第21話 アルテミスが突撃?

 サガデがいなくなっても何も起きなかった。


 話し相手がいなくなってちょっと寂しいだけ。そんな時はムカリオを呼び出す。


「久しぶり。サガデと喧嘩でもしたの」


「サガデがちょっと拗ねてるだけ。そのうち泣いて謝ってくると思う」


 彼女はムーントロールという妖精で、私の幼馴染の一人だ。


 ムーントロールは時間魔法を使える。洗脳事件以後はその力は弱まったらしいが、それでも昨日つくった傷くらいなら、時間を戻して跡形も無くしてくれる。


 ムカリオは夢見がちな性質で、がさつで実務的なサガデとは正反対だ。久しぶりのふんわりした会話になごんでいた。


 そんな私の神階中層の神殿にフクロウ便がきた。サガデがいなくなって、念話ができなくなったから、古代神世界では、フクロウ便で互いに意思を伝えあっている。


 例外は兄のアポロン。彼はフクロウの代わりに白鳥を使う。とても目立つが、アポロンは目立つのが好きなのだろう。


 フクロウ便は、ヘルメスからの連絡だ。手元の資金が枯渇したから、至急送金してくれという。


 ヘルメスも古代神の重要な神の1体だ。担当は商業や流通。たくさんのニンフを使って流通関係を担当している。サガデは流通や金融に関する情報を担当していたけれど、ヘルメスは実際の物の移動を担当している。流通は問題ない。ヘルメスとは別系統で、ダンジョントレードも機能している。


 ただお金の流れが悪くなっていた。急にサガデがいなくなって金融関係が少しだけうまくいっていないのかもしれない。


 しかたなくサテュロスのサイモンを呼ぶ。サテュロスは上半身人間下半身山羊の妖精だ。かつては悲劇の公演で進行役の合唱隊をしていたが、洗脳事件以後真面目に働くようになった。


 そういえばサテュロスの姫がいたはずだ。名前は忘れたが、今度呼び出して一緒に遊ぼう。サテュロスが役に立っていると伝えたいしね。


「サイモン。姫は元気かな」


「今ズドーライン王国に留学中です」


「そう勉強忙しいのね」


 サイモンに命じて当座の送金を行う。手元にお金がなくても無制限に即時に送金してくれるクレジットだ。そのかわりわずかな手数料と利息がかかる。時は金なりという。円滑に経済を回すには必要な経費だ。


 サガデがいなくても替わりはたくさんいる。心の友ムーントロールのムカリオ。商業神ヘルメスとニンフたち。連絡役をしてくれるフクロウたち。クレジット部門を担当してくれるサテュロスのサイモン。古代世界は人材はまだまだ豊富で安心できる。


 でも懸念もある。汚れ仕事である諜報担当がいない。諜報担当は暗部ともいわれて、蔑みも受けるから、希望者は少ない。問題はそこだけだ。


 現在はエルフの従者であるドライアドの諜報網を一時的に借りている。ドライアドは木の妖精でエルフの乳母をしている。木は世界中に生えているのでなかなか優秀な情報網を持っている。難点は情報のスピードが遅いことくらいだ。


 ドライアドたちにはサガデとロングライトの動向を探らせている。あれから10カ月近くたつ。そろそろサガデが泣いて復縁をすがってくるころだ。アルテミスの後ろ盾がなくては無力だとサガデは感じているはずだ。それにロングライトのことも気になる。


 ウロボロスがロングライトから何を報酬として奪っていったか、私には心当たりがあった。それを確かめてもらっている。すでにドライアドからの情報がきている。


 まずロングライトの功徳ポイントが半減しているという報告。


 功徳とカルマは限られたものしか知りえない情報だ。功徳は善行、カルマは罪。すべての人にポイントが付いて、輪廻の際に参照される。功徳が多ければ良い来世に恵まれる。ただ功徳からカルマの数値が差し引かれるので、カルマが多すぎると悲惨だ。


 ロングライトだが、彼の行動を見ていると功徳が莫大で、カルマはほとんどない。モンスターは倒すほど功徳になる。布施行も功徳。ロングライトは、他人を虐めたり、浪費したり、姦淫したりはまったくない。つまり罪を犯さないからカルマは0。


 ウロボロスたちは彼の功徳ポイントの半分を奪って行った。対価なしで彼女たちが何かをするっていうことは絶対ない。


 ただ邪悪な神にしては功徳ポイントの半分というのが優しすぎる。案外気に入られていたのかもしれない。本当にロングライトは見境のない天然の女たらしである。しかも自覚がないのが悪質。


 さて最新情報が来ている。彼等はいなくなったヴィヴィアンを探してズドーライン王国の王都に向かっているらしい。ドライアドたちの情報ではヴィヴィアンはマイケルという中級天使のところに居る。


 私はサガデの情報網を出し抜いたようだ。


 ここはカッコよくマイケルからヴィヴィアンを奪い返し、私の力を見せつけてやりたい。古代神を実力をサガデにもアズル教にも誇示したい。まずすべての配下にマイケルの情報収集を命じた。


 意外にもムーントロールのムカリオがマイケルを知っていた。マリオン侯爵家の家宝に神の杖があり、マイケルはそれを持ち出しのし上がってきたという。神の杖は人間でも、モンスターでも、妖精でも、C級神以下の神までも、強制的に輪廻に送り込む恐ろしい力を持っていた。この神の杖は何とか手に入れたい。


「マイケルはチャラ男だから私の色香を使えばなんとかなるかもしれない」


 ヘルメスからは王都でのマイクズパレスの豪壮さと、そこでの女への様々な悪行の証拠が届く。配下の色事好きのニンフが既に潜入という手早さ。サガデよりも使えるわね。


 パレスの土地はもともとスラムだった地域。土地の取得に不正があった可能性がる。つまり賄賂によって手に入れた疑惑だ。


 ヘルメスから続報。マイケルの力の源泉は神の杖以外にマイクズ・クレジットを使った高利貸しだそうだ。規模が大きい。数億チコリ。しかも公法に定められたよりも高利で貸付、莫大な利益を上げている。返済できない女性を自分のものにして弄んでいるという情報。


 マリオン家の領地からの収入では数億以上の金を動かすのは無理ね。何か悪いことしているに決まっている。


 情報収取。そして敵の弱点を突く。油断大敵よ。


 そして味方から決して情報を漏洩させないように徹底しよう。副官はムカリオ。情報収集はヘルメスとニンフ。資金面のバックアップはサイモンにお願いする。実行部隊はサイモンの率いるサテュロスの軍団。


 準備は万端よ。

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