第6話 林煮込み

「ところでじゃが、お主と話したいというヤツがおってな。」


そういってザガロ村長は、またファンタジーあふれるあらくれを5人ほど連れてきた。


「先程はたいっっっっっっっっっっっへんッお世話になりました!!」


出るやいなや、荒くれとは思わぬほどきれいな土下座を見せる荒くれたち。

村長いわく、彼らは燃えた鍛冶工房の従業員らしい。


「ホンッット燃料倉庫が無事で良かったっす!

 あれが全部爆ぜたら隣の工房まで吹っ飛ぶんで!」


あ、例の爆発する恐ろしい材木だ。

エルマトラって母の大地的な響きがあるのに生態系怖すぎるんだよ。


「まぁまぁ。さっき中に居た人は無事でしたか?」


聞くとどんどんこの世界が怖くなるから、すっと話題を変える。


「それなら俺っす。ほんっと気づいたら周り炎でまもなく意識落としちゃって..面目ないっす。」


え..なんで復活してんの...?

肌黒いなと思ったらもしかしてそれ全部やけどで腫れてる!?


それから1時間ちょいしか経ってないのに今はピンピンしてんの!?

この世界のあらくれ強靭すぎんだろ!?


「それで、サトルさん...でしたっけ、我々からなにかお礼をさせていただきたいと思いまして。」

「お礼...というと?」


「我々はもう一軒、少し離れた場所に鍛冶小屋がありますので、

 簡単な刃物なんかであれば今すぐにでもお作りできます。

 そうでなくても、日用品でも食材でも、このトワリネにあるものならなんでも。」


急に言われてもな....。

そういえば火事の時、子どもたちがなんどもバケツに水を入れて持ってきてくれたっけ。

だったらそれのお礼を込めて、こっちからもなんか作ってやるか。

寸動鍋と土鍋があって、まな板は適当な木の板、かまどは村長の家で借りるとして...。


「だったら包丁....料理用のナイフをお願いできまs」

「あいよ!!!!!!」


最後まで言い切るより前に、5人は一目散に走り去っていってしまった。

まぁいいか。こっちはこっちで準備をしますか。


「村長、僕からも手伝ってくれた子どもたちにお礼をしたいんで、

 かまど的なものがあれば使わせてもらえません?」


「ほう。あやつらをねぎらってくれるのか。ならばこっちへ来なさい。」


ザガロ村長に連れられ、村の公園らしきところに連れて行かれる。


「ここにこうテーブルを置いて....こんなのでどうじゃ?」


まず1人だけで長机を持ち上げないでください。怖すぎです。


「あ、、ありがとうございます。」


ベンチらしきものの座面を取り、上に鍋が置けるようになった簡易的なかまどに、

でっかい調理台と水道。これだけあれば十分だ。


「儂はここで火を起こしておくから、買い出しをしてきなさい。」


そういって金貨2枚を渡された。

よく聞くのは金貨1枚1万円っていう設定だが、この世界ではどうなんだろうか。




元の世界でいう

牛肉、玉ねぎ、しめじ、 にんにく、トマト、牛乳、赤ワイン、菜種油。

それっぽいものをとにかく変えるだけ買ってきた。


牛肉は多分7キロくらい、玉ねぎは8つ、しめじは5房、ニンニクは6株。

余ってもアイテムボックスに入れておけば持ち運びできるし腐らないしね。


あとなんかおまけで、ローリエっぽい匂いがする葉っぱももらった。


多分合計日本で買ったら3万くらいするだろうか。


「サトルー!」

背後から声がこだましてくる。

その瞬間、軽く地震が起こった。


緊急地震速報の事前に教えてくれるありがたみを思い知る。


いや違う、地震ではない。さっきのあらくれどもだ。


「できたぞ!好きなだけもっていけ!」


サバイバルナイフから万能包丁みたいなやつ、ノコギリみたいなやつ、

中には肉やが使うようなでっかい出刃包丁まで、5本持ってきやがった。

この短時間でなにをどうやったらこんなに打てるんだか。

やっぱりこの世界、俺の世界の常識が通じねえ。


「それじゃ、お言葉に甘えて、一旦これ使ってみますか。」


牛刀包丁を手に取り、ブロックの肉塊を食べやすい大きさに切っていく。

調理師学校時代に使っていたどの包丁よりもきれいに刃が入っていく。


さらに万能包丁。野菜類もしこたま切っていく。

これもまた刃の入りが最高。めっちゃ効率がいい。


「切れ味えげつないっすよ!最高っす!」


「ハハハ!鍛冶の国トワリネの名は伊達じゃねえからな!」

あ、こいつらあらくれに戻った。

つい数時間前きれいに土下座してたのが信じられない。


気を取り直して、起こしてもらった火に寸動鍋をかけ、

油を引いて玉ねぎ、牛肉を突っ込んで炒める。


焦がさないよう、しっかり面倒をみるのが重要。


8割がた火が通ったら、小麦粉、をなじませ、

赤ワインと牛乳をしこたまつっこむ。


しばらくしたら湧いてとろみがついてくるため、

皮を向いて刻んだトマトを薄い塩水といっしょに投入。


さらにしめじ、刻んだニンニク、バター、胡椒を入れて煮込み、

途中でローリエも投入。


鍋の壁から焦げ付きをこそげ落とし、再び溶かす。

これは逃してはいけない旨味の塊。


しっかり煮込んだら、ハヤシ風煮込み、完成!


市場のおばちゃんが頼んでおいたバゲットも持ってきてくれ、

カイルが村中に声をかけ、村中の子どもたちがやってきた。


村長から借りた皿にとりわけ、切ったバゲットとともに持っていってもらう。


「なんだコレうめえ!」


我慢できずに食らいついた坊主が声を上げる。


すると子どもたちは我慢できなくなり、一斉に食い始める。


たらふくうまそうに食ってくれる子どもたちの顔って

なんでこう幸せになるんだろうな。


「おじさん、これなに?」

ちっちゃい女の子が聞いてくる。


俺ってまだ23なんだけど、これでおじさんなのか...現実辛いぜ...。


「ハヤシっていう俺の故郷の煮込み料理だ。」

「林煮込み!?たしかに、森の恵みの味がするね!」


子供って完成豊かだな。でも、たぶんその”林”じゃないと思うぞ。

細かい諸説は知らんがな。


「サトルお兄さん、ありがとうございます。

 この先、サトルさんはどうするんですか?」


カイルに話しかけられる。さっきの下りを聞いていたんだな。ありがとな。


「俺と同郷のやつが行ったとかいう、春の国に行ってみようと思う。」


「そうか。では、早めに発つとよい。

 このまま残ると料理人どもがこの味を巡ってお前に襲いかかるじゃろうからな。」


「そうっすね。ありがとうございます、村長。」

どうやらこの世界はコックまであらくれのようだな。


「今日は儂の家に泊めてやろう。明日の朝発つと良い。」


「あ、村長、あれをサトルさんに頼んでみたらどうです?」


「お〜カイル、お主はやはり頭が切れるな。

 サトル、よければ、春の国まで、農具を運んでくれぬか?

 あいてむぼっくすとやらがあればできるじゃろう?」


なんか勝手にクエスト受注することになてんだが。

まぁ道中だし、ついでに持っていくか。


こうして、俺はこの世界での最初の目的地が決まった。

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