第29話「生徒が行方不明になりました」②

「呪いの本……『静かに、救われる』の著者を覚えてるかい?」


「確か、天静教あましずきょうの教祖“久遠 一真くおんかずま”でしたよね」


美月の答えに、蒼太が小さく頷いた。


「彼について調べてみたんだけど中々情報がなくてね。受かった大学に、宗教学を専門にしてる教授がいたから話を聞いてみたんだ」


蒼太はそこで言葉を止めると、視線を静かに落とした。


「……彼の本名は、伊勢山和真いせやまかずまだ」


「伊勢山……!?」


美月が思わず声を上げる。


「そう……偶然かもしれない。でも、伊勢山くんと同じ苗字だったんだ」


二年A組伊勢山煌いせやまこう

蒼太と美月が、事件で何度か関わったことのある生徒であった。


美月の脳裏に、穏やかに微笑む彼の顔がふっと浮かんだ。


「彼が、伊勢山和真の息子だとしたら……本を図書室に置いた理由も納得ができる。氷山くんを突き落とそうした理由も、生徒会長選に出馬してた彼なら説明がつく」


「……本の件は確かに納得できます。でも、氷山くんの件は別人の可能性も捨てきれないのでは……?」


美月の問いかけに、蒼太はゆっくりと頷いた。


「そうだね、同一犯かはまだ推測の範囲だ。……ただ、もう一つ気になってることがあってね」


蒼太は、ふと窓の外を見つめた。

部活を行う生徒たちの笑い声が、遠くから聞こえてくる。


「この前の第二教室の件。勉強会にどうしてそこまでリスクの高いことをしたのかなって。 でも、本当は別のことに使ってたとしたら……」


「別のこと……?」


美月は、そうつぶやくと呪いの本の事件を思い返した。そして、ある推測が頭に浮かんだ。


「もしかして……この学校で天静教を布教させようと……?」


声をかすかに震わせながら、蒼太に視線を向ける。


「……そう考えると、これまでのことに合点がいく」


美月がごくりと息を呑んだ。


「久遠一真は人を操る才能があった。伊勢山くんにもその才能があったとしたら……彼の洗脳を受けてる生徒が既にいるかもしれない」


洗脳――

その言葉に、美月は背筋がぞくりとした。


「……勉強会に参加してた生徒の可能性がありますね」


「そうなんだ。参加者を知りたいんだけど……美月ちゃんは行方不明になってる生徒が誰か知ってるかい?」


美月は顔をこわばらせながら、ゆっくりと口を開いた。


「……伊勢山先輩、ですよね」


落とした視線を蒼太の方へ戻すと、こちらをじっと見つめていた。


「そう……彼は今、行方不明だ」


耳に刺さるような静寂が部室に広がる。

蒼太は小さく息を吸い込んだ。


「僕は……他の行方不明になってる二人が、勉強会に参加してたメンバーだったんじゃないかと思ってる」


「えっ……」


美月が目を見開く。


「今回の行方不明事件も、伊勢山かれが関わってるんじゃないかな」


蒼太はまっすぐ前を見つめていた。

その言葉には迷いは感じられない。


「それを確かめるためにも勉強会のメンバーを調べたいんだ。……協力してくれるかい?」


蒼太の言葉に美月が力強く頷いた。


「もちろんです……この事件は二人で解決させようって約束しましたもんね」


美月が笑顔で返すと蒼太もそっと微笑みを浮かべた。


「ありがとう、美月ちゃん。……これが、僕たちの最後の事件だ」



沈みかけた夕陽が、二人を淡く照らす頃――

蒼太と美月は、まっすぐ同じ方向を見つめていた。





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