第3話 それぞれの前夜

ラヴ天才テンサイ魔法チカラ

この世のすべてを手に入れた私、ドライ=アムガミスタ。

私が死に際に放った沈黙は、人々を私のものへと変えさせた。

「…………………………………………」

人々は亡き私を求め、世界へと踊り出す。

世はまさに、私一色のジダイ


トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー

トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー

タンタンタン

見つけた あの森のなかに

ずっと 探してた タンタンタタタン

君が 落とした

星の カケラ ソウソウソウソウソウ

いまさら ごめんね

駆け抜けた 心の階段 トゥルルルルンチ

射抜きたい その笑顔 

いまならば できるはず フワフワフワフワフワ

その心に 従うよ☆

トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー

トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー


主題歌 「いくよ!精霊少女ッ」

作 ドライ=アムガミスタ

曲    〃


異世界における少女とは?

――質量保存の法則を無視した力を酷使する、無垢な少女。

異世界における???とは?

――そこに住まう人々を守り、隣人を愛す存在。

つまり、森の精霊。

私はそれになりたくて、それに憧れて。

何十年も彷徨っていた。そして……


前回のあらすじ

セシアのメイド服が可愛くて、思わず泣きそうになった私。

世話をしてくれるセシアには頭が上がらないわね。

父は君主についてなにか言っていたけど……

今は保留。

さあ、外の世界を見てみるのよっ


【ドライ999年・ランス島】


吐き気を催すほどの揺れ。

喜怒哀楽全部をごちゃごちゃに混ぜたような感覚。

何も食べていないのに、胃の中のものが全部出てくるような錯覚。

もはや気絶してしまいたい、楽になりたいと。

何度思ったのだろうか。

慣れることなど無い、ただ不純物を含んだ歪な鈍痛が頬を焼くのだ。

揺れる、触れる、廻る、落ちる、外れ、止まない。

どこまでも、どこまでも続く。

足元が見えない、ぼんやりとした身体。

多分私は今、生物ですら無い。

時間も概念もなく、ただ無為な骸。

ああ、どこまでも、どこまでも私は落ちていく。

しかし別種の刺激いたみが、射抜く。

私は、こんな場所にいたって、まだそんな物を探していたのか。

随分と幼稚で、すぐに蓋をしたくなるような。

光……私が求めるには、私の目では耐えられない輝き。

ああ、私はこれが欲しかったんだ。

今、やっとわかった。

「ほ〜らイフィ。あんたはかわい〜ねぇ」

ガラスを3枚ほど隔てたような視界が、私の世界。

そう認識するのに、僅かばかりの時間もかからなかった。

目の前の人が、私を持ち上げているこの状況も。

なんとなくだけれど、掴める。

おそらく私は今、以前の私ではない。

四肢の感覚が恐ろしいくらいに遠い。

そこから推察するに、私は正常な状態にない。

全身が病に冒されているか、あるいは……私じゃない誰かになったか。

私の以前の記憶をたどるなら、後者の可能性が高い。

「……あn」

やはりだ。呂律が回らないのではない。

ふつうの身体ではないのだ。

そこまで考えて私は、自分に氷水をかけたような考えを、振り払う。

少しだけ、少しだけ忘れよう。

今までのこと、今までの私のこと。

「大丈夫だよ、イフィ。」

案外、心地良いじゃないか。

私の名前はイフィ。

イフィ・リート。


【ドライ999年・キャスター島】


光、光、光。

私が知覚できる、唯一の情報。

それ以外は、端にすら入らない。

目がくらんで、手足が億劫で。

数十秒、そうしていた。

けれど、それもやがて慣れる。

少しずつ、色が、世界がやってくる。

どこまでも続く空、それを彩るように立ち込める雲。

ただ美しいと、情けなく口を開けて思う。

爆発の瞬間を切り取った雲が、ゆっくりと過ぎる。

川の流れる音、虫の鳴く音、人々の声。

この窓から聞こえる様々な音。

忘れたくない。と切実に私は思った。

煉瓦造の家々が立ち並び、その合間を石畳が縫う。

その向こうには、きれいに整えられた畑が連なる。

そこには、私の知らないものが、どこまでも広がっていた。

「う……うn」

私は、泣く。

ごめんね、セシル。

そう思いながら。

訳も分からず、窓辺の縁で。

何が悲しいのか、何が嬉しいのか。

長い時間が経って、それでもこの景色が残っていたことが。

「ドライちゃん!?」

いきなり椅子から立ったせいで、セシルはバランスを崩す。

しかし、セシルは究極のスーパーメイド。

この程度のことでは、うろたえたりしない。

「あっぶないですよ!」

即座に体勢を立て直し、私の元に飛び込んでくる。

その間もずっと、私は泣いたまま。

止めることなど、できない。

「もうっだめですよ」

私を包む大きな御手々が、ゆっくりと私を持ち上げる。

セシルは私の全身を、舐めるように見る。

ぶつぶつぶつぶつ。

怪我はないかとか、顔色は悪くないかとか。

私に触れている部分は恐ろしいくらいに温かいのに、顔が笑っていない。

セシルには心配をかけてしまった。

こんな小さな体では、どんなことでも大冒険になってしまう。

情けないやらなんやらで、私はまた小さく泣く。


【ドライ999年・キャスター島】


「ねぇドライ。こんなのはどうかしら」

突然だが、私の母はめちゃくちゃ可愛い。

白に薄く紫が掛かる髪。

そして左右に装備されているロール。

凛と整った鼻筋に、キリッとしながらも可愛げのある双眸。

赤と黒を貴重にしたドレスは、フリル満載だ。

そして私が一番好きなのは、そばかす。

母の顔に浮かぶ、美しいそばかすだった。

私に今喋りかけているのが、私の母ロンゼッタ。

ロンゼッタ=アムガミスタその人だ。

赤、青、黄、緑、紫、桃……濃淡様々な色彩の洋服を、私は着ている。

いや、着させられている。

絶賛、着せ替え人形中なの。

悪い気分ではないにしろ、いかんせん私の母は服が好きだから仕方ない。

そんな母に、新たに我が子が生まれたとなればこうもなる。

「も〜たまらないですわ」

次に私に着せる服を見繕い、母は私を抱き寄せる。

父も母も、本当は私に会いに来る余裕なんて無い。

私も騎士を経験したから。

あれは正直、他人ほかのひとには任せられない。

騎士家も君主も、基本的には領民を持たない。

中立国家ヴェプラムの国民は全て、君主ヴェプラムの名のもとにされるのだ。

この考えを元に、騎士家は、多大な国民を、それぞれが分担して守護するのだ。

そう、ここで重要になるのが位だ。

1位から15位までの番付は、この国民を割り振るためという意味合いも持つ。

最高位である1位の騎士は、おおよそ100万人の守護を。

2位は80万、3位は70万、4位は60万、5位は50万、6位は40万、7位は30万、8位は20万、9位は10万人、10位は9万人、11位は8万人、12位は7万人、13位は6万人、14位は5万人、15位は4万人を守護する。

こんな具合で、6大陸の内の一つである中立国家ヴェプラムは、1000万人を超える人々を守っている。

まあ、これは大凡の目安でしかなく、一番優先されるのは人々の意思だ。


[次回予告☆]


母ロンゼッタが来たときに眠ってしまった私。

起きたときにはすでに……

この国はどんな仕組みで動いているの?

というか、私が生きていた頃と殆ど変わって無い気が……

ちなみにこれは私の記憶もあるけど、セシルが聞かせてくれたものを、私がまとめているんだぜ☆


次回、「初めての夜」さあ、一気に行っちゃいましょサービスサービス!



[次回も見てね☆]

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