第13章 記憶の修復と隠された真実


地下駅の医療室で、慎一郎がゆっくりと目を開いた。天井の蛍光灯が眩しく映る。


「ここは...」


「兄さん、気がついた?」


圭介が椅子から立ち上がる。三時間ずっと兄のそばにいた。


「圭介...俺は...」慎一郎が頭を押さえる。「記憶が...ごちゃごちゃになってる...」


「大丈夫、ゆっくりでいいから」圭介が優しく声をかける。


慎一郎の目に困惑の色が浮かぶ。


「俺は...お前と戦っていた?なぜだ...なぜお前と...」



圭介は兄の手を取り、微弱な光魔法を流し込んだ。攻撃用ではない、記憶を整理するための優しい光。


「覚えてる?兄さんが僕に初めて魔法を教えてくれた日」


光に包まれながら、慎一郎の記憶が少しずつ戻ってくる。


『圭介、魔法はな、人を幸せにするためにあるんだよ』


「ああ...そうだった...」慎一郎の目に涙が浮かぶ。「俺は...魔法を愛していた」


「そうだよ」圭介が微笑む。「優しかったころの兄さんは魔法と、人を愛していた」


しかし次の瞬間、慎一郎の表情が歪む。


「待て...違う...俺は魔法庁で...粛清部隊で...」


暗い記憶が戻ってくる。五年間の潜入任務、破壊した組織、封印した人々の魔法力...


「俺は...何をしていたんだ...何を守ろうとしていたんだ...」


慎一郎が呟く。その声は深い絶望に満ちていた。


「秩序...魔法界の平和...そう信じていた...でも」


圭介は静かに聞いていた。


「でも、俺が破壊したのは...魔法を純粋に愛する人たちだった」慎一郎が拳を握る。「中村さんの娘...田辺おじいさん...みんな...」


「兄さん...」


「俺は...守るべき人を傷つけて...愛するべきものを憎んで...」慎一郎の声が震える。「俺は一体...何がしたかったんだ...」


圭介は立ち上がり、兄に向かって手を差し出した。


「今度は一緒に守ろう」


「え?」


「兄さん一人で背負う必要はない」圭介の声が温かい。「僕たちが一緒に守ろう。本当に大切なものを」


慎一郎は弟の手を見つめた。その手は、五年前と同じように温かそうだった。


「俺に...その資格はあるのか...」


「もちろんだよ」圭介が微笑む。「兄さんは僕の大切な家族だから」




その時、情報班の竹内が慌てて医療室に駆け込んできた。


「大変だ!魔法庁の機密資料を解析していたら...とんでもないことが分かった!」


「何があったんですか?」圭介が振り返る。


「魔法庁の地下に隠された書庫があった」竹内が息を切らしながら説明する。「そこで見つけた古文書に...」


竹内が震える手で古い羊皮紙を広げる。そこには古代文字でこう記されていた。


**『古代魔族との盟約書』**


「魔族との...契約?」圭介が驚く。


竹内が読み上げる。


「『魔法界の秩序を維持するため、我々魔法庁は古代魔族シャドウ・クランと契約を結ぶ』」


「『魔族は我々に強大な力を与え、我々は魔族に...新鮮な魔力を定期的に献上する』」


慎一郎の顔が青ざめる。


「まさか...」


「粛清部隊の異常な魔法力は...これが原因だったのか」




竹内が続ける。


「更に調べたところ、粛清部隊の一部メンバーは『魔族との精神リンク』を結んでいる」


「精神リンク?」圭介が問う。


「魔族の意識と部分的に繋がることで、飛躍的な魔法力向上を得る代わりに...」竹内が言葉を詰まらせる。


「代わりに?」


「自我を徐々に失い、最終的には魔族の操り人形となる」


慎一郎が愕然とする。


「俺の...暴走は...」


「恐らく、魔族の影響だ」竹内が頷く。「田中慎一郎さん、あなたが冷酷になったのも、弟への愛情を失ったのも...全て魔族の精神汚染が原因かもしれない」


慎一郎の目に希望の光が戻る。


「それなら...俺はまだ...」


圭介が兄の手を握る。「兄さんはまだ、兄さんだよ」




その時、地下駅全体に警報が響いた。


「緊急事態!地上に魔物が出現!」


監視班の声がスピーカーから流れる。


「魔物?」圭介が立ち上がる。


竹内が端末を確認する。


「これは...十二種類の魔物が同時に...」


画面には恐ろしい魔物たちの映像が映し出されていた。


- 炎を纏った巨大な獣「バルグレム」

- 毒を吐く巨大な蛇「ヴェノス」

- 時空を歪める異形の化け物「クロノイド」


「属性別に分類されてる...まさか、12色魔法に対応してるのか?」


慎一郎がベッドから起き上がる。


「これも...魔族の仕業だ」


「兄さん、まだ体が...」


「いや」慎一郎が決意を込めて言う。「俺は五年間、間違った敵と戦っていた」


慎一郎が圭介の手を握り返す。


「今度こそ、本当に守るべきものを守りたい」


兄弟は顔を見合わせた。二人の目には、同じ決意の光が宿っていた。


「みんなを守ろう、兄さん」


「ああ、圭介。一緒に戦おう」


地上では十二色の魔物が暴れ回り、都市は混乱に陥っていた。


しかし地下駅では、新たな希望が生まれようとしていた。


兄弟の絆と、真実への確信を胸に、戦いが始まろうとしている。


---


つづく

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