最終章 対峙
第37話 襲撃前夜
神明襲撃の前夜、僕達は全員リビングに集まっていた。
「いよいよ明日は神明を襲撃する日です! 夜中、頃合いを見てここを出発し、タイミングを見て襲撃をかけます。神明を襲う事が出来るチャンスはこの一回のみと考えて良いです。失敗は許されません。失敗したら、僕らを待つのは工場行きかその場で殺されるかのどちらかです。どちらにしても死が待っています。僕は、皆に死んで欲しくない。生きてまたここで笑い合える日を望んでいます。だから、各々全力で神明と、それを取り巻くボディーガード達と戦いましょう!」
僕の口上を全員が黙って聞いていた。僕らはもう四人しか残されていないんだ。それでなくても少ないメンバーが減り、そしてリーダーまで失っているんだ。
「あなたを信じてついて行きますよ、ピュア」
「あたしもあなたを信じるわ!」
「わたしはいつだってピュアを信じてる!」
全員が僕を見つめる。僕はこんなに人に注目された経験が無いからなんだかこそばゆい。
「それと……ついでと言ってはなんですが、ピュア、明日はあなたの誕生日ですよね。成人おめでとうございます」
博士が何か小包を僕に差し出した。
「開けても良いですか?」
「もちろんです」
僕は可愛くラッピングされたそれを丁寧に開いていく。箱を開けると、その中からさらに木でできた四角い箱が出て来た。
「これは……?」
「横のネジを締めて、蓋を開けてみて下さい」
言われた通り、横のネジを締める。そして蓋を開けた。
──ポロロロン ポロロロン
すると、中から何とも言えない綺麗な音楽が聞こえて来た。
「これはオルゴールという昔の機械です。ボクが復刻しました。ネジを巻き直せば何度でも聴く事が出来ます」
「凄く綺麗な音ですね……」
僕がその音に聴き入っていると、同時に凜々花が目をキラキラとさせてオルゴールを見ている事に気が付いた。
「ベイビー、触ってみる?」
「うん!」
凜々花は壊れものに触れるかのようにそっとオルゴールを手に取ると、うっとりとした表情でその音色に聴き入った。
「凄く綺麗な曲……。博士、これ、何ていう曲?」
「これは古代の作曲家フェリックス・メンデルスゾーンが作曲した『夏の夜の夢』の一部として作られた『結婚行進曲』という曲です」
「結婚行進曲……」
凜々花は顔を真っ赤にして僕を見た。つられて僕の顔も熱を帯びて来る。きっと、今僕の顔って真っ赤なんだろうなぁ。
「ど、
僕はしどろもどろになっている。
「教養の一部としてですよ。技術的な事や発明だけしていたのでは知識が偏りますからね。ボクの好奇心は無限です」
「さすがぁ……」
「ピュア、ベイビー、顔が真っ赤ですよ。まだ時間はあるからその辺を散歩でもして来たらどうですか?」
「あらぁ、良いじゃない。行ってらっしゃいよ」
「じゃ、じゃぁちょっとだけ……。行こうか、ベイビー」
「う、うん!」
そうして僕と凜々花はちょこっとだけ夜の地下世界を散歩する事にした。夜って言っても人工太陽が光っていないだけで、ちょっと涼しいこの気温も全部コントロールされたものなんだけど。
「涼しいね、ピュア」
「そうだね……」
僕と凜々花は当てもなく歩いた。でも、行先は決めた方が良いのかも。時間だって長い事あるわけじゃないんだし。
「そこの公園に行ってみようか」
「うん!」
僕達は歩いて十五分ほどの所にある小さな公園に辿り着いた。そこにはブランコや滑り台の他に、いくつかの体操器具がある。端っこにはベンチが置いてあった。
「ブランコ、乗る?」
「やだぁピュアったら。わたしもうブランコに乗る年齢じゃないわよ。十四歳よ!? 中二よ!? ベンチに座ろう」
しまった。ちょっと凜々花を子ども扱いし過ぎてしまったか。見た目が幼いからつい子供みたく思っちゃうけど、もう立派なレディーなんだよな。
二人で並んでベンチに座る。心なしか凜々花が少し僕に密着してきているような気がする。
「ピュア……わたし、ピュアに何のプレゼントも用意してなかったね」
「うん? 別に良いよ。凜々花に何か買ってもらったって、それってハッキングしたお金を使ってだしさ、どうせなら凜々花自身が稼いだお金で何かを買って欲しいから。将来に期待しているよ」
「将来……か……」
凜々花はどことなく寂しそうな表情をする。
「ねぇ、この戦いが無事に終わったら、婚約してくれるって約束覚えてる?」
「も、もちろん覚えてるよ」
そりゃ、もちろん覚えていますよ。僕の人生にとっても一大事だから。成人と共に婚約者が出来るだなんて、数カ月前の僕は思ってもいなかったよ。
「わたし、結婚式ではとびっきり綺麗なウェディングドレスを着て、お花もいっぱい飾ってもらって、世界一幸せな花嫁になるの」
「うん」
「それでね、人工授精じゃなくて愛し合って子供を作るの。わたしとピュアの子供なら、きっと可愛いくて優しいわよ」
「うん」
「もう~、さっきからピュアったら『うん』ばかりじゃない! それとも、今日だけは『純』って呼んでも良い……かな……?」
名前を呼ばれて僕の心臓は跳ねた。もうずっとコードネームで呼ばれていたから、本名を呼ばれる機会なんてほとんどなかったものな。
「わたしの事も、凜々花って呼んで欲しい」
「で、でもさ。外で本名を呼ぶと博士に怒られるから……」
「もう~! 純ったら!」
ぷっくりと頬を膨らませると、凜々花は立ち上がって僕の目の前に立ち、そして僕の頬を両手で挟んで唇を寄せた。
「……!?」
凜々花のつぶらで可愛い唇が僕のそれに重なる。咄嗟に目を閉じた僕だけど、そっと薄目を開けると凜々花の顔はさっきよりもさらに真っ赤になっている。
──我慢出来ない。
僕は凜々花の身体を抱き寄せると、そっと髪の毛を撫でた。
「ありがとう、凜々花……。最高のプレゼントだよ……」
「純……愛してる……」
そして僕らは再びそっと唇を重ねた。こんな所、警察官に見られたら速攻で僕は逮捕されるんだろうな。
凜々花、僕は分かったよ。前は古典文学の『溺愛』って概念が理解できなかったけど、今、僕は君の事を溺愛しているんだ……。
何分間そうしていただろう。凄く長い時間そうしていた気がするけど、実際は二、三分って所だろう。
「帰ろうか。凜々花……」
「うん、純。思い出をありがとう」
「ねぇ! おんぶして帰って!」
「おんぶぅ!? 凜々花は子供じゃないんじゃなかったの!?」
「いいの! おんぶしてよ~!」
「はいはい」
そうして僕は凜々花の体温を感じながらアジトへと帰った。アジトに戻ればまた『ピュア』と『ベイビー』だ。
ここを出発するまであと数時間だ。数時間後には、僕らは戦いの渦中にいる。
僕は気合を入れ直すために冷たいシャワーを浴びた。
鏡に映る僕は、数カ月前よりも筋肉が付いていて、腹筋も益々割れて来たけどボスほど屈強そうには見えない。
帰って来たら、もっと筋トレを増やそうかな、と考える。これから数年後には、もっと守るべきものが増えるんだ。
神明を倒して、凜々花との明るい未来を手に入れよう。いつか、ちゃんと仕事もして自らの手で金を稼いで家族を養おう。
殺し合いの場に行く前なのに、僕の心は妙に落ち着いていた。
うん。これなら──勝てる!
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