秋
長い残暑も終わり、散歩をするにはうってつけの季節になった。
二人はちいさな湖のある公園の中を歩いていた。あたり一面は降り積もったイチョウの黄色い葉の色に染まっており、踏みしめるとやわらかく沈み込む感覚がした。
秋斗はイチョウの樹と湖と空が端末のちいさな画面の中におさまるようにして、写真を撮った。青い空や湖、そして対照的な黄色い葉のコントラストが、目に痛いくらいだった。
「いい写真取れた?」
声の方向を見る。イライジャはしゃがみこんで、イチョウの葉を一枚拾い上げようとしているところだった。
「色が加工したみたいですごいよ。これが生き物の色だなんて不思議だ」
イライジャは笑みを浮かべ、手に持ったイチョウの葉を見つめた。
「植物はとても色鮮やかな生物だからね。こないだの植物園も……」
イライジャはふいに喋るのをやめ、それから俯いてしまった。よく見ると耳が赤くなっている気がする。
秋斗はどう反応したらいいのか分からなかった。というのも、イライジャが言った『植物園』で、秋斗は彼に告白したからだ。したはいいものの、返事はまだ貰っていない。時間がほしいと言って答えを先延ばしにしているのは、イライジャのほうだった。
二人は黙りこくった。風で樹がそよそよ揺れる音がしている。秋斗は次の言葉を必死で考えたが、こういうときに限って何も出てこない。
「君はほんとに僕でいいの」
結局、沈黙を破ったのはイライジャのほうだった。
「え、なんで」
秋斗は内心少し安堵していた。そんなことはないだろうと思いつつも、もし告白したことさえ忘れられていたらと恐れていたからだ。
「だって僕、人に好かれる要素そんなにないし。気も利かないし思ったこと全部言っちゃうし……」
「別にそんなことないよ……」
秋斗はイライジャに合わせてしゃがみこんでみたが、顔を見ることはできなかった。
「そんなことあるよ。事実として僕って人と円滑で快適な会話をするのがとても下手だし。多分僕の周りにいる人ってだいたいみんな僕に興味ないかうっすら嫌いなんだろうなって思ってる」
イライジャはイチョウの葉を指先でくるくる回している。秋斗は困惑する。イライジャはなんでいきなりこんなこと言い出したんだ? 普段の彼はこんな風じゃないのに。
「それは気のせいだと思うけど……。あと俺はイライジャのこと好きだけど……」
あまりにもさらっと『好き』と言ってしまった。いやなタイミングで風がやんで、秋斗は顔が熱くなるのを感じる。
「君がちょっと変なやつなんじゃない?」
「まあ確かに俺はちょっと変なやつかもしれないけど……」
「嘘です。いじわる言ってごめんなさい」
「いいよ、別に、全然……」
また微妙な沈黙。秋斗はちょっと面白くなってきて、笑っているのがばれないように唇を引き結んで俯いた。また風が吹いて葉が揺れる。
「そ、そろそろ行く……?」
「うん」
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