第8話
「魔力を見る?」
「うわっ!?」
急に耳元で響いた声に思わずのけ反る。いつの間にか俺の真後ろに来ていたタン様は軽く笑った。
「すまない、驚かせるつもりはなかったんだ。随分気になる事を話していたからつい」
「あれ、ラットさんは……?」
「彼なら今丁度別の汽車の掃除時間だからね。少し席を外しているよ。それで」
興味津々といった顔でタン様は首を傾けた。
「さっきのはどういう意味なんですか?」
「そのままの意味よ、捻りもない直接的なね」
魔力をわかりやすく例えるのであれば空気だ。当たり前にあって、当たり前過ぎて意識しないようなもの。しかし、確かに疑いようもなくそこにあるもの。無色無臭で重さがない。それを見るというのだから、意味不明極まりない。
「アルク君には魔力が見えるのですか?」
「ええ、そうよ。スキル持ちなの」
「それは珍しいですね。どこ由来なのでしょうか?」
特定の個人が持つ力・スキルは非常に珍しいものだがいない訳でもなく、それぞれの種族などによって現れる系統が大体決まっている。その理由は、主に自分の種族が持つ特徴が由来となっているから。例えば、鳥や猫の獣人であれば夜目が効く事に由来して暗がりにあるものが見える=真実を見抜くスキルが出現したりするのだ。
「恐らくだけど、無物強請、なんじゃないかしらね。あるものに鈍感でないものに敏感。そういう人間の特徴の反映だと思うわ」
めっちゃ壮大な話されてるが、俺は見る事が出来るだけでそれを使って何か出来る訳じゃない。魔力の濃淡や本人のものかどうか見分けられたとしても、俺にはそれがわかるまでで留まってしまう。やるせない能力だ。
「ほら、全員一旦外出なさい」
「え、ちょっと」
師匠は、サンスさんとウールさんを連れて外に出て行ってしまった。まぁ、スキル持ちっていうのは魔女や銀髪碧眼程珍しくはないが数が多い訳でもない。知る人は少ない方がいいか。
「見てても大丈夫かい?」
「はい、どうぞ。面白味はないですが」
師匠がタン様を連れて行かなかったという事は、別に見せても問題ないという事。そこら辺の決定権は師弟関係としてはっきりしているのだから不思議だ。こちらとしては確認しなくていいから有難いけど。
「それじゃ、ちゃっちゃと終わらせちゃいますかね」
……向こうでまた喧嘩勃発しないうちに。
そんな余計な一言を添えつつ、ネックレスチェーンを取る。服の中から引き出すと、通してあったのはシルバー基調の透かし彫りリングだった。アイオライトがはめ込まれていて、実に繊細で美しい芸術作品のようなもの。少々古いが誰が見ても一目で上質だとわかる。
リングをチェーンから外し、右手中指にはめた。瞬きをすると瞳の色が変わった。深い紫色、まるで指輪の宝石に影響されたかのようにそっくりな色。
「さてさて、問題の場所は……」
準備が整い汽車に目をやった。
「……」
「どうしたんだい?」
すごい、な。上の方は見えるのだ、そりゃもうしっかりと。……下、真っ黒やん。十中八九原因これだろ、探す手間省けたけどさ。
「いえ、問題見つかりました」
これを思いつかなかった自分とわかっていたのに黙っていた師匠への言い表せない感情を押し殺し、とりあえず汽車の下を見てみる。サウスさんが見てたところだな、魔力が濃いのは棒の部分?あ、違うこれ車輪か。魔力濃過ぎてよく見えないな……、もっと近くで
「アルク君!!!」
「え」
突然肩を力強く引っ張られ、受け身を取りきれずしりもちをついた。
「っ……」
「アルク君!!聞こえるかい!?」
「え?」
肩をガシッと掴まれる。心なしかタン様の声が濁って聞こえる。
「ごほっ」
喉の詰まった感覚に咳をすると掌に触り慣れない感触。少しずつ頭痛もしてきた。
「アルク君!!」
あまりの頭痛にボーッとしてきた。意識の向こう側で誰かが何か話している気がする。
まだ、確認、し終わってない、の、に……。
俺は耐え切れず、そこで意識が途切れた。
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