それなら……僕は、こうしていて欲しいです……
外に出ると、まだ朝日も出ていなかった。
「ガル……これは朝と言ってもいいんでしょうか?」
「早くに目が覚めてしまってな。まだルカテは寝ているかとも思ったんだが、居ても立ってもいられなくて早めに来てみた。牢番には渋い顔をされたが、結果オーライだったな」
「そうみたいですね……ありがとうございます、ガル」
昨日のように僕を片腕で抱いてくれているガル。その身体に、僕は頭を預けた。
「ん……寒いか? それとも眠いか?」
「いえ、そういうわけではありません。ただ、こうしていたくて……ダメでしょうか?」
「そんなわけがない。ルカテがそうしたいなら、好きなだけすればいいさ」
「ありがとうございます……少しだけ……少しだけですから……」
昨日もあれだけ抱っこをしてもらっていたのに。一日お預けをされただけで、身体が我慢できなくなってしまっていた。その鼓動と体温を直接感じて、ガルが近くに居てくれているということを実感したくて堪らなかった。
「そうだ、これを持って来たんだ」
「それって、僕のサンダルですか?」
「いつまでもそんな物を履かせておくわけにもいかないからな。本当は森を歩くなら靴の方が良いんだが、履き慣れている方がいいだろうと昨日のうちに兵士に頼んでおいた。森を歩く時は今みたいに抱えてやれば、露出した足を草で切ったりすることも無いだろう」
「確かに、そうですが……」
「どうした?」
「……この包帯は巻いたままでもいいですか?」
「ルカテがそうしたいなら構わないが、邪魔じゃないか?」
「いいえ、邪魔だなんてそんなことはありません……」
「それなら、足裏の木材だけ抜くか。ちょっと待ってろ……」
ガルは僕を抱えたまま、器用に包帯を巻き直してくれる。こんなことで喜んではいけないとわかっているのに。僕のわがままに律儀に付き合ってくれることが嬉しくて、否応なく胸が高鳴ってしまった。
「よし、これでようやくルカテもまともに歩けるな」
「っ……やっぱり、下りた方がいいですか?」
「どっちでもいいぞ。森では魔物と遭遇しなければずっとこうやって抱っこしてやるつもりだしな。まだ国の中だが、大して負担でもない」
「それなら……僕は、こうしていて欲しいです……」
ガルといっしょに居られる時間には限りがある。これから魔物が棲む森に行くのだから、いくらガルが強くても絶対はありえない。それに例え討伐が上手くいったとしても、僕は――
「ルカテの望みは俺の望みでもある。ルカテの言葉に甘えて、抱っこさせてもらうとするか」
「ふふっ……それなら、僕もガルに甘えさせてもらいますね。もう森に出発しますか?」
「その前に寄りたい所があるんだが、この国には神殿はあるか?」
「神殿なら、国の西の端にあります。この国では神を信じる人は少ないので、寂れてしまっていますが」
「問題ない。俺だって信じているわけじゃないからな。寄ってもいいか?」
「もちろんです。案内しますね」
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