第3話 女従魔サガデと百合の女神
なかなかのものだったわね。ロングライトが前世から引き継いだジョブとスキル。 ジョブは桂冠の吟遊詩人と騎馬弓士の2つ。特に素晴らしいのは「桂冠」という語だ。それは古代文明の盛期、第1文明のころにだけ行われた制度である。素晴らしい詩人に月桂樹の冠が与えられた。その冠を桂冠という。
桂冠が与えられる詩人は千年にひとりしか現れない。稀有な存在だ。もしロングライトのステータスに桂冠詩人という表示が現れたら目立ちすぎる。権力を持つアズル教会は神や人の全員のステータスを見て常に監視している。彼は必ず目をつけられる。
そうなたらまた勇者チームが現れて、魔王という汚名を擦り付けられてなぶり殺しに合うに違いない。私たち古代神は何回もそうやって大事な人材を失って来た。ロングライトだけは私、アルテミスが守ってあげたい。
それ以外にもとんでもないスキルが引き継がれていた。結魂(ゆいこん)というスキルで、魂を結び合わせ、生命力(HP) を共有することができる。対象は1名のみ、期間は数時間。たった数時間でも死の危機にある人を自分の生命力を犠牲にして生きながらえさせることができる。
ロングライトは神だから不死であり、HPが0になることはない。もし結魂のスキルが成長したら、ロングライトがとことん救おうとしたら、その相手も不死となるのかな。
ロングライトは前世にこのスキルを持っていたはずだ。そうでなければ前世の経験をスキャンしてスキルとして現れるはずがない。謎の多い男よね。ロングライト。このとんでもないスキルも隠す。ロングライトにも教えないでおこう。
ロングライトは私の手駒として大事に育てるつもりだ。敵対するアズル教からは隠し通さなくてはならない。そのためには何でもする。
目立つことはまだある。騎馬弓士もこの世界では彼一人しかいない。ロングライトの前世では戦士は馬に乗りながら、弓を射て戦ったらしい。しかしこの世界にはそんな人はいない。
目立たないように弓士のジョブということにしよう。替わりに私の愛用の弓クレセントを与える。
クレセントは三日月のこと。月の女神である私は愛用の弓にクレセントと名付けているのね。この弓は神器で、矢がなくても魔力で射ることが可能だ。これを与えるのは破格の待遇なのだがロングライトのような朴念仁に私の好意が伝わるかは不明である。
私の最大限の好意は別にある。ヤタガラスという従魔。私の古くからの盟友サガデをヤタガラスに変えて、ロングライトの従魔にした。本来は神に仕える動物は眷属だが、ロングライトは人間の姿をしている関係で従魔として登録してもらう。冒険者ギルドの登録ではブラックバードという種族名になる。
サガデは私が生まれた時からの付き合いだ。2千年になるだろうか。子供のころからの遊び相手で、一緒に様々な事を学んだ学友でもある。幼馴染っていうのかな。
アズル教による古代神の洗脳事件が起きた時、私は彼女を逃がした。月の女神である私が逃れることは不可能だと思った。重要な神だから。私の記憶が消されてしまうのはもう確定していた。
そうなった時、私のすべてを知っているサガデがいれば、私は自分を復元できるはずだ。そういう計略である。
あれからまだ400年しか経っていない。あの時、古代神のほとんどは自分の名前と自分の主題以外には、アズル教の聖書の教える偽の神話を頭に刷り込まれた。
私もそうだった。名前すら本来の名前アルテミスを忘れさせられて、劣化した第二古代文明のダイアナという名前に変えられていた。性格も顔も体つきも変えられた。
私はあの時期やたらセクシーなおっぱいの大きい女神させられていたのよね。黒歴史だわ。性格も。あの時の私は本来の私と全く違う軽薄な女として生きていた。誰もダイアナがアルテミスだなんてわからなかったと思う。
サガデはそんな私を見つけて、救ってくれた。
サガデは忌み嫌われる女淫魔のサキュバスだ。他者の夢に入ることができる。
実は私はアズル教に壊される前に、すでに壊れていた。アズル教の洗脳はその記憶を消さなかった。だからいつも夜、苦しい夢を見ていた。
その夢がサガデが私を見つけてくれる目印だった。私は愛する男を自らの弓で射殺していた。アズル教が色恋沙汰と見逃した悲惨な経験が、私を救ったことになる。皮肉よね。
サガデには感謝してもし切れない恩義がある。私がむっつりだということもサガデには隠していない。私は処女神であることを定められているから、あの男との恋は神であることを捨てる覚悟の恋だった。
私に恋人を射殺させたのは太陽神のアポロン。私の双子の兄だ。私が神であることを捨てようと決意していたことを知っていたのだろう。私は今でもアポロン兄を恨んでいる。その私の恨みが兄アポロンを洗脳から目覚めさせる要因になったのだから皮肉は重なっている。
恋人を射殺して以来私は男を受け付けなくなった。性的妄想の中でさえ男を拒否している。
私は貞淑な処女神を演じている関係で、性欲などみじんもないように装っている。その反動で無意識の性欲が溜まりすぎてしまう。だからサキュバスであるサガデに、美しいお姫様が私を溺愛し、身体を重ね合う夢を見させてもらっている。百合です。
そのサガデを風狂神ロングライトに貸し出すことにした。17歳の男性の性欲を解消してもらうためだ。ロングライトが性欲のせいで軽薄な女と関係を持ってほしくなかった。別に男嫌いな私が、千年ぶりに男に惚れたわけではない。
目的は彼を目立たないようにしてアズル教から隠し通すことだ。アズル教は輪廻転生を支配している。異世界からの転生者はその監視から外れているイレギュラーな存在だ。
ロングライトはアズル教に復讐し、古代文明を復活するための大事な手駒なのだ。愛用の弓や、腹心のサキュバスを貸し出す程度何の問題もない。
サガデには馬もやってもらう。ロングライトが騎馬弓士であることを生かすためには駿馬が必要だが、現実の馬は数時間で体力が尽きて世話も大変だ。サガデなら1日中でも走っても大丈夫。必要であれば鳥になってロングライトを載せて飛んでもらう。
気配察知もできるし、ダンジョンを利用した売買やマジックバッグの代わりになる倉庫の利用もできる。結界も張れるし、野営の料理もできる。
私とサガデは念話ができる。ロングライトとサガデもできるんだけどね。私にとって重要なのはサガデが完璧な監視者だということ。サガデと私は完全に感覚共有できる。
それだけじゃないのよね。サガデがロングライトの夢に入り込んで、彼の性的嗜好や過去の性的体験を引き出せば、私もそれをリアルタイムで知ることができる。
気が向けば夢の中でロングライトと性的快感を共有することだってできる。男嫌いの私がそんなことをするはずはないんだけれど。
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