白い夏の陽炎
crow
第1話 なんでもない日常
放課後の校庭には、まだ柔らかな日差しが残っていた。
中学三年生の天野 美羽(あまの みはね)は、制服のリボンを少し直しながら、隣を歩く、稲葉 白兎(いなば はくと)を見つめた。
「今日の数学のテスト、全然わかんなかったね……」
美羽が小さくため息をつくと、白兎は頭をかきながら首をかしげ、目を細めて、にっこり笑った。
「俺も。だけど美羽、いつも落ち着いてるよな」
「そんなことないよ、白兎だってテスト前は緊張してたじゃん」
二人の会話は、教室での何気ないやり取りの延長線上にあった。
廊下ですれ違う友達が「お疲れ!」と声をかけていく。
ふたりは笑顔で挨拶を返す。
クラスの誰から見ても、二人は仲の良い幼馴染だ。
学校を出ると、放課後の街並みが広がっていた。
下校する学生たちや、近くの保育園に子どもを迎えに行くママさんが自転車で通りかかり
すれ違いざまに、軽く会釈を交わす。
「あ!美羽ちゃん、今帰り?気をつけてねー」
この街の人たちは、みんな温かくて優しい人が多い。
白兎は、美羽と共に生まれ育ったこの街が大好きだった。
帰り道、馴染みの小さな駄菓子屋に立ち寄ると、店主のおじさんが笑顔で迎えてくれた。
美羽は好きな飴を選び、白兎は小さなカゴに駄菓子を入れて会計を済ませると、店主のおじさんから「いつもありがとうね!」と、ちょっとしたおまけに、ガムをもらった。
「これ、今日のお礼。ノート貸してくれて助かったよ。」
白兎が差し出した駄菓子に、美羽は思わず笑みを浮かべる。
言葉にしなくても伝わるずっと一緒に歩んできた時間が、二人の絆を静かに温めていた。
帰り道の黄昏に染まる空は、柔らかく二人の影を映す。
手をつなぐわけでも、特別なことを言うわけでもない。
でも、隣にいるだけで心は満たされる。
そんな、なんでもない日常。
「明日も一緒に帰ろうね」
美羽が小さくつぶやくと「そうだな」と白兎は照れ臭そうに笑った。
その笑顔に、二人の幼なじみの絆が、静かに輝いていた。
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