近世的市場統制期

■ 概要

市場法制史における「近世的市場統制期」とは、封建国家(日本の幕府・藩政、ヨーロッパの絶対王政)が市場を経済統治の装置として積極的に利用し、取引の安全性確保や課税収入確保のために市場を許認可・統制した段階を指す。この時期、市場は一方で特権的秩序からの解放を志向しつつ、他方で国家権力による強力な規制を受ける二重性を有した。ここで初めて、先物取引・信用取引など高度な商取引形態が制度化され、近代市場法制の前提が整えられた。



■ 1. ヨーロッパにおける近世的市場統制

16〜18世紀、絶対王政下のヨーロッパ諸国は、市場を財政基盤として重商主義政策を推進した。


・市場統制

 交易独占権・保護貿易・価格規制を強化。


・金融市場

 アムステルダム取引所(1602年設立)が世界初の証券取引所となり、

 先物・信用取引が法的課題として現れた。


・商人法から国法へ

 中世的「商人法」が、各国の商法典に吸収され、

 国家の法体系に編入された。


これにより、市場は商人の自律秩序から国家の統治秩序へと転換した。



■ 2. 中国における近世的市場統制

明・清代には、塩・茶・銭などの専売制度が国家の収入基盤とされ、市場秩序は国家の強い統制下に置かれた。一方で民間商業も発展し、票号(為替商)の活動により信用取引が拡大した。国家による専売制と民間の自律的信用経済が並存する点に、中国的近世市場の特色がある。



■ 3. 日本における近世的市場統制

江戸幕府は、市場の秩序を支配・利用するために独自の規制を展開した。


・許認可制

 市や座は幕府・藩の許可を必要とし、無許可の市場は違法とされた。


・問屋・仲買制度

 商品流通を統制する仲介商人が公認され、市場秩序の中核を担った。


・堂島米会所

 18世紀、大阪に成立した米市場は世界最初期の先物市場とされ、

 米切手取引・先渡契約が制度化され、幕府も規制・公認した。


・両替商・札差

 信用取引の担い手として発展し、幕府財政にも深く関与した。


ここにおいて、市場は幕府権力の統制下にありながらも高度な取引慣行を発展させた。




■ 4. 近世的市場統制の法的性格

近世市場の法制的特徴は、


1. 国家権力による市場の許認可・独占的統制


2. 商人団体の組織化(問屋・ギルド・会所)と国家公認


3. 先物取引・信用取引の萌芽的制度化


4. 商人法的慣習が国家法に吸収される過程


である。すなわち市場は、この段階で初めて「近代商法」への移行基盤を持つ制度として確立した。



■ 締め

近世的市場統制期は、封建的特権的市場秩序から近代的市場法制への橋渡しをなす時期である。市場は国家による強力な規制と課税の対象となりつつも、その内部では先物・信用といった高度な取引形態が発展し、近代の自由市場原理と法典化された商法の登場を準備した。この時期は、自由市場理念の「前史」として、また市場法制史の中核的転換点として位置づけられる。

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