第9話: 二つの光、選ばれし者
大和未来党の党大会。
大阪中之島の大ホールは、数千人の聴衆と全国から集まったメディアで埋め尽くされていた。
照明が交差し、党旗が揺れる。壇上に現れた津守新の姿に、会場は割れるような拍手と歓声で満たされた。
「諸君──」
津守の低い声が、静寂をつくりだす。
「我らの未来を照らす光を紹介しよう」
後方から現れたのは、副代表・
長身に漆黒のスーツ、かつてスクリーンを彩ったスターの微笑み。
アナウンサーが紹介文を読み上げる。
「天城副代表は、二十代で国際映画祭主演男優賞を受賞し、ハリウッドで活躍した経歴を持ちます。難民基金を立ち上げ、多くの子どもたちを救った慈善活動家としても知られています」
会場からどよめき。
「国民的英雄だ」
「政治の光だ」
とささやきが広がる。
津守は隣に立つ天城を見やり、力強く言った。
「彼こそは、我ら、大和未来党の未来の象徴(そのもの)だ。
癒しと救いの光が響命教の美央子様。
天城先生は何より清廉、そして導きの光だ。
先生は、旧いしきたりを打破し、
政治を前に前に進める、改革の灯火。
この二つの光が、この国を導く!」
割れるような拍手。
観客の目には、確かに二人が並び立つ姿は光の対に見えた。
美央子も壇下から見つめ、胸の奥に熱を覚える。
******
その時だった。
──乾いた銃声。
津守の右肩に衝撃。スーツが裂け、鮮血がにじむ。
悲鳴、混乱。
だが津守は倒れず、壇上に立ち続けた。
二発目。
群衆を見渡し、手を振ろうと一歩前に出た天城の胸を、弾丸が撃ち抜いた。
彼は崩れ落ち、会場は絶叫に包まれる。
「天城先生!」
「津守様を庇った!」
三発目は壇の装飾を砕き、津守には届かなかった。
群衆の目には──津守は撃たれても立ち続け、天城は命を捧げて庇ったように映った。
******
「神が選ばれたのだ!」
「津守様は選ばれし者!」
「天城先生は殉教の光だ!」
会場は涙と熱狂に揺れ、テレビは繰り返しその映像を流した。
SNSは「奇跡」「神意」という言葉で溢れ、国中が騒然とする。
救護室で包帯を巻かれながら、津守は沈黙していた。
罪悪感と共に、心の奥に確信が芽生える。
──やはり、私は死ぬ時ではなかった。
選ばれたのは、自分だった。
******
一方、美央子は嗚咽する信者たちに囲まれながら、胸の奥に冷たい影を感じていた。
「なぜ……津守様は生き、天城先生は……」
涙を流しながら、答えのない問いを抱えた。
******
翌日、大和未来党と響命教は共同声明を出した。
「津守代表は奇跡的に生き延びられた。これは天命である」
「天城副代表は殉教者として永遠に記憶される」
国民の同情と熱狂は一気に高まり、党と教団は一つの運命共同体のように先鋭化していった。
血と犠牲の上に、新たな神話が築かれたのだった。
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国民の記憶に、この日のできごとは“津守の奇跡”、“天城の殉教”として永遠に刻まれた。
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