2未確認動物探索部

「沼の歴史を調査しましょう」


大人びた口調でそう言ったのは未確認動物探索部の書記、水木キョウコだった。

夕日が差し込む教室の中三人の生徒が集まって話し合いをしている。部室を持たない彼らは部活動として放課後、5年4組の利用を認められていた。


「ゲンバソウサが先だ。コロンボで見た」


答えたのは1年生のマサルだった。部活動は4年生からだったが特別に入部を許されている。キョウコはマサルの方をちらっと見て口を結んだ。言うことを聞かない子供に母親が見せる表情だとナオトは思った。山田ナオトとマサルは兄弟で9号棟に住んでいる。


「部長の意見は」


部長とは僕のことだった。その言葉に身を正し、


「日曜日に市内の図書館に行こう」


マサルが口を尖らせ何か言おうとしているのを遮り


「バスに乗れるわね。お弁当も用意しましょう」


マサルの顔色が変わり興味ありげに身を乗り出してきた。このままだとおやつも用意する必要がありそうだ。元々二人は会った時から馬が合い仲が良かった。水木キョウコは書道部(母親が書道教室の先生)との兼任で未確認動物探索部に所属している。


顧問の境京子先生(こちらもキョウコ)の打診があったのは後からキョウコ本人から聞いた。何でも僕の書く字があまりにもキチャナカッタからだそうで、そんな風に言われ情けなかった………キョウコは弟をのせるのが上手で、一緒にはしゃいだり、時に厳しく付かず離れず良い関係を築いていた。兄の言うことは聞かないが、キョウコに対しては従順で、それはキョウコが美人だからだろうと僕は分析している。


今回もマサルは納得したようだった。下校時刻を知らせる放送が流れ今日の部活動はここまでとなった。ナオトの通う三川小学校はこの団地内のほぼ中央にあり、団地に住むほとんどの子供が通っていた。ナオトの住む9号棟は団地の北端に建っていて、4号棟に住むキョウコとは途中まで帰り道は一緒だった。


「細谷さんとは途中までクラス一緒だったんじゃない?」


「1年と2年の時一緒のクラスだった。9号棟の子で一緒に下校してた」


マサルはナオトらの先を体操着の入った巾着をボコボコ蹴りながら歩いている。


ミカとはよく棟の前にある公園で遊んだ。ミカは9号棟の5階に住んでいて

(ナオトたちは1階)遊びにお邪魔すると、団地内で一番標高の高い立地とそれに加えて最上階からの眺めは壮観だった。市内の高層ビルが霞んで見え、さらに遠くにある遊園地の観覧車も見えた。ミカの母親も良くしてくれてミカの家に遊びにいくのが楽しみだった。


3年生でクラスが変わり、習い事の多かったミカとはだんだんすれ違いになり疎遠になっていった。


「沼になんで近寄ったんだろう?真面目そうな子だったのに」


それを聞いてナオトはしばらく考えこむような顔をして呟いた。


「ケルピー」


「えっ?…ける?…って何?」


「ミカクニンドウブツ」


「ああ未確認動物の名前ね…細田さんと関係があるの、そのけるなんとかと」


「それをこれから調べるんじゃないか」


キョウコはいつもと違うナオトの態度に驚いていた。マサルと違い口数少ない印象だがキョウコから見るとまだ子供っぽいと思っていた。しかしその口調からは信念のような響きが感じられた。夕闇迫る中キョウコは初めてナオトのことを怖いと思った。




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