第21話 恥ずかしい夜の素行不良

 暴露。秘密や隠し事など後ろめたい事を公表すること。浮気や不倫、売春や買春、不純異性交遊などの暴露が分かりやすい例だ。男女ともこの手の暴露によるダメージは大きく、「あんな気持ち悪い男とヤったんだ」、「仕事目当てでおじさんに抱かれた」、「簡単に体を売るんだね」等とイメージが悪くなり信用を無くす。もちろん性関係なので女性とセックスをした相手の男性もいるし、お金を支払った男性も仕事を斡旋した男性もいるが、男女両方暴露されても女性の方が大きくイメージダウンとなる。理由は簡単で、女性に貞操観念を当てはめ、女性は恋人としかそのような関係にならないと期待し、決めつけているからだ。

 しかも女性は一人の男性としか性交してはならないという人までいる。少なくとも同時期に並行してはダメだし、ちゃんと別れて別の人とでも今度はセックスを経験した数が多いと非難される。女性に処女性を求めるのは勝手だが、魅力的な女性が自分だけとしかセックスをしないというのは幻想だと断言する。若い、可愛い、優しい、賢い、コミュニケーション能力が高い、運動が得意など要素は何でもいいが、魅力的な女性は他の大多数の男性にとっても魅力的であり、恋愛対象や性の対象となるのだ。魅力ある女性ほど処女である確率は低いし、男性経験が多くなるのは当たり前だ。


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 新しい年が始まって世の中が通常運転に戻った頃、咎革(TOGAKAWA)を巻き込むスキャンダルが明らかになった。例の毬村編集長等に枕営業をしていたが、俳優との不倫騒動で活動自粛をしていた東竹芸能の元女性タレント片丘英里(カタオカ エリ)が週刊誌に夜の交友関係を自ら暴露し、「私はむしろ被害者だ。私だけが活動自粛を迫られるのはおかしい」と週刊誌に持論を展開したのだ。週刊誌「ウイークリーネルソン」の4週連続特集では問題の発端となった既婚俳優の駄飼均(ダカイ ヒトシ)との不倫から始まり、数人の共演者、クイズ番組等に出演したフジヤマテレビのディレクター、CM制作会社のプロデューサー等のメディア媒体側の実名も次々と上がり、さらにその艶めかしい関係の内容まで詳細書かれていた。

 「私は、「もっと活躍したい」とか「知名度を上げたい」と努力している女性を社会的地位やお金を利用して喰い物にする下劣な男達の被害者だ。私が俳優の駄飼氏を誘惑して不倫関係になったと非難されているが、この主演俳優と“寝る”ことがフジヤマテレビから提示されたドラマ出演の条件だったのだ。主演でも助演でもない端役の出演のためにだ。大手事務所のようなコネも実績も無い私のような新人はこうするしか無かったし、私が知る限り他の女優やアイドル、芸人やアナウンサー等もみんなやっていた。駄飼氏は様々な共演者を抱いたことを自慢していたから、駄飼氏がネルソン編集部の記者に見つかったのがたまたま私と寝た時だっただけであり、不倫相手は私だけではない。当然、私の方から誘ったのではない。」

 「それなのに数字を持っている人気俳優の駄飼均やその所属事務所ジャリーズに忖度して、各メディアは私を悪者扱いして非難し、活動自粛に追い込んだのだ。私は味方だと思っていたフジヤマテレビ等からも袋叩きにされたのだからもう芸能界に戻ることは出来ないだろう。だから私は駄飼氏の裏の顔を暴いてくれた「ウイークリーネルソン」編集部さんに全てを話すことにした。私を非難した各メディアが私はただのヤリマンで私から男を誘惑したと報道したが、より詳細な事実を全て実名で暴露する。」


 そして、この実名告発特集の中には咎革の毬村編集長の名前も当然あった。恥ずかしいのは夜の素行不良までしっかりと書かれていたことだ。毬村編集長の場合は以下のような事が書かれていた。

 「咎革の毬村編集長は私をホテルに呼び出し、客室に入ると真っ先にセックスを迫ってくる。シャワーも浴びずに私をベッドに押し倒し、「溜まってるんだよ」と言いながら入れてくる。コンドームは着けてくれるがお互いシャワーも浴びずに行為をするため、最中に臭い匂いがする時もあった。編集長は10分前後自分勝手なセックスをした後は、そそくさと一人シャワーを浴びてスッキリする最低なおじさんだった。当然1回では終わらず、2回目以降は必ずと言っていいほどフェラを命じ、そのまま口や顔に出されることもあるし、再度セックスをされることもあった。一晩中ずっと私が仕事をいただくために営業をしている弱い立場である事を殊更強調し、「俺を満足させろ」と様々な性的行為を強要してきた。枕営業なので恋人のように優しく扱われる事は期待していなかったが、女性の尊厳を無視した扱いを受けたのは辛かった。ちなみに、この毬村編集長は、モノのサイズは並以下でやや早漏。ガツガツしているだけでこちらは全く気持ちよくなれなかった。いくつかの営業先の中で最も女性の扱いが酷い男だった。」

 「咎革の毬村編集長への枕営業のおかげで咎革からは「東京Pedestrian」に何度か出演できた。若者に人気の雑誌だから私の知名度も多少上がったし、知人友人からの評判も良かった。しかし、編集長はあくまで編集長であり主に雑誌のみで、映画やCM等の媒体で起用してもらえる事は無かった。しかも咎革は外注のカメラマンや衣装さん、ライター等の報酬を安く買い叩いて評判が悪いるらしく、あるスタッフは労働局や公正取引委員会へ相談をしていると聞いた。メイク直しなどの隙間時間にスタッフさんから咎革への様々な不満を打ち明けられ、「咎革って大丈夫なの?」と不安になった。」


 記事を読み進めていくと、名前が挙がった俳優や共演者のほとんどが「この女を抱いた」と認め、毬村編集長を含むメディア制作者達も「いわゆる枕営業だった」と認めた。ここで「ウイークリーネルソン」の特集記事が終わっていれば、私は部外者で「編集長ダッセ~」と笑いさえしただろうが、この枕女、片丘英里の告発はまだ続いた。

 「「東京Pedestrian」の特集に出ている他の女性タレントと直接会ったことはないが、他の女優やモデルもみんな枕営業をして出演している。メイクさんから聞いた話では、ある小柄な新人タレントがメイクの途中に涙があふれだして止まらなくなり、心配して声をかけたら「これが最初で最後の出演になるんです。田舎から出てきて芸能事務所に入ったけど鳴かず飛ばずで、最後の最後に編集長へ枕営業をしてやっと今回の仕事にありつけた。嬉しかったり悔しかったりで涙が止まらない」と言っていたらしい。

 さらに、毬村編集長自らが私を抱いている最中に「俺のチンポの味を知らずに「Pedestrian」に出た女はいない」と豪語していた事を考え合わせると「東京Pedestrian」の出演女性は全員編集長に抱かれていると思って良いだろう。最近だと、私の後に出演するようになった五島カオルも恐らく編集長の洗礼を受けた被害者ではないか。五島さんや他の女性達も私と一緒に立ち上がり、共に芸能界における女性の権利保護、地位向上のために協力してほしい。」と締め括られていた。


 私にしてみればいい迷惑である。確かに片丘英里さんが活動自粛をした後釜で私が「Pedestrian」に出たのだが、枕女がつまらない正義感を振りかざして咎革やメディア側の実名や悪行を暴露するだけではなく、他の出演女性にも「あなた達にも後ろめたい事があるはずだ」、「私と一緒に男性による性的暴行の被害を告白し、苦しみを共有しよう」と一方的に実名を挙げて巻き込んで、その女性達の足を引っ張ったのだ。私が辛い思いをしてやっと手に入れた成功がガラガラと音を立てて崩れ始める。

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