【努力】努力しなければすべての人は悪に堕ちる
晋子(しんこ)@思想家・哲学者
努力をしなければ、人は自然に悪へと傾く
人間は、自然にしていれば悪に傾きやすい生き物である。そう言うと「人は本来善である」という思想に反するように聞こえるかもしれない。しかし実際の行動を観察すると、人は「ついうっかり」善いことをすることはあまりないが、「ついうっかり」悪いことをしてしまうことは数多くある。つまり、人は放っておけば善を積み重ねるのではなく、むしろ悪へと傾いてしまう。
善いことをするには、必ず意識と努力が必要になる。たとえば他人に優しい言葉をかける、困っている人を助ける、あるいは相手を許す──これらはいずれも自然に湧いてくる衝動ではない。欲望を抑え、怒りをコントロールし、相手の立場を想像するという一段高い思考を必要とする。だからこそ、善とは「努力して行うもの」であり、文明や教育、倫理や法律によって人間に刷り込まれる人工物だと言える。
一方で、悪い行為は努力をしなくても生まれる。欲望に任せて盗む、腹立ちまぎれに暴言を吐く、嫉妬して相手を傷つける、あるいは知ってしまった個人情報を脅迫に使う──これらは一瞬の衝動でできてしまう。しかも短期的には「快感」や「優越感」といったご褒美までついてくる。だからこそ、人はつい悪い方向へ引き寄せられてしまうのだ。
「放っておく」ことが難しいのも同じ理由である。人は個人情報や秘密を知ってしまうと、それを処理せずに心に眠らせておくことが苦手だ。いわば「壊れそうなものに手を出したくなる心理」と同じで、見えてしまった弱みや秘密を利用せずに放置するという選択肢を選びにくい。だからこそ「知ってしまったなら悪用する」という方向に流れやすいのである。
この構造を考えると、善を保つことがどれほど不自然で困難なことかがわかる。悪は容易で即効的、善は困難で長期的だ。悪は短期的な得や快楽を与えるが、善は報われるまでに時間がかかる。人が努力を怠れば自然と悪を選ぶのは、この報酬の違いによるものでもある。つまり、悪は「即効薬」であり、善は「遅効薬」だ。努力をしない人間が即効薬に飛びつくのは当然だろう。
だからこそ、人間社会は教育や倫理や法律を必要とする。もし人間が自然に善に向かうのであれば、これらの仕組みは不要だったはずだ。事実、歴史を振り返れば、戦争や差別、いじめや搾取といった悪は人間社会に絶え間なく現れてきた。つまり「放っておけば悪に流れる」という前提のもとに、社会は人を矯正する仕組みを作り続けてきたのだ。
人間を「筋肉」に例えれば理解しやすい。筋肉は鍛えなければ自然に衰える。同じように、人間の心も放置すれば悪に傾いていく。善は筋トレのように努力して積み重ねなければならない。努力を怠れば心は弱まり、悪の誘惑に抗えなくなる。つまり、善とは鍛えられた精神の産物であり、放置しても自然に維持されるものではない。
ここで重要なのは、「人間は本来悪である」と決めつけるのではなく、「人間は努力しなければ悪に流れる存在である」と理解することだ。この違いは大きい。なぜなら、努力によって人は善を選べるからである。もし完全に悪が本質であるなら、努力しても無駄だという結論になってしまう。しかし現実には、人は努力すれば善い行為を選び続けることができる。その努力がなければ悪へ傾く、というのが人間の実像なのだ。
「自然に生きる」と聞くと、多くの人はそれを肯定的に受け取る。しかし人間において「自然に生きる」とは必ずしも善を意味しない。自然に従えば、人は嫉妬し、怠け、欲望に流され、相手を支配しようとする。だからこそ、人間にとって「自然に生きる」ことは危険であり、むしろ「不自然に生きる」こと──つまり理性を働かせ、倫理を学び、努力して自分を律することが必要なのである。
結論として、人間は放っておけば悪をする。努力しなければ悪をする。善は自然なものではなく、文明が作り出した人工の秩序であり、それを維持するには訓練と意識が必要だ。人が「ついうっかり」悪いことをしてしまうのは、まさに人間が自然に考えると悪に流れる構造を持っているからである。だからこそ、私たちは「努力して善を選ぶ」という姿勢を持たねばならない。
人間は筋肉と同じで、放っておけば衰える。善を選ぶ筋肉を鍛え続けなければ、悪に抗うことはできない。努力を怠れば人は悪に落ちる。だが、努力を重ねれば人は善に近づける。これこそが、人間が人間として生きるための必然的な条件である。
【努力】努力しなければすべての人は悪に堕ちる 晋子(しんこ)@思想家・哲学者 @shinko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます