chapter2

第7話 理想郷

俺は脱サラ、じゃなくて、脱町工場旅人、荻原悟。


「うん、なんかだせえ。」


語彙力が掛けている23歳独身。



トワリネ村を出て2日、俺はエルマトラ山地を下っている。

サガロ村長が本当いい人で、「山や雪、砂漠など、足場が悪い地域にもってこい」

と宣伝されている靴と、大量のバゲットをくれた。


目指すは、前にトワリネに転生してきた人が行ったという、

春の国を目指してみようと思う。


「おっ、湖じゃないか。」


転生したときに落っこちた川沿いを進んできたが、

その川が結構大きめの湖に到達している。


水はけっこうきれいで、よく見るとさっきまで見なかった魚影もちらほらと。


「久しぶりに魚が食えそうだな。」


ということで、近くにあった長い枝を手に取り、

鍛冶の国の荒くれさんが作ってくれたサバイバルナイフで持ち手を作る。


そして、こっちの世界では見ないようなでっかい葉っぱをナイフの背でこすり、

中にある繊維を取り出す。


平行脈の葉っぱにホウセンカみたいな花がついていて、高さは1.5メートルくらい。

いや、そういや小3くらいの理科で

「真ん中の茎で一番上の葉っぱが出てるところまでが高さ」

って教わったけ。


まぁ覚えてないけどいいや。


そしてできた繊維と枝を結びつけて、

同じくトワリネでもらった釣り針、そしてオモリの小石をつければ


「結構ノリでも釣り竿って作れるもんだなぁ...」


ひとまず、一旦湖に投げてみる。


ボトンっ


即刻、ジェットコースターの一番最初の下り坂くらいしなった。


「待ってそんな入れ食いなことある!?」


すぐに竿を引き上げて魚にてやる。


こうすることで魚の上顎に針を貫通させ、外れないようにする、

らしいのだが、異世界の魚に果たして効くのか....。


ともかく、あとは腰を使って竿を陸地に持っていくだけ。


野生のエネルギーってのはすごいもので、

暴れまわる重い感触が手にビリビリと伝わる。


しかし人間はというと、

現在進行形で腰が逝きそうである。


こうして激闘の末、俺はデカ目のサケっぽいなにかを釣り上げた。



よくみる原始的な方法で火種を起こし、

枯葉に着火させる。

ここ、エルマトラ山地の木は湿っていると爆ぜたときに水素爆発を起こすので

それを利用して、小枝を濡らして放り込む。


すると「火のつく爆竹」といった要領で爆発が起こるため、

簡単にでかい枝に火を付けることができる。


最初は怖かったけども、ここの木、キャンプに優秀です。


釣り上げた魚をYoutubeの記憶をひねり出して3枚におろし、

切り身にトワリネで買った小麦粉をはたく。

バターをたっぷり寸動鍋に溶かし、じっくりやいていく。


ムニエルが食べたかったから串焼きにしないみちを選んだけど、

流石に寸動鍋でやるのはくっそ大変だな。


「スキレットほしいぜぇ....。」


つぶやいた声が満点の星空に響く。


町工場に居た頃はこんな天の川までしっかり見えたことなかったな。


でも変わって俺は孤独。竹端たけばた先輩も、同僚も、片思いだった恋人も、

今の世界にはいない。


「アブねぇ!焦げる!」


ちょっと物思いにふけりすぎたようだ。

狙ってた色より若干濃くなってしまった。


とりあえず裏返してムニエルを焼き上げる。


バケットを厚切りにし、焚き火で炙る。

ムニエルを乗っけて口へ運ぶ。


「うめぇ。」


孤独ってのも悪くないかもしれない。


自分の好きなようにくらし、好きなように金を稼ぎ、好きなように飯を食らう。


そんな生活を求めていたのかもしれない。


「だめだ。やっぱ1人はともに歩む仲間が欲しい。」


幸福の理想郷は一瞬にして崩れ落ちた。


「できれば女性がいいな...。」


彼は本能に抗うことはできなかった。



春の国、といえば、花と農業の楽園のようなイメージが少なからずあるはずだ。


俺もそう思っていた。


しかし、そんなものは理想郷にすぎなかった。


湖畔で野営した翌日、腰をさすりながらも足を運び、

俺は春の国にたどり着いた。


そこで待っていたのは、華やかな花畑でも、豊かな畑でもなく、

地はひび割れ、作物は枯れた荒野だった。



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今回もお読みいただきありがとうございました!


感想等をいただけるとうれしいです!


次回もお楽しみに!

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