第14話 ニアミス

「かんぱ~い。」

 居酒屋での、受注内定祝いと矢倉の歓迎会に参加した。

「矢倉さんすごいですね。あのパースが決め手になりましたよ。本当、今回の受注のファインプレーです。」

 鈴木係長が、持ち上げる。

「でも、どうして設計部じゃなくて、営業を希望したんです。建築科を出たんでしょう。?」

「はい。手描きの間取り図とか平面図をかくのが好きで、あと私、パソコンとか得意でない方でCADも苦手だったんです。それで、建築デザイン科なんです。」

 なるほど、

「設計図に息を吹き込むというか、色と形を与えるというか、君のパースにはそんな魅力があるね。営業部の戦力として歓迎します。」

「成田部長、ありがとうございます。」


「そろそろお開きにしま~す。」

「俺たち、矢倉送っていきます。」

 若手社員たちが、言ってくれたが、

「だめだめ。矢倉そうとう酔ってるからな、お前たちだと送り狼になっちまうと問題だからな、すいません、部長同じ方面なんで降りる駅まで送ってもらえますか。」

 山田課長からお願いされた。

「ああ、いいよ。矢倉も自由が丘か。」

 電車に2人で乗って自由が丘の駅で降りる。

「部長、けっこう酔っちゃってこのままタクシー乗るとやばいです。ちょっと酔い醒まして帰りたいんですけど・・・。」

「え?そうか。車中で気分が悪くなると大変だからな。じゃどこで?」

「あそこのカラオケでどうですか。}

「え?まあいいか。他に適当な店もないしなぁ。」

 ボックスに入ると、俺はビール、矢倉はジュースを飲む。課の印象とか仕事の話をしていたが、矢倉が、

「歌いましょうか?カラオケだし。」

「え?気分は?」

「歌った方が早く醒めるかもです。部長一緒に歌いましょう、何がいいですか。}

「じゃあ、『点描の唄』をいいかな。」

「マジですか?ミセスですよね。」

「ああ、高校生の娘のデュエットの練習相手にさせられて・・・。」

「私も大好きです。じゃあ入れま~す。」

 2人で歌った。車の中以外では初めて歌ったが、まあまあハモれた。曲中はちょっと見つめ合って歌ってしまった。

「部長、最高で~す。」

 矢倉が、隣に座ってきた。んん、距離が近い。体を付けてくる。

「おいおい。近いぞ。」

「いいんです。私がミスした時に部長、わざわざ一緒に行って謝ってくださって、そして今日、ずごくほめてくれて、すごく嬉しかったんです・・・。」

「君は、よく頑張って・・ん。」

 矢倉に、いきなり唇を重ねられて、抱きつかれた。

「ちょっと、何やって・・。」

 体を引き離すと、もう一度唇を重ねてきて、

「部長、私、今日これからずっと一緒にいたいんです・・・。」

 もう一度唇を重ねてきて、抱きしめられた。

 久しく瞳に触れていない、女性の体の懐かしい感覚・・・、自分の男の部分が目覚めそうになる。このままホテルに‥頭をかすめたが、理性が持ちこたえた。

「矢倉、そうとう酔っぱらってるな。じゃあもう帰ろう。君のアパートまで一緒に乗るから。」

「え~。はい。」

 矢倉も少し我に返ったか、素直に返事をして、カラオケボックスを出てタクシーに乗った。車中も手をつながれたが、なんとか降ろした。


 やっぱりレスだと本当に間違ってしまうかもしれない。そうなる前に瞳としっかり話し合わないとだ・・。

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