【Track.08 / Shy girl】
とにかく家を出ただけで別に宛がある訳じゃない。
外を歩いて新鮮な空気を吸っていたら自然と具体案が降りてきやしないかという淡い期待を抱いての突発的な行動。
スマホの歩数計が平均値を超えた頃、電話し辛い軟弱太郎に降りてきた案が、このまま歩き続けていたらその先で偶然ばったり会うかもしれない、なんてものだった。
はてさてその確率は何%くらいのものなのだろうか。
同じタイミングで夕飯の買い出しに出るなんて事が。
いや遊びにでも何でもいいんだけど。
そこでふと出くわしたコンビニへ顔を向けると知る人ぞ知るアニメキャラが描かれたポスターに目が留まった。
『対象商品を二個購入すると「クリアファイル(全七種)」が一枚もらえる!』
こ、これは!SNSで見掛けてずっと気になってたやつ!欲しいなぁ。いやでもなぁ・・・恥ずかしいのよ・・・ショップでもない普通の店でキャラの入った物をレジに持って行くのがさ・・・。
こんなの欲しいのかよ。オタクかこいつ、なんて店員から蔑む視線を食らう可能性を考慮すると喉から手が出そうになっても前を通るだけで視界に入れる事すら躊躇われた挙句いつも買えずにいる。
毎度今日こそは・・・と入店してもそれを前にすると思わず腰が引ける。
だからこそ用意してました、サングラスとマスクぅ!
こう言う日の為にずっと鞄に忍ばせておきましたよ、と。
これがあれば堂々とレジまで持っていける。顔を隠してしまえば恥ずかしがっていたって相手はわかりっこないし、例え蔑む視線を向けられていたとしても私がそれを視認する事は無いからなぁ!これで懸念が完全に払拭されると言う訳だ。まさに無敵。
手早くそれらを身に着けガラスに映る自分を見る。
完全防備!完璧だ。よぉし行くぞ!
待ってて愛しの「Kろっく!」クリアファイル!
大手を振って自動ドアへと一歩踏み出した時、ふと後ろから呼び止められる。
「あっ!あのぉ・・・」
ギクッ!・・・まさか店員か・・・?挙動不審のあまり声掛けを行ったのか・・・?
そのまま硬直して相手の二の句を待っていると、
「先輩?ですよね・・・?」
先輩・・・?私を先輩と言うのはもしかして・・・。
さっと首を巡らせると探し求めていたあの子がそこに居た。最後に会ってから今日までの三週間、会えない運命に翻弄されてからのやっとの再会に嬉々としてくるりと振り返りぐいっと近寄る。
「久しぶりー!元気してたー!?」
「あっはい!あの先輩・・・なんですよね・・・?」
怪訝な表情を見てはたと気付く。
「ああごめんね。わかり辛いよね」
外して素顔を晒すとその子は親を見つけた迷子の子供のように涙目になった。
「せんぱ~~~い会いたかったんですよぉ~~~」
「私も」
「えへへへという事は相思相愛・・・なんて!いや~~~」
突然紅潮した頬に手を当てて恥ずかしそうに頭を左右に振り始めた。
「って先輩、どうしてそんな恰好してたんですか?見つけた時、戸惑いましたよぉ!」
「ああこれ?これには深い訳があってね・・・って君はよく私だとわかったね?」
外した物を一旦掲げて答えてみせてからこれ以上言及されまいと話しをはぐらかし後ろにそっと隠した。
「部室で見掛けたギターケースと同じ物だったのでもしかしてって思いました!」
「なるほど」
それもそうか。それなら暑い中、背負ってきた甲斐があったというもの。
「ところで入らないんですか?何か用があるんじゃ」
首を傾げたこの子から例のポスターが見えないように少し横にずれる。
「いや、あはははは。ほら今日も暑いじゃない?だからアイスでも食べて涼もうかなぁって」
「今日も照ってますもんねーしかもこんな真夏にギター持ってたら余計ですもん」
その子は体を捻って背負ったギターケースを見せてくれる。
「あ!そういえば、知ってます先輩?このコンビニで対象のアイスを二つ買うとクリアファイルを貰えるキャンペーンがやってるんですよー!」
興奮気味に話すその子に気持ちが焦る。
はっ!そういえば対象商品ってアイスだったわ!
思いのまましゃべっていたら繋がってしまったぞ・・・。
「へ、へぇ・・・」
「丁度今日から始まりますから今なら選り取り見取りですよ!今回も是非コンプしたいですねー」
今回もって確か前回は八種類あったはず・・・。
「てことは八枚も!?集めたの!?前回!?」
「え!?まぁそうですね」
なんて事だっ!私なんてコンプは疎か一枚もっ!これまで手に入れた事が無いぞっ!
「あ!先輩これですよ!Kろっく!」
衝撃で固まった私の脇から例のポスターに指を差される。
「へぇ・・・」うん知ってる・・・(泣)。
かっこつけて無知を気取っていても内心羨ましさに号泣していた。
「この作品、ストーリーの完成度が高いのも然る事ながら登場するキャラクター達が皆個性的で魅力に溢れているんです!一人一人にちゃんと役割があってそれが上手く絡み合って面白くなっていく様が観ていて爽快なんですよ!それにああいう学園生活は永遠の憧れですねー!」
「あーわかるなーそれ。誰もが思い浮かべる理想の学園生活って感じ。部活に懸ける青春って言うか。特にさ、十二話の怒涛の展開って凄くなかった?エンディング入った時、二クール目はどうなってしまうんだーって」
「わかりますー!その入り方も神掛かっていて次回の期待値爆上がりで早く一週間経ってくれーって・・・あれ?」
「あ・・・」
しまった・・・共感できたのが嬉しくてつい話しに乗ってしまった・・・。
「ストーリーを知っている・・・それにクールって言葉・・・先輩ってもしかして・・・」
こればれたよね!ばれたよね絶対!?
私が「そう」だって事!
「いやぁ・・・何て言うかそのぉ・・・」
怪訝そうな半眼を向けられて咄嗟に視線を逸らす。
ポスターと交互に見つめてくるその子を横目に、何か上手い言い訳が無いかと必死に思考を巡らせる。閃きに呼応してわざとらしく手をパンと叩いた。
「あ、そうだ!ここで会ったのも何かの縁!よかったらギター、見てあげよっか?家ここからそんなに離れてないしそこでどう?」
「えっ!?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。
鎌を掛けたつもり・・・なんだけど直接過ぎたか・・・?
「いやほら試験まで後もう少しじゃない?だから受かる確率を少しでも上げるために何かサポート出来る所があるかもって思って。もちろん無理強いはしないよ!?君もギターを持って来ている訳だしお返しには丁度いいかなぁって、あはははは・・・もしかして必要ない?」
ちょっと強引か・・・?まだ親しい仲とは言えないのにいきなり家に誘われたら怖いかな・・・。
「そ、そんな寧ろいいんですか!?」
「え、ええ。君が良ければだけど」
目の輝きが増して歓喜している様子に内心ほっとする。
「もも、もちろんですっ!なんなら願ったり叶ったりと言いますか!あ、いや!えっと、と、とにかく!ほほっ本日は宜しくお願いしますっ!」
深々とお辞儀をされて、どう返していいものかと一瞬悩み、片手をぎこちなく挙げるにとどまった。
こういう時、どうするのが正解なんだろう。
「う、うん・・・宜しく」
そんな堅苦しいものでは無くもっとこうラフなものを考えていたんだけど・・・ハードルが急に高くなった気がする・・・。
まぁでも?結果予定通りな訳だし、そこまで深く考え込む必要は無い・・・よね?気付いた事を言えば十分だよね?
「それでは早速、先輩のお家にレッツゴー!」
その子は声高に言って元気良く拳を掲げると、私の来た道とは逆の方へと歩いていく。
あ、と声を掛けるとくるりと振り返って小首を傾げた。
「ところでどちらから来たんですか?」
もしかしたら堂々としているというよりもただ向こう見ずなだけかもしれない、なんて思った。
それから私先導の元、「Kろっく!」やアニメ、その手のサブカルチャーに意識を向けさせまいと今朝見たお天気お姉さんの話しを必死に思い出しながら道中話題を埋め続けた。
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