第17話 女性達の視線の先にあるもの
僻み。嫉妬や妬みの感情。自分と他人を比較して「ネガティブな気持ち」になること。
「女の敵は女」という言葉があるが、あれは正しい。特に男性に相手にされないまま年齢が高くなってしまった女性から若い女性や美女に対する敵意は激しい。自分達にも同じように10代20代の頃があったはずなのに「若いだけ」、「男性に媚びている」、「甘やかされている」など殊更若く美しい女性を攻撃する。中でも一番質が悪いのがフェミニストだ。モテないだけなのに視野を狭くして「女性蔑視だ」、「ルッキズム反対」等と男性を敵視し、男性にモテる女性をも攻撃する。女性解放、女性尊重などと言うが、私が知る限り男性との恋愛や結婚生活で満足している女性にフェミニストはおらず、仕事で成果を出すなど自己実現している女性にもフェミニストはいない。
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これだけ枕営業を続けているのだから頂ける仕事も増えてきた。咎革(TOGAKAWA)の「東京Pedestrian」の出演が続いているは当然だし、新しいお仕事もいただいた。さらに「ペンタンフ ジャパン」の「EDO’S STYLE」も新作プロモーションに参加させてもらえる事が決まっている。
まず「東京Pedestrian」の方は相変わらず毎月1回~2回特集を担当させてもらっている。営業の相手が毬村編集長から主に賄腹専務へ変わっても回数は増えていないが、クリスマス特集など例年人気が高い特集テーマの時に私を起用してもらえるといった優遇がされているようだ。既に撮影チームの方々とも信頼関係が出来ているので撮影がスムーズだし、私のキャラクターに合わせたポージングや衣装を指定してくれるので、デビュー間もない私ではあるが魅力が最大限引き出されていると思う。実際ネットやSNS上での評判は概ね良好で、男性からの賞賛の声が多いのは言うまでもない。しかし、わざわざ“概ね”と断ったのは相変わらずフェミババアからの批判は多かれ少なかれあるからだ。
「彼女感を売りにしているみたいだけど、本命以外にも3股4股してそうな顔をしている。」
「顔が綺麗でスタイルも良いって、完璧すぎて作り物くさい。整形とか豊胸してるんじゃないの。」
「男ってこういう女が好きだよね~。優しそうに見えるけど弱男や量産型なんか相手にされないんだから、騙されない方が良いよ。」
「社会の厳しさを知らない女子大生のくせに、生意気に表情作ってんじゃねぇ。」
「この子頭悪そ~。男に媚びれば人生何とかなると思っているよね。」
「いずれ私達みたいに目尻にシワができて、ほうれい線が出て、顎の肉が垂れてくるんだ。カオルは若いだけの女だ。」
フェミババアの僻みには呆れるが、自分のキャンパスライフを思い返した時、複数の男性を上手く利用しているという点では当たっている部分もある。私は何人もの男性から、あるいは同じ男性から何度も食事のお誘いや唐突な呼び出しを受けて告白をされている。しかし明確な回答を避け、「お友達から」とか「しばらく時間をください」等と関係を保留している。だから家から外に出れば、例え大学が夏休み中であっても誰かしらからご飯を奢ってもらえたし、夜は夜で合コンや約束があってここでも奢ってもらえるから食事に困る事は無かった。休日や空き時間に関係保留の男と一緒に買い物に出てデートの真似事のように甘えれば衣服や靴を買ってくれて、「これ可愛いなぁ」と物欲しそうな目をすればアクセサリーや小物など何でもプレゼントしてもらえた。
男と“のらりくらり”保留関係を続けるコツは、過大なリクエストをしない事だ。食事は学食やチェーン店で良いし、身に着ける物もファストファッションや数千円の雑貨レベルで十分だ。こちらから大きなリクエストをすると大きな見返りを求められるし、学生らしい分相応なリクエストは関係が長続きすることを期待させ、真面目とか節度があるなど私の女性としての評価も高まる。それでも中には急に高額なアクセサリーやバッグをプレゼントしてくれる男もいたが、このように関係を急ぐ男は大抵モテない男だ。
もう一つは、誰にも抱かれない事だ。私の場合、編集長との約束があるから他の男としないという特殊要因もあるが、身体の関係になれば周りも何となくそれを察知し、誰かの女になったらその男からしか食事や物を貰えなくなる。私のことが嫌いな女からは「八方美人」などと言われているらしいが、私は特定の誰かの女にならないことで、皆から大事にされる女性の立ち位置を保ち続けた。もしも複数の男性とヤれば浮気、ヤリマンと見なされ女性としての価値を下げる。私はホテルや男の部屋に連れ込まれそうになっても、毅然と断れば幸い無理強いされることは無かった。中にはタクシーでラグジュアリーホテルに入ろうとする有名企業の会社員や、「クジラを見に行こう」等と日帰りが不可能な行き先の旅行へ連れ出そうとする若手起業者もいたが全てお断りした。大学生になって、かつ芸能活動もするようになって社会が一気に拡がり、母が「同年代だけじゃなくて年上の男まで自分に夢中になるのが面白くて笑っちゃうわよ」と言っていたのをよりリアルに体験することができている。
ちなみに、住んでいる部屋は前述のように『女の城』なので所属している芸能事務所「フレームズ」から家賃補助を貰える。こんな調子だから朽木のように大学を休んでまでバイトをしないと生活が立ち行かない状況ではなく、親からの仕送りや出演料だけで十分普通の生活が出来た。
咎革から新たにいただいた仕事というのは、専務が言っていたファッション誌「美人百華」のモデルを期待していたが、咎革が製作委員会に入っている映画『まだ夢の中』の出演だった。もちろん主演ではないが、主演女優の友達役でセリフもあるし、ストーリーに絡む重要な役だ。主演は大手事務所、東竹芸能の羽咋ミナミで、綺麗で美しいというよりは可愛くて愛らしい子だ。どんな役でも馴染みやすい透明感を売りにしているらしい。実際に会ってみると、見た目どおり愛嬌があって感じが良い子だが、高校卒業後に女優として芸能活動一本でやってきている強さや覚悟を感じる。私や朽木のように“大学生”という保険を掛けていないのだ。
作中では、主演の羽咋ミナミが主人公「みちる」こと海部美潮役を演じ、私は同じ新人OLで、同期入社の友達「ふわり」こと不破里緒菜役を演じた。私達二人とある男性は三角関係になり、最後は「みちる」と男性が結ばれるストーリーで、面白かったし良い経験にはなったと思うが、台詞を覚えるのが大変だし演技は難しいしので正直私には向いていないと思った。案の定、私は映画批評家から「棒読み」、「表情が乏しい」等と酷評されたあげく、邦画の恋愛物なので興行は残念な結果に終わった。救いといえば数少ない一般視聴者からは好意的なコメントが多かった事だ。
「動いて喋っているカオルちゃんを初めて見たけど、やっぱ美人じゃん。」
「恋愛物あるあるだけど、ミナミちゃん、カオルちゃんと三角関係になるなんて贅沢な悩みだ。」
「カオルちゃんのような彼女と付き合いたい。俺なら「ふわり」を選ぶ。」
「スタイリストの腕が良いのかもしれないけど、カオルの着回しはどれも参考になる。」
「10代で既に女性として完成している美貌だから、OLカオルははまり役だった。これからも色々な職業を演じてほしい。」
「ペンタンフ ジャパン」の「EDO’S STYLE」新作プロモーション。冬春の新作が出るのでそれのモデルをさせていただいた。前回と同じ5人のメンバーで「氷重」や「雪の下」等の上下セットをそれぞれが実際に身に着けてサムネイル等のモデルとなった。私が身に着けたデザインも他の人が受け持ったデザインも各々が満遍なく売れて、今回のプロモーションも成功裏に終わった。
「私も美しい裸で綺麗な下着を身に着けたい。」
「彼氏は、私が全裸になるより「EDO’S STYLE」下着姿の方が興奮するらしく、中々下着を脱がせてくれない。」
「春夏に向けてダイエットを始めようかな。カオルちゃんのようなくびれを作るぞ。」
「彼氏がカオルちゃんの着けていた「残菊」の上下セットをプレゼントしてくれた。」
「新作も買ったけど出番が無い。見てくれる人がいない。クリスマスどうしよう。」
同じ女性からも高い評価を貰えるのは嬉しい。男嫌いの朽木が「女性が女性に憧れるようなモデルになる」と言っているのを馬鹿にしていたが、今回少しだけ理解できた。同性から憧れられるのも気分が良いものだ。しかし、私に憧れている女性達も結局は男性の目を引きたい、意中の男性に好かれたい、彼氏や夫を魅了したいと考えて、私の姿や身に着けている物等を真似ている。朽木の言葉をより正確に言い直すならば「男性にモテる女性モデルに一般女性が憧れている」のだ。女性達の視線の先には、朽木や女性モデルのさらに先に男性がいる事を忘れてはいけない。
ただ、男性の中にも色々な奴がいる。雑森マネージャーがネットの書き込みを見ていると「ペンタンフ ジャパン」のwebサイトで私の下着姿を見ながら自慰行為をしていたり、オンラインショッピングで私がモデルをした商品をわざわざ購入して変な想像を書き込んでいる男もいると聞く。雑森さんは「「EDO’S STYLE」のお仕事はありがたいんだけどさ、変な男の目も引くようになって困るよね。」とぼやき半分、自身がマネージメントしているモデルの活躍を得意げ半分だった。
これらは全て朽木エリカがまだ靴のカタログでデビューする前で、帆乃夏が再現VTR等の“ちょい役”にパラパラと出始めた頃の話である。何も知らない帆乃夏や由衣は私を「羨ましい」ともてはやしてくれるが、朽木だけは『どこ吹く風』と自身のレッスンにご執心だ。
しかし、朽木にも大きな変化があった。何をどうしたのか分からないが、なぜか急に生活が改善したみたいだ。夏の頃のような貧相で痩せこけた痛々しい姿ではなく、上品な優等生として本来の美しさを取り戻し、何となくゆとりが有って表情も明るくなった。レッスン最優先なのは相変わらずだが、エステ店でのバイトは続けつつも大学の授業にも少しは出席するようになったようだ。
「五島さん、大活躍ですね。」事務所ですれ違った時、朽木からニコッと首をかしげて微笑みかけて声をかけてくれた。
「ありがとう。朽木さん、ちょっと明るくなった?」
「そうですか?あんまり自分では分かりませんけど。」服装は苦学生のようにくたびれているが、明らかに表情も雰囲気も違う。
「元々可愛かったけど、なんか絶対に雰囲気変わったって。」
「レッスンのおかげかな。五島さん程じゃないけど、身体づくりに気を遣って、ポージングやメイクも練習しているんですよ。」
「私なんて全然…。」
「あ、ごめんなさい。マネージャーさんと打合せの時間だから。失礼します。」朽木は小さく手を振りながら急ぎ足で歩いて行った。
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