18.5話

「クソ、マジでなんなんだよアイツ」


 とある理由で最近学校へ行けていなかった女子高生は、意地もあって再び学校へ登校しようと最寄りの駅へ向かっていた。


(昼間は現れないから、大丈夫だろうと思ったのに。というかそもそもあたしがこいつを気にして自分の生活めちゃくちゃにされるのはもう嫌だ!こんな奴はシカトだ、シカト!負けてたまるか!)


 シカトする、とは決めたものの、どうしても後ろの人影が気になりちらちらと確認してしまう。周りの人からすれば、若干挙動不審であっただろう。後ろには誰もいないのだから。


(なんであたしがこんな目に!つーかアタシのとこにしか来てねーのかよ!ザクロも見てないっていうし。ふざけんなよ、いじめてたのあたしだけじゃなくない?そもそもお前が勝手に○んだんじゃん。○ぬのを選んだのはお前だろ!)


 駅に着きホームに並ぶ。幽霊はずっとついてきている。空いている場所はあったが、後ろから幽霊に押されて、ホームに落とされそのまま…なんてことにならないように、最前列にならならばないようにと本能的に人の後ろに敢えて並んだ。

 幽霊を気にしてか、普段より速足だったこともあり、いつも少し早く着いた。目的地へ停車する電車は特急列車を見送ってからだ。

 幽霊はすぐ後ろに並んだ。


(こいついつまで付きまとうつもりだよ。ていうか何がしたいんだよ。呪われるんじゃねーかと最初はビビったけど、結局こいつは何もできねーんじゃねーか?)


「ねえ、あなた」


 唐突に声をかけられ前を向くと、最前列に並んでいた女子高生がこちらに向き直っていた。


「あなた、人を○に追いやって、なんとも思わないの?」

「はあ?急に何言って…」


 その女子高生は、全てお見通しだと言わんばかりに、冷たい視線を向けていた。


「何って、てっきりその子を○に追いやったのだと思った。ずっとつけられてるし」

「あんた、これが見えるの!?」

「うん。それに…」

「それに…?」

「あなたのようないじめっ子、いや、畜生どもはいっぱい見てきたの。だからなんとなくわかる」

「はあ!?」


 女子高生は薄ら笑いを浮かべている。


「だったらなんだよ、今更どうするってんだ。もうとっくにこいつが勝手に死んだってことで収まってんだよ。教師達も事なかれ主義だからな、学校じゃ調査したけど分からなかったってことで終わってんだよ!誰もあんたの話聞かねーよ!ましてや、ユーレイが訴えかけてますなんて話をさあ!」

「そんなことしない。でも、あなたは報復を受けるべき」


 最前列の女子高生は、幽霊に向かって唆す。


「いいの?見ているだけでは、せっかく幽霊になっても行動を起こさないと何も起きないよ?」

「こいつ、結局何にもしてこなかったから!○んでも何にもできない。バカは○んでも治らないってのは本当ね!」


 幽霊はうつむいたまま、誰の言葉にも返さなかった。


『やっぱりは、ヒトではない。』

こそ○ぬべきだ。』


 ホーム側を見ると、黒い人型の影が女子高生2人と、幽霊を取り囲むように半円形に並んでいた。。


「な、何よこいつら!」

『○ね!』

『○してやる!』


 人型の影たちはホーム側から女子高生に襲い掛かろうと、手を伸ばして距離を詰めてきた。


「く、来るな!…っあ」


 畜生は思わず後ろへ飛びのいた。本来最前列に並んでいた人を背中で突き飛ばしてしまうはずだった。その畜生は誰にも、何にもぶつからなかった。最前列にいた女子高生そすり抜けて、そのまま…。




 ***




「もしもし、課長ですか?私です。ええ、そうなんです電車が…」


「おい、女子高生が特急に飛び込んだらしいぞ」


「電車が来る前に、ホームで1人で騒いでるのを見た人がいるらしいよ」


「最近多くない?」


「やった、授業サボれる」



 改札口にいる通勤途中の、あるいは通学途中の人々が口々に先の人身事故について語っている。

 誰も、黒い人影の集団には気づいていない。


『分ったでしょう、アイツらは反省なんてしていないの。○してしまった方がいい存在なのよ。今回はこの子たちがヤッちゃったようなものだけど、次からはできるでしょう?』


 1人、黒く染まっていない人影は、怪しく微笑む女子高生に対し、何も答えなかった。


『さあ一緒に行こう。大丈夫、この子たちはあなたの仲間よ。もちろん私も。友達になりましょう。あ、私、石水あきらよ。よろしくね。』

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