第2話 あの日
この世のすべてを手に入れた私、ドライ=アムガミスタ。
私が死に際に放った沈黙は、人々を私のものへと変えさせた。
「…………………………………………」
人々は亡き私を求め、世界へと踊り出す。
世はまさに、私一色の愛。
トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー
トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー
タンタンタン
見つけた あの森のなかに
ずっと 探してた タンタンタタタン
君が 落とした
星の カケラ ソウソウソウソウソウ
いまさら ごめんね
駆け抜けた 心の階段 トゥルルルルンチ
射抜きたい その笑顔
いまならば できるはず フワフワフワフワフワ
その心に 従うよ☆
トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー
トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー
主題歌 「いくよ!精霊少女ッ」
作 ドライ=アムガミスタ
曲 〃
異世界における少女とは?
――質量保存の法則を無視した力を酷使する、無垢な少女。
異世界における???とは?
――そこに住まう人々を守り、隣人を愛す存在。
つまり、森の精霊。
私はそれになりたくて、それに憧れて。
何十年も彷徨っていた。そして……
前回のあらすじ
自分が死んだ1000年後に生まれた私、ドライ=アムガミスタ。
痛みを超えた先にあったのは、巨大な人影であった。
修道女におんぶに抱っこの私でも、前世はすごかったんだぜ。
1000年前くらいの歴史もちょっと言ったかな?
そんな訳で、今日も始まります。
【ドライ999年・キャスター島】
突然私は、泣く。
その行為には意味があったりなかったりするのだが、止められない。
お腹が空いた、気持ち悪い、寒い、飲みたい、etc……
感じるものは沢山あるのに、どれになっても私は泣く。
例外なく、誰に遠慮するでもなく泣いてしまう。
「ドライちゃん、どうしたの?」
セシアはいつもここにいる。
全体的にスラッとしていて、目には僅かに緑が。
落ち着いた印象で、いつも小さく微笑む。
おまけに色白で、世話好き。
ただの修道女では無いと、私は睨んでいる。
もしかして何処かの騎士家の3女とかだったり。
セシアはメイド服を彷彿とさせる、黒を貴重とした制服を着ている。
それこそは、我がアムガミスタ家に代々伝わる伝統の一つ、純銀の
父のイーデハルトが重度のメイド服好きであることは、皆知っていると思う。
そこから分かる通り、私の
メイド服が好きなことが阿呆なのでは無い……その事を隠そうとしないどころか、家独自の文化にまでしてしまうのところが、どう仕様もなく阿呆なのだ。
かくいう私も、メイド服を無理やり着せられることが多々あったが、いい思い出が一つもない。
血の
他にも挙げようとすれば色々あるが、昔の父ノールドベルンはそんなことばかりしていた。
いつも笑顔で、メイド服の量産計画にどんな事業よりも熱意を傾けた父……やっぱり阿呆だった。
そんなこんなで阿呆が多い我家だが、セシアはこの
「これ、可愛いでしょう?」
と一回転されれば、逆らえるものなどいないはずだ。
以前よりも、25%フリルが増量されているそうだ。
フリルが増量とはこれ如何に。
私が泣いていたのを元気づけてくれようとしたのか、セシアはぎこちなく笑う。
ここは普通、よしよしとかではないのか?
まるで新しくもらってきた服を兄弟に見せびらかすような態度だ。
「うn」
返事はできないけれど、笑顔くらいは作れるさ。
小さな顔に、それまた小さなしわができ、ニッコリと笑顔を作る。
「可愛い――ドライちゃんはなんて可愛いのかしら」
だろうだろうと、私はキャッキャする。
やばい、嬉しすぎて泣きそう。
セシアは甲斐甲斐しく私に世話をしてくれる。
父と母が膨大な職務に追われているからだろうか?
詳しい理由を、私は知らない。
けれど私は、これでもセシアに感謝している。
言葉が喋れればいいのだが……
父と母に会うことは、なかなか難しい。
それでも私のために必死に時間を作る父と母の姿は、とても好ましい。
少し趣味が悪いかな?
15位の騎士家であろうと、1位の騎士家であろうと、それぞれに義務と権利がある。
15位の騎士家だから義務がないとか、そんなことは無い。
今日は確か、円卓君騎議会が行われているはず。
昨日遊びに来た父が、ため息とともに漏らしていた。
「ドライ〜父は、父はもう疲れた。」
ちょっとだけ目がうるうるしている。
15騎士それぞれの当主の証である、円卓の
金髪でふくよかな体型の父、イーデハルト=アムガミスタ。
「生きたくないよ〜明日の議会。だって」
アムガミスタ家当主である父には、常日頃から膨大な量の職務と、それに比例するくらいの
今の時期は丁度、職務にあてがわれていると言っていた。
おそらくあと数ヶ月すれば、父も母も、ここに入り浸る気がする。
これはあくまでも予想だが。
「だって、当代の君主は何かが変だ」
急に真顔になる、父。
ちょっとやそっとのことでは真剣にすらならない父。
然し今は、それは鳴りを潜めている。
「ドライ。お前はきっとメイド服が似合う」
やっぱり阿呆かもしれない。
「では、また会おう!」
嵐のように、父は生きる。
また、数日ほど経って。
私はゆりかごに手をかけ、部屋を見渡す。
端正な家具が置かれ、誇りの一つも見えない清潔な部屋。
侘び寂びとでも言うのだろうか。
成金趣味なものは一つもなく、ただ全てにおいて調和が保たれている。
これは何?
昨日までは気づかなかったけど、ゆりかごの真隣に同じくらいの高さの台が置かれている。
この部屋の窓には全て白いカーテンがかかっていて、中々外の景色が見えずらい。
だから今まで、しばらくは外は見れないかな。
なんて思っていたのだが。
もしかすると、この台に登れば外が見られるかもしれない。
セシアは……寝てる。
人は……いない。
よし、行こう!
でもこのままじゃちょっと高さが足りないから、布団を半分に折る。
それでも足りなくて、小ちゃい枕も足しにする。
そして小さな足の指先が、ゆりかごの網目に掛かる。
うまく力が入れられなくて、なんとか引っ掛けてバランスを取る。
「う……うn」
足に体重をかけて、手のひらで台を抱える。(この場合一方的に抱きついているだけ)
両手でバランスを取り、足を何度もかけ直す。
ちょっとでも高いところにかけ直して、上に上がる。
「う!」
飛び上がるようにして、台の上に乗っかる。
やった、登れた!
随分と手間と時間がかかったけど、ゆりかごから出れたのだ。
これは大きな進歩だ。
しかしここで終わりではない。
左奥の窓に付くまでが、私の計画だ。
そっと、足をもつれさせないように、ゆっくり。
なるべく右側を見ないようにしながら。
どうしても、私はやり遂げたい。
ペタペタとした可愛らしい感触に思わず頬が緩みそうになるが、気は抜けない。
初めてのはいはいで、縁を進んでいく。
一番陽が強く指している窓。
カーテン越しからでもわかる、遮蔽物の少ない場所。
やっとのことでついた私は、カーテンに手をかけた。
[次回予告☆]
はいはい。それでやっと窓についたのね。
遅いったらありゃしないけど、頑張ったほうだわ。
外の世界はどうなっているの?
セシアを少しは休ませてあげて!
知りたいことだらけだけど、ゆっくり探していくわ。
次回、「それぞれの前夜」新キャラ登場!?新たな期待が弾けそうっサービスサービス!
[次回も見てね☆]
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