第5話 出会いと希望

意気消沈してパン屋で昼食を取っていると、隣の席で二人の少女が会話していた。

「リリィ、また新しい薬草の調合に失敗したの?」

「うう…どうしても温度管理が上手くいかないの。お湯の温度が安定しないから、薬効が台無しになっちゃう」

ウォル=水原の耳がぴくりと反応した。温度管理の問題?これは自分の専門分野ではないか。

「すみません、お話を聞かせていただけませんか?」

二人の少女が振り返る。一人は緑色の髪をした薬草師らしい少女。もう一人は茶色の髪で、商人の娘のような服装をしている。

「あ、あなたは…」

「ウォル・アクアートです。今日ギフト判定で水魔法をもらいました」

「水魔法?」薬草師の少女の目が輝いた。「私はリリィ・ハーブスプラウト。薬草師をしているの。それで、エルナ・マーチャントは商人の娘よ」

「よろしく、ウォル君」エルナが手を振る。

「リリィさん、温度管理でお困りとのことですが…」

「そうなの!薬草の調合には正確な温度管理が必要なんだけど、火加減だけでは限界があって…」

ウォル=水原の心が躍った。これだ!これこそが求めていた仲間の第一歩だ!

「実は僕の水魔法、温度調整も可能なんです」

これは少し盛った発言だった。まだ試していないが、魔力の込め方を変えれば可能だと思われる。

「本当?じゃあ、ちょっと試してもらえる?」

リリィが小さな鍋を取り出した。薬草の煎じ薬を作るためのものらしい。

「どのくらいの温度がいいですか?」

「えっと…だいたい人肌より少し温かいくらい」

ウォル=水原は集中して、鍋に水を注いだ。前世の経験から、人肌より少し温かいというのは40度程度だろう。魔力に温度のイメージを込めて…

「どうぞ」

リリィが恐る恐る水に触れる。

「あ…あったかい!しかも、とってもいい温度!」

「すごいじゃない!」エルナも驚いている。

「でも、これは手動なので…自動化できれば、もっと便利になると思うんです」

「自動化?」

「魔法装置にして、一定時間温水を供給し続けられるようにするんです」

リリィの目がさらに輝いた。

「それがあれば、薬草の調合が格段に楽になる!ぜひ協力させて!」

「僕も面白そうだから参加したい」エルナも手を挙げた。「商売のことなら任せて。資金調達とか販路開拓とか」

ウォル=水原は感激した。ついに仲間が見つかった!

「ありがとうございます!でも、僕の最終目標を聞いても、引かないでくださいね」

「最終目標って?」

「この異世界に上下水道を整備して、すべての人が清潔で快適な生活を送れるようにすることです」

二人は目を丸くした。

「じょう…げすいどう?」

「つまり、家にいながらにして新鮮な水が使えて、汚水は適切に処理される。そして温かいお湯でお風呂に入れて、最新式の…えっと…とにかく衛生的な設備を普及させたいんです」

しばらく沈黙が続いた。

「……面白そう!」

リリィとエルナが同時に言った。

「絶対に実現させましょう!」

「よし、じゃあ『アクアリス水道整備プロジェクト』の結成だ!」

こうして、異世界初の上下水道整備チームが誕生した。しかし、彼らの前には想像を絶する困難が待ち受けていた。

技術的な問題、資金の問題、そして何より、この世界の人々の意識を変える必要があった。清潔で快適な生活の素晴らしさを理解してもらわなければならない。

さらに、既得権益を持つ者たちからの反発も予想された。水を牛耳る商人、現状に満足している貴族たち。

「でも、やり遂げてみせる」

ウォル=水原は決意を新たにした。前世で培った技術と、この世界の魔法を組み合わせれば、必ず実現できるはずだ。

「俺は水魔法で、この異世界を楽園に変える!」

その日の夕焼けが、三人の決意を温かく照らしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る