中世的市場秩序期
■ 概要
市場法制史における「中世的市場秩序期」とは、市場が単なる取引の場を超えて、領主・寺社・都市共同体など特定の権力によって保護・支配されることで特権的秩序を形成した段階を指す。この時期の市場は、国家的統一法秩序よりもむしろ在地的権力や商人団体の規制に依拠しており、結果として市場独占・座(ギルド)的組織・関銭徴収などの制度が確立された。ここでは市場が「自由」ではなく「特権」の上に成立していたことが特色である。
■ 1. ヨーロッパにおける中世市場秩序
ヨーロッパ中世では、領主や都市が市場開催権(market right)を握り、市場設置には国王や領主からの勅許が必要であった。定期市(fair)は都市の発展に伴い拡大し、商人たちはギルドを形成して特権的地位を確立した。また、商人間の取引慣習から「商人法(lex mercatoria)」が発展し、国境を越える商業秩序の萌芽となった。市場法制はここで、領主的特権と商人自治の二重構造を示した。
■ 2. 中国における中世市場秩序
唐代の律令制市場規制が崩壊すると、宋代には都市の夜市・草市が盛んになり、官の許可を受けつつも実質的には民間の自律的市場秩序が展開した。商人団体(会・行)が組織され、内部規約や取引慣行が市場秩序を支えた。他方で国家も塩・茶・銭といった専売品を設定し、国家的独占と民間市場が共存する独特の二元的秩序が成立した。
■ 3. 日本における中世市場秩序
律令制の市場統制が崩壊すると、平安末から鎌倉期にかけて寺社や荘園領主が市を掌握し、座や関銭を通じて市場秩序を支配した。
・市庭と寺社
門前市が形成され、寺社は宗教的権威と警察的権能を背景に市場を統制した。
・座(ざ)
同業者団体が独占的販売権を得て、他者の参入を制限した。
・関銭
市場での取引に課される通行税・入市料が整備され、権力者の収入源となった。
ここでの市場法制は、国家法よりもむしろ領主的規範や寺社規約に基づいて運営された点に特徴がある。
■ 4. 中世的市場秩序の法的性格
中世市場は「自由」ではなく「特権」に基づく秩序であった。
・市場設置の許可=領主的権能
・取引の独占権=座・ギルド
・課税=市場の収益化
・警察的保護=治安維持と治外法権的性格
このように市場は法的に「開放」されていたのではなく、権力者や商人団体の承認を得た者だけが参加できる閉鎖的秩序であった。
■ 締め
中世的市場秩序期は、市場法制史の中で「特権的市場」が確立された段階である。市場は領主・寺社・都市の権力によって保護される代わりに、その支配と独占を受け入れる形で制度化された。この特権的市場秩序は、近世以降に自由市場理念が登場する際の「反照」として重要であり、封建的統制から近代的市場法制への移行を理解するための不可欠な歴史的前提である。
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