第5話:魔弾の証明
レリアの工房は、文字通り私たちの共同研究の拠点となった。私は前世の知識を活かして、火薬の燃焼速度や、銃身内での圧力の変化を計算し、弾丸に最適な魔力付与のタイミングを割り出した。一方、レリアは、その理論に基づき、魔力を物質に定着させるための複雑な魔法陣を、幾度となく試行錯誤して作り上げていった。
「魔力を均一に定着させるには、この魔法陣の角の角度を3度変える必要があるわ」
彼女は、銀色の髪を耳にかけながら、フラスコの中の液体を凝視し、そう呟いた。その真剣な眼差しは、私の知的好奇心を刺激し、研究は飛躍的に進んでいった。私たちは互いの知識を共有し、この世界の常識をはるかに超えた領域へと足を踏み入れていった。
数週間後、私たちはついに、試作品の「魔力弾」を完成させた。それは、通常の鉛の弾丸に、魔力を封じ込めるための微細な魔法陣が刻まれたものだった。見た目は変わらないが、その内部には、膨大な魔力が眠っている。
私は、完成した魔力弾を手に、レリアと共に領地へと戻った。父と兄は、私たちが持ち帰った「魔力弾」を半信半疑の様子で見ていたが、私は彼らの目の前で、その威力を証明してみせることにした。
場所は、領地の軍事訓練場。遠方には、訓練用の巨大な岩が的として置かれていた。私は、父と兄、そして数名の兵士が見守る中、試作型魔力銃に魔力弾を装填した。
「ジーク、本当に、こんな小さな弾丸が岩を砕くというのか?」
兄は不安そうな顔で尋ねた。無理もない。この世界の常識では、巨大な岩を砕くには、複数の魔術師が協力して大魔法を放つか、熟練した戦士が何日もかけて剣で打ち砕くしかない。
私は答えず、ただ静かに狙いを定めた。魔力銃の銃身に、魔力が流し込まれ、複雑な魔術回路が淡い光を放つ。レリアが隣で、私の魔力波を測定する魔道具を操作していた。彼女の瞳は、期待と緊張で輝いていた。
引き金を引く。
「ッ!」
雷鳴のような轟音が、再び響き渡った。放たれた魔力弾は、光の筋となって一直線に飛翔し、的の岩に命中した。
結果は、私たちが想像していた以上だった。岩は砕けるどころか、弾丸が当たった部分を中心に、まるで巨大な爆発でも起こしたかのように粉々に吹き飛んだ。土煙が舞い上がり、周囲の兵士たちは、ただ呆然とその光景を見つめていた。
「ま、まさか……」
兄が言葉を失い、父も信じられないというように目を丸くしていた。彼らの顔には、驚愕と、そして深い安堵が入り混じっていた。この魔力銃と魔力弾は、私たちの領地を守る上で、何よりも頼もしい武器となる。その事実が、彼らの心を強く打ったのだ。
その夜、王家から再び使者が訪れた。彼らの表情は、以前とは全く違っていた。傲慢さや高慢さはなく、ただただ、ジークという存在への畏怖と、その背後にある技術への欲求が滲み出ていた。
「ジーク=クレイン殿。王家は、この度の婚約について、再度協議の場を設けることを望んでおります」
私は、静かに微笑んだ。
「承知いたしました。ですが、その前に、一つだけお伝えしたいことがあります。この度の技術は、我がクレイン家と、我が共同研究者の功績です。決して、王家の力で得られたものではないことを、ご認識いただきたい」
私の言葉に、使者の顔が引きつった。私は、この技術を渡す気はないと、暗に伝えたのだ。そして、この魔力弾は、単なる武器ではない。それは、前世の知識とこの世界の技術、そして私の人生を懸けた、未来への挑戦の結晶なのだ。
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