クママとミノルとそらとびそうなパン

第18話


「なるほど、そういうことなら……」マキさんが、何かひらめいたみたい。

「どうしたの? マキさん」

「クママ。わたしと一緒にパンを焼きましょう」

「焼く、焼く!」

「ミノル。手伝ってくれるわね?」

「もちろん」

「みんなで力を合わせれば、空を飛ぶだけじゃなくて、美味しい空飛ぶパンが作れるわよ!」

「「美味しい空飛ぶパン⁉」」

 クママとミノルは、マキさんに顔をぐい、と近づけながら、揃って叫んだ。

「え、えっと? あなたたち、そもそも空飛ぶパンを作りたくてここを目指してきたんだったわよね……?」

 そうだ、そうだ! そうだった!

 忘れてないけど、頭の隅っこにかくれんぼしちゃってた!

「そうそう! 空飛ぶパンを作りたいんだ!」

「それじゃあ一緒に作りましょ! 美味しい、美味しい、空飛ぶパン」

 

「さぁ、小麦粉さん! あなたはこっちよ。それから、お願い事をひとつ。クママのお話をちゃんと聞いてね」

「あら、おさとうさん。あなたはあっち。それから、お願い事をひとつ。あなたはこれから空気をたくさんだきしめて、風船になるの。そのことを、決して忘れないでちょうだい」

 マキさんは、ごちそうを作っていた時と比べるとずいぶん優しい口調で、食材たちにお話をした。食材たちはマキさんのお話をよーく聞いて、蝶のようにひらひらと舞いながら、クママのもとへやってくる。

 こねこね、くるくる、おやすみ、おはよう――。

「た、大変だ。生地は出来ても、形を作れないよぅ」

 クママは困って、頭を抱えて、

「ミノル、どんな形にすればいい?」

「あたしが夢で見たのは、飛行機の形をしていたけど……」

「飛行機! いいじゃない。飛行機の形にしちゃいなさいな」

「マキさんは簡単に言うなぁ。成形するの、そんな簡単じゃないんだから」

「わたしやコッジーを作れたんだもの。飛行機くらいへっちゃらでしょう?」

「そう、かなぁ」

「ほらほら、自信をもって! 食材たちも、あなたたちのことを応援してくれているわ!」

 そう言われても……。言葉だけでは、自信は膨らまない。

 クママは迷いながら、飛行機の形を思い出しながら、成形をしてみた。だけど、なぁ。

「これじゃ、絵みたい」

 なんだか、立体感が足りないな。

「パーツを分ければいいんじゃない?」

 マキさんはまた簡単に難しいことを言った。クママの唇が尖ったのは、きっとそのせいだ。

「確かに。パーツを分けて、組み立てたら――。そうしたら、もっと飛行機に似せることができるかも! ねぇ、クママ。どうせだったらさ、あたしたちが乗れる形にしちゃおうよ!」

 まさか、ミノルまで簡単に難しいことを言うなんて。クママの肩がだらんと垂れた。

「ほらほら。手を止めないの。パンを飛ばすんでしょ? 空を飛ぶんでしょ? 自信は空気でエンジンよ? 自信がなくっちゃ、飛べるはずのものも飛べなくなっちゃうわ」

 もう、どうなっても知らないもんね!

 クママはちょっとやけくそになりながら、こねこね、くるくる。

 ふっくら膨らんだ時のことを想像しながら、形を整えて……。

「あっ! ミノル! ぼくがこんなに頑張っているっていうのに!」

「えへへ、ごめんごめん。あたしも成形したくなっちゃって」

 てへ、と笑うミノルの手元には、クママの形になりそうなパン生地が並んでいる。

「もー! ぼくはいま、飛行機を作るので手一杯なんだよ? ぼくだって、ミノルパン作りたいのにぃ」

「それは、街に戻ってからね」

 いってらっしゃい、おかえりなさい――。

「焼けた!」

「ん~、いい匂い!」

「それじゃあ、組み立てていきましょう。手伝うから、指示をちょうだい」

 マキさんが両肩をくるくるさせながら、やる気いっぱいに言った。

「あなたはそっちよ。そうそう。そこの子と仲良くして。喧嘩はダメよ。ああ、とっても仲良くなるための喧嘩なら止めないわ。ほどほどにね。それで、あなた。あなたはこっち」

 マキさんのおかげで、大きなパンも軽々運べる。どんどんと組みあがっていくパン。イメージが形になっていく様を見れば見るほど、胸がどきん、どきんと大きな音を立てる。

「すごい、すごいっ! ね、クママ!」ミノルが跳ねる。

「うん。すごい。……夢みたい!」

 クママはクシャッと笑って、目にキラキラした雫をためて、翼を撫でながら言った。

「よぅし! 完成ね!」マキさんがにっと笑う。

「やったー!」クママは大喜び!

「だけど……」ミノルはなんだかしょんぼり。

「どうしたの? ミノル」

「ああ、いや。ちゃんと飛ばなきゃ、〝空を飛びそうなパン〟だなって、思って」

「大丈夫だよ。ちゃんと飛ぶよ。ね、マキさん!」

 クママがニッコリ笑顔で言った。絶対飛ぶって、心の底から信じているみたい。

「う、うーん」

「えっ……飛ばないかもしれないの?」

 クママの顔から、ニッコリがどんどん消えていく。

「考えていたものより大きいものだから……。絶対の自信は、ないかもしれないわ」

 マキさんが、空を飛びそうなパンを睨むように見ながら言った。

「飛ばしてみたいね」

「ぼく、乗ればいい?」

「こういう時って、最初は誰も乗らない方がいいんじゃない?」

「でも、誰が操縦するの?」

「そもそも、これって操縦が必要なの? いや、必要か。それなら、最初は誰が……」

 クママとミノルはマキさんを見た。

「わたしが乗らなきゃ、ダメかしら」



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