第9話 超新星爆発

「ええと? さっきから呼吸が荒いようですけど……大丈夫ですか?」


 トラウマを刺激され呼吸が荒くなる高山超新星に対して、天使は心配した声をかける。だがそれでも彼は天使の事を見ようとしなかった。


 彼からすれば天使の笑顔は作り物。どんなに綺麗な姿と優しい声で、耳障りの良い言葉を紡ごうとも、彼にはその奥に潜む裏の顔が見えていたのだろう。


 じっと床を見ながらなんとか呼吸を整えようとしている姿に、天使は呆れた様子でため息を吐いた。


「ふぅ……まったく、死人が体調不良とかお笑いにしかなりませんよ」


「!? ……死人?」


 この世界をリアルな夢だと思っていた高山超新星。そこに無視できない言葉が耳から飛び込み、思わず顔をあげた。そこで目に入った天使の顔は、やはりあの笑顔を張りつかせている。


「はい。実はあなたが寝ているときにですね、あなたの家に居眠り運転のタンクローリーが突っ込みました。それが爆発炎上! 憐れあなたは名前のごとく夜空の星に! ちなみに色々手続きが遅れて数日経っていまして……事故当時の様子はこんな感じです」


 天使がパンと手を叩くと、何もなかったはずの空間に、見慣れた国道のカーブにある彼の家が映し出される。


 皆が寝静まった深夜の国道。その道筋に建つ家に頭からタンクローリーが突っ込んで、ものの数分で爆発炎上する映像。それをどこぞの局のキャスターが、乗っていた運転手は重傷を負いながらも危険を感じて逃げ去ったことと、住人の死亡を読み上げている。もちろん死亡者の名前も、だ。


 締め付けられる痛みに思わず高山超新星が胸を抑えると、前にいる天使の口から「ぷふッ」と笑い声が漏れたのが聞こえた。


「ちなみに……えふッ……失礼。この事故が報じられると、『【悲報】超新星くん誕生わずか48年で爆発するwww【画像あり】』などとネットの世界は軽いお祭りになりまして。それはもう、まとめサイトを作られたり、とても注目度の高い――――」


「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 心を抉るような事実を説明する天使に向かって絶叫する高山超新星。そんな彼に見せつけるように、天使はまとめサイトのコメント欄を突きつけた。


 『すーwぱーwのwばw』だの『日本で超新星爆発が観測されるとはたまげたなぁ・・・』だの『ベテルギウスを越えた男』だの……。おおよそ人が死んでる大事故のコメントとは思えない、人の心を感じない言葉に、強く噛み締めた唇から流れる鮮血が、白い大理石の床に赤い斑点をつける。


「なんなんだよ……! 生きてる時も散々嫌な目に遭って来たってのによ!! なんで死んでもこんなこと言われなきゃならないんだよ!? オレが何をした!? そりゃオレはニートだ。社会からしたら鼻つまみ者だろうよ!! でも、それを望んだのは日本の企業、社会そのものだろうが! ニートになってからも、別に誰かを叩いたりしないで、やってたことと言えば、せいぜいFPSで他のヤツを殺してるくらい!! 社会に関わらずおとなしく部屋に引きこもってただけなのに何だこの仕打ちは! どいつもこいつも人の名前をからかいやがって! オレの名前いじった奴ら全員死ねッッッッ!!!!」


 ずっと内に溜めてたものを全て吐き出すように、彼は叫んだ。


 社会にも出ることを許されず、ただただ歳を重ね、精神年齢が大学の時から変わらない、見た目と中身にギャップのある中年男の言葉なんて、もはや誰もまともにとり合わないだろう。それでも、彼は今まで溜めて来た鬱憤を叫ばずにはいられなかった。


 そんな魂の叫びが響いたのか、天使は泣きじゃくる彼の背中を優しくさする。


「ぷふ……こほん、さぞ辛い人生をお過ごしになられたことでしょうね。溜まってることも多いでしょう。なので本当はこのまま審判の場に案内するのですが、私の権限であなたを異世界に転生させてあげたいと思います。もちろん、転生特典として『あなたが考えた最強のジョブ』に『そのジョブに必要なステータスの最低値』を持った状態で。どうぞ思いっきり無双して来てもらって、全てを吐き出してスッキリした状態で審判へ望めるようにして来て下さい」


 笑いを堪えられずに震える天使だが、背中から伝わる優しい温もりと提案は、高山超新星の心を震わせる。確かにこの天使のことは信用できない。それでも、日本の人間たちに比べりゃはるかにましだと、彼は考えた。


 異世界転生――そういうジャンルの小説や漫画にも手を出して来た。その転生先で無双できれば、たしかにスッキリするかもしれない。しかし、そんな心が引かれる提案だからこそ、高山超新星はそれを素直に受け取れない。


「て、天使様――お、オレ、オレは……無双できるなら日本で、日本で暴れたい! どうか、い、異世界ではなく日本にチート能力を持った状態で転生させてください!!」


 そう、彼にとってあくまで見返したり、叩きのめしたりしたい相手はあくまで日本にいるわけで、異世界の何も知らない相手に無双しても、気持ちよくなれるとは思えなかった。


 だからこそ、対人恐怖症でありながらも、たどたどしい口調で必死に訴える……が、天使からの返答は彼を失望させるものだった。


「残念ながら私の権限でそれは出来ません。ですが、あなたが思い描くジョブ次第では、世界の壁を越えて日本に移動する事もできるかもしれませんよ? では、飛ばします。頭の中にあなたが付きたいジョブを思い浮かべるのです」


「待って――――――」


 突然足元から床の感覚がなくなり、高山超新星の体は下へ下へと落下していく。


 物理的な落下に合わせて彼の意識もまた、深い深い闇の中へと沈んでいった。

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