第51話 セッションは怖い②
「実は、今、僕のうちに友だちが泊ってて、四人になるけどいいよね?」
池袋で待ち合わせをした
「えーと、友だちは女?それとも…男?」
「男だよ。年は一つ上で、僕とは別の音大に通ってる。」
もしや、それは彼氏でしょうか?だったら、何だか大河のアパートに泊まるのは気まずいなあ…
「え、それが気になっているって言う例の先輩?」
夏子は躊躇なく尋ねた。
「違うよ、ただの友だち…でね、僕のことはまだ話してないから、二人からはその話はしないでね。」
「初めまして、青山
結構、あっけらかんとしてるな。話やすい人かも。
「私たちは友だち。高校ではいつも三人で遊んでたんだ。私は馬場
一つ上だけど、ため口で良いよね。
「私は、星 夏子、よろしくね。一期君。」
夏子もため口。
「俺のことは一期でいいよ。明、夏子、よろしくね。」
大河が178㎝、夏子が168㎝、私が160㎝。多分、一期君は私と同じくらいだと思う。大河と並ぶとお似合いな二人に見えなくもない。でも、大河は自分より背が高い人が好きで、自分勝手で影がある人を好きになる傾向があるから、一期君は大河の好みではない。
「二人はロフトで寝てよ。僕たちは下で寝るから。」
大河の部屋はロフト付きのワンルーム。部屋は六畳くらいで広くはないが、クローゼットや収納があるので部屋の中に余計なものは置かれていない。デスクの上には良く分からない機器的なもたち、ノートパソコンと大きなモニターが置いている。実家のデスクに置いてあったものをそのまま持ってきたようだ。そして電子ピアノと、冬はこたつ夏はテーブルになるようなローテーブルが一つ置かれている。ロフトに上がると、漫画やテレビとゲームが置かれていた。
アパート選びでこだわったポイントは、風呂・トイレ別ってことと、キッチンは二口コンロって所だったらしい。
最寄り駅の近くには商店街があり、食事や買い物には全く困らなそうだし、大学へも自転車で通えるとあって、本人はとてもこの場所が気に入っているようだ。
「ここ便利で良いよね。高田馬場も近いし。家からだと一時間以上かかるんだよね。」
一期君がそう言った。二人は高田馬場駅の近くにあるジャズセッションが出来る店で出会ったそうだ。
二人が出会った経緯はこうである。
大河は入学式で隣に座った山崎
哲太は兄の耕太の影響で、高校生の時から都内のお店でジャズセッションでベースを弾くことがあり、ジャズにもそう言うお店にも割と詳しかった。
大河は、何度か哲太に連れられてセッションに参加したが、初めて一人で高田馬場にあるお店に行った時、そこで一期が物凄いドラムを叩いているのを目にし、始めは一期のことを女の子だと思ったが、声を掛けると実は男の子で話をしてみると凄く気が合った。
一期は父親の影響で子どものころからジャズが好きで、今は音大でジャズを専攻している。ジャズ初心者の大河にいろいろと教えてくれて、一緒にスタジオで練習にも付き合ってくれるらしい。
そんなこんなで、彼らは仲良くなった。勿論、友だちとして。
「大河は凄く筋が良いんだよ。それに努力家だから、本気でジャズやれば良いのにって思うけど、クラッシックラブだからね。」
「今は、クラッシックもジャズもどっちも好きだよ。いろんな音楽に触れておくのは良いことだと思うから、いろんな音楽をやって行こうと思うんだ。」
二人とも凄いな、本当に好きなものがあるって良いな…大河や夏子を見ているといつもそう思う。一期君も羨ましいな。そう思いながら、ポテトチップスを食べた。大河の場合、ジャズが好きって言うのは本当だと思うけど、それ以上にその山崎 耕太って人が好きなんだろうな…流石は師匠、入学から一か月で既にロックオンする相手を見つけるなんて…早い。
「大河のジャズピアノも聴いてみたいし、一期のドラムも聴いてみたいな。それ、聴きに行くだけって出来るの?」
夏子が興味津々に尋ねた。
「勿論、聴くだけでも大丈夫だよ。明日の夜もやってる。」
そして、明日の夜、高田馬場にあるお店に皆で行くことになった。
夏子が焼く夕飯のお好み焼きを眺めながら、一期君が話し出した。
「実はさあ、俺のアパートの隣の空き部屋から物音が聞こえるんだよ。管理会社に連絡しても、隣の部屋は空き部屋で、鍵も貸し出してないから、別の所から聞こえるんだろうって相手にしてもらえないんだよね。動物が住み着いていたら匂いで分かると思うし、ちょっと気味が悪くって。それもあって、今はここに泊めてもらってるんだけど、ずっと泊めてもらう訳にも行かないし、どうしようかなって思ってるんだよね。」
「僕にも聞こえたから、空耳じゃないよ。」
大河もその物音を聞いたらしい。
「どんな音なの?」
「う~ん、生活音っていうのかな、物が落ちた音とか、人が歩く音とか、時々うめき声みたいな声も聞こえて来たな。」
「うめき声?」
「うー、うーって、なんか苦しそうな声のようにも聞こえるんだけど、はっきりとは分からないんだよね。」
「それは気味が悪いなあ…時間帯は?」
「昼間とか夕方に聞こえるから、幽霊じゃないと思うんだよね。」
「ミステリー研究会の先輩が言ってたけど、本当に霊感がある人は、昼でも幽霊が見えるんだって。」
お好み焼きをひっくり返して、夏子が言った。
「ミステリー研究会?それって推理小説の研究会でしょう?幽霊も研究してるの?」
一期君の疑問はもっともだが、うちの大学のミステリー研究会は、ミステリーとオカルト同好会のミックスなので、特に守備範囲は限定していない。半分くらいはオカルト寄りの人が多い気がする。
「うちの大学は、ミステリーとオカルトどっちもだから、幽霊の話に詳しい先輩も多いよ。」
そうなのだ、うちのサークルには幽霊系を専門に研究している先輩が数名いる。ただ、その先輩の誰もが、実際に自分で幽霊を見たことは無いと断言している、不思議な人たちなのだ。
「昼間でも幽霊って出るの?じゃあ、隣の部屋の物音も幽霊ってこと?やだな、だったらどうしたらいいんだろう。」
一期君が困った顔をした。
「幽霊なんていないよ。」
ん?どこかで聞いたセリフだな…大河が言ったのか?
「大河、どうして、居ないなんて断言できるの?」
夏子が不思議そうに尋ねた。夏子は幽霊を見たことはないが、信じてる方の人間である。
「だって、僕、幽霊見たことないし、僕の周りでも見たって人知らないもん。」
「見た事なかったら、居ないってなるの?ある事よりもない事を証明する方が難しんだよ。」
ああ、始まったよ、水掛け論。やり出すと長いんだよな。まあ、仲が良い証拠なんだろうけど。
「まあまあ、幽霊が居るのか、居ないかなんて永遠の謎なんだから、その人が信じる方で良いんでない。それよりも、俺の隣の部屋の物音何だと思う?幽霊じゃなかったら…」
「…幽霊じゃなかったら、人が住んでるんだよ。」
それ以外の答えが見つからないと思い、そう言ってみた。
「人が住んでる?幽霊よりそっちの方が怖くない?」
大河がそう言って、一期君に目をやった。
「そうだとして、どんな奴が住んでるんだろう?時々うめいてるんだよ…」
「隔離された病人とか?」
夏子が答えた…
アパートの空き部屋に昼間だけって…その隔離何か意味あるの?夜はどこに行ってるのさ…
「うちのおばあちゃんの犬、うーうーうーて言いながら走るよ。」
大河が答えた…
だから動物じゃないって前提だし、大河のおばあちゃんちの犬は高齢のせいでそうなってるだけだから。
「うーん、どっちもないだろうな。」
一期君が一刀両断した。まあ、そう思うよね。
「ねえ、明はどう思う?」
大河が尋ねた。
「うーん、わからないなあ。一期君の家で誰か出入りしてないか見張ってみるってのはどう?」
「確かに、俺、休みの日でも一日中家にいることが少ないから、確かめられなかったんだよ。皆と一緒ならば心強いよ。」
ということで、明日は昼間は一期君のアパートで、隣の部屋に人の出入りがないかを見張り、夕方からセッションに行くことになった。
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