年、下天の内を比ぶれば、夢幻の如くなり……か…。ふふん…、さらばじゃ…』

 信長は誰にともなく言うと、龍馬とともに神仙郷へ向けて飛び立って行った。

 さて、こちらは神仙郷のソーラの館では、龍馬の帰りを待ち侘びるソラシネを、昇太郎とソーラが囲む形で鎮座していた。

『龍馬さまは、無事に織田信長どのの精神体に、廻り合うことが出来たのでありましょうか…』

 三人の間に流れている、重い沈黙を打ち破るようにソーラが言った。

『龍馬さんは、ぼくなんかよりも遥かに高い精神体だから、心配はないと思うけど織田信長という人も、ぼくが歴史の時間に習った限りでは、かなり気性の激しい人だったらしいから、龍馬さんも手こずっていなければいいんだけど……。何しろ、少しでも気にそぐわないことがあると、手当たり次第に当たり散らすし、自分の側近の者であっても情容赦もなしに、無礼討ちにしたというから相当のものだったんだろうな…』

『まあ、怖ろしい……。わたくして怖いわ…、ソーラさま』

 ソラシネは身震いをするようにして、ソーラのところににじり寄って行きしがみついた。

『大丈夫ですよ。ソラシネ、人間体の時にいくら残忍であろうと、猛き人であろうとも精神体になられた以上は、もはやそのようなことはありませぬゆえ、安心しなさい』

『そうだとも、ソラシネ。信長さんだって生きていた時は、確かに荒々しい気性の人だったかも知れないけど、いまとなって龍馬さんやぼくとあまり変わらないかも知れないよ。いや、精神大師さまがわざわざ迎いにやったくらいだから、もしかすると、龍馬さんを遥かに越えたようなすごい精神体かも知れないな……』

『まあ…、龍馬さまを遥かに越える精神体とは、一体どのような精神体なのでありましょう…』

 ソーラは、期待と不安の入り混じったような表情で昇太郎を見た。

『さあ…、これは、ぼくの単なる想像だし、歴史の時間に教わった内容から見ても、確かに気性なんかは相当激しいらしいけど、こればかりは実際に逢ってみるまでは、ぼくも何とも云えないけどね…』

 昇太郎も、ソーラやソラシネにあまり不安を与えまいとして、そこで言葉を濁したが彼自身の中にも、何やら得体の知れないものが蠢いているのを感じていた。

 何がそうさせるのか、昇太郎にもまったく解からなかったが、これからとんでもないことに巻き込まれるのではないかという、半ば「虫の知らせ」とでも言うべきものを感じていたことは確かだった。

『もう、そろそろ戻って来てもよろしい時間なのですが、本当にお遅うございますわね。龍馬さまも…』

『ああ…、龍馬さま…』

 ソラシネも龍馬の名を呼びながら、ソーラのもとに寄りかかった。

『そう云えば、遅すぎる気もするけど、大方その辺を見て周っているんじゃないの…。信長さまは珍しもの好きだそうだから…』

『それならば、よろしいのでございますが…』

 昇太郎とソーラが、そんな話をしていると、またドタドタという足音が聞こえてきた。

『いま帰ったぜよ。織田信長さまばお連れ申したき、みんな挨拶ばやっとうせよ』

 そういう龍馬の背後には、明智光秀の謀反に遭った時に着ていた、白い一重の着物姿の信長が立っていた。


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