第12章 灯火の衝突—兄弟の魔法
地下駅の警報が甲高く響いた。監視カメラが捉えた黒い影—十二名の粛清部隊が、静寂を破って地下通路へと降りてくる。
「全員、戦闘配置!」
戦術班リーダーの白銀が叫ぶ。地下魔法連盟のメンバーたちが各所に散らばり、魔導杖を構えた。
「来たぞ!」
先頭を歩く慎一郎の姿を認めた瞬間、数名のメンバーが息を呑んだ。圭介の兄だということは、皆知っていた。
「《防護結界・エリア・フィールド》!」
戦術班の魔法により、地下駅の要所に光る障壁が張られる。
しかし慎一郎は冷静だった。
「第一班、左翼を制圧。第二班、右翼を迂回」
「「はい!」」
部下たちが散らばっていく中、慎一郎の目は一点を見つめていた。
プラットフォームの向こう側に立つ一人の青年—圭介。
戦闘の喧騒が周囲で響く中、兄弟は静かに向かい合った。
「兄さん...」
圭介の声は震えていた。杖を握る手に汗が滲む。
「久しぶりだな、圭介」
慎一郎の声は氷のように冷たかった。五年前の優しい兄の面影は、どこにもない。
「どうして...どうしてこんなことを?」圭介が一歩前に出る。「僕たちはただ、魔法の素晴らしさをみんなに伝えたかっただけなのに」
「素晴らしさ?」慎一郎が嘲笑する。「お前は何も分かっていない」
「分からないよ!」圭介の声が大きくなる。「兄さんは昔、『魔法は人を幸せにするためにある』って教えてくれたじゃないか!」
「...それは昔の話だ」
慎一郎が魔導杖を抜く。それは魔法庁特製の高級品—暗黒属性に特化した漆黒の杖だった。
「今の俺は、秩序を守る者だ」
**慎一郎の先制攻撃**
「《暗黒弾・ダークショット》!」
黒い魔力の弾丸が立て続けに圭介に向かって放たれる。その威力は、五年前とは比べものにならない。
**圭介の防御**
「《光の障壁》!」
咄嗟に展開した光の盾が、暗黒弾を受け止める。しかし、衝撃で圭介は数歩後退した。
「つよい...」
「五年の間に、俺は強くなった」慎一郎が冷酷に言う。「お前の未知数の魔力などには負けない」
「兄さんを止めるためなら...《光線・ライトニングレインボー》!」
七色の光線が慎一郎に向かって放たれる。
軽やかに宙に浮上し、全ての光線をかわす。
「こんなものか、遅いな」
「《暗黒魔法・シャドードーム》!」
地面から黒い触手のような影が立ち上がり、圭介を包囲する。
「うわっ!」
圭介は必死に光魔法で影を切り払うが、次々と新しい影が生まれてくる。
戦いが激化する中、圭介は追い詰められていたが、僕の魔法は明らかに兄より上だった。だが、この戦いは力量差の話ではない。
「兄さん、なんで...なんでこんなに変わってしまったの?」
その時、圭介の光魔法が感情に反応して暴発。通常よりもはるかに強力な光が、戦場全体を包んだ。
「くっ...!」
慎一郎が目を覆う。しかし、その光は単なる攻撃ではなかった。
光が慎一郎の脳裏に侵入し、封印されていた記憶を呼び起こし始める。
『圭介、魔法杖の持ち方はそうじゃないよ』
『こうやって、優しく握るんだ。魔法杖は君の友達だから』
七歳の圭介と十二歳の慎一郎。午後の日差しの中で魔法の練習をしている。
『兄ちゃん、魔法って何のためにあるの?』
『人を幸せにするためだよ、圭介』
『人を幸せに?』
『そうだ。困ってる人を助けたり、悲しい人を笑顔にしたり。それが本当の魔法なんだ』
「やめろ...」慎一郎が頭を抱える。「それは...過去のことだ...」
しかし記憶は止まらない。
「うああああああ!」
記憶の洪水に耐えきれず、慎一郎の魔法制御が完全に崩壊した。
慎一郎の背後に、黒い炎が渦を巻く。それは十年分の怒りと後悔が形になったものだった
暗黒魔法が暴走し、地下駅全体を黒い嵐が包む。
「兄さん!」
圭介は光の盾で自分を守りながら、兄に向かって叫ぶ。
「思い出して!本当の兄さんを!あの優しかった兄さんを!」
しかし、暴走は止まらない。慎一郎の中で、「過去の優しい自分」と「現在の冷酷な自分」が激しく争っていた。
「俺は...俺は...」
慎一郎の目から涙が流れる。しかし、魔法の暴走は更に激しくなる。
「このままじゃ、地下駅が崩壊する!」
周囲の戦術班メンバーたちが避難を始める中、圭介だけはその場に留まった。
暴走する魔法の中心で、慎一郎が最後の力を振り絞る。
「《絶滅魔法・ゼロドメイン》...」
それは文字通り、すべての魔法を封印してしまう禁断の魔法だった。五年間の潜入任務で身につけた、最も危険な術式。
圭介は理解した。この魔法を完全に発動されれば、地下駅にいる全員が死ぬ。
「させない!」
圭介は全身全霊を込めて、今まで使ったことのない魔法を詠唱し始めた。
「兄弟の絆が、世界を包む!希望の光が、闇を溶かす!!僕の声届け!《エンブレイス・オブ・ライト》!」
それは攻撃魔法ではなく、愛と希望を込めた癒しの魔法だった。
光と闇がぶつかり合い、巨大な爆発が地下駅を包んだ。
爆風で周囲の設備が吹き飛び、天井の一部が崩落する。
煙が晴れた時、そこには倒れた慎一郎と、膝をついた圭介の姿があった。
「兄さん...」
圭介は這うようにして兄の元に近づいた。慎一郎は気を失っているが、息はある。
そして、その顔には—五年ぶりに、安らかな表情が戻っていた。
慎一郎の目がゆっくりと開く。
「圭介...?」
その声は、昔の優しい兄の声だった。
「強く...なったな...」
圭介は兄の手を握りしめた。
「兄さん、僕はあなたを倒すために戦ったんじゃない。あなたを、取り戻すために戦ったんだ」
---
**つづく**
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