第6話 高山超新星

 高山たかやま超新星スーパーノヴァ 享年48歳。174cm 180kg。日本人にあるまじき、体重>身長という驚異的な肉体を持つ。


 死因はとある日の深夜、トラックの行き交う国道に沿って建っていた、母親から譲り受けた一軒家に、居眠り運転のタンクローリーが突っ込んでの爆発炎上だった。


 その大事故による被害者として全国に名前が駆け巡ったのを思い出して、堕天使はしみじみとした表情で何度も頷いた。


「思い出すわ~、超新星爆発するする詐欺のベテルギウスを出し抜いて、『日本で超新星爆発を起こした男』としてネットの玩具――もとい、有名人になったスーパーノヴァ君! 懐かしいな~」


 さっきの強盗4件の男と違い、名前が奇天烈なだけで、日本一と呼ばれるT大に現役合格して、成績優秀で卒業した男。実は幼少期から大学時代までは文武両道で欠点らしい欠点もない秀才だった。ただ唯一の弱点と言える奇天烈な名前が、就職氷河期の圧迫面接官にとって最高のサンドバックだっただけ。


 20年以上ニートを続けたことで、その能力もすっかり錆びついているはずだが、運よく誰かに助けられた後に、過酷な世界にケツを叩かれ昔を思い出したのなら、なんとか生き残っていたとしてもまぁ……とギリギリ納得できるくらいの能力はある。


「ま、とりあえず連絡とってみますか~。繋がるかなっと」


 独り言を言いながら、堕天使は念話テレパスを送る。もともと天使同士の交信手段、人間が対応できるわけがない。ダメ元と思っての行動だった、しかし――――。


『Hello? Who are you?』


『あ、すいません。間違えました』


 その念話に応じられたかと思ったら、飛び込んできたのは英語。驚いた堕天使はとっさに念話を切った。 


 しかし間違えたといったものの、念話は本人に直接繋ぐもの。電話のようにかけ間違いなどあるはずがない。何が起きたのか理解できず、堕天使は腕を組んで首を傾げた。


「ああ、急な念話でどなたかと思いましたが……確かルーシー様、でしたかな? 私を転生させてくださった天使様の。天使様でもイメチェンとかされるのですね。いや、あの時のような純白より、今の漆黒のお姿の方がお似合いですよ」


「!?」


 悩む背後から急に飛んできた声に、堕天使が勢いよく振り向くと、そこには口元にカイゼル髭を蓄えたオールバックの男の姿があった。


 身長は175㎝程度、首に金属の首輪をはめ、背筋のピンと伸びた執事服の下には、服の上からでも筋肉の鎧が纏われていることがはっきりと分かる。


「え? え? え? 誰!? どこから現れたのよ!!?」


「失礼いたしました。私は10年前にあなたによりサヴァイヴァリアに転生させていただいた者。かつての名前は忘れてしまいました故、あなたに対して何と名乗ればよいのか迷っております。ちなみにここへは念話の線を辿り、私のスキル『宇宙跳躍コズミックワープ』を使って参りました」


 説明されたとて、頭の上に光輪だけでなく多くのはてなマークを浮かべる堕天使。身長は高山超新星と同じくらいだが、その姿は記憶の中の男と似ても似つかない。


 それでもどうやったのかは不明だが、念話を辿ったというのなら、それは高山超新星である可能性は高い。たった10年の間にここまで姿が変わっているのもそうだが、堕天使を混乱させる理由はもうひとつあった。


(何このプレッシャー……気持ち悪い……)


 いつの間にか背中にじっとりと冷や汗が浮かび、服が不愉快にへばりつく。まるで主神を前にしてるかのようなプレッシャーに、堕天使は体が床に崩れ落ちそうになるのを必死に耐えていた。


(とにかく……このスーパーノヴァ君(仮)について……調べないと……)


 サヴァイヴァリアには、その世界の基準で『人の戦闘能力を数値化する』という魔導士が作ったシステムがあり、それは向こうの天使から協力を願われた際に共有していた。


 なにしろ血で血を洗うのがサヴァイヴァリア。だからこそ国単位どころか町や村と言った小さなコミュニティの中でも、外敵から身を守るために、老若男女問わず戦える者全員が襲撃に対する防衛に参加する義務がある。


 そんな犠牲者が少なからず出てしまう状況に対して、出来うる限り適材適所に人材を配備することを目的に作られたのがそのシステム。


 戦闘に関するものとして、生命力・魔力量・攻撃力・魔術攻撃力・防御力・魔術防御力・速度・技巧の8項目のステータスを、推定ではあるが伝説として語り継がれる英雄たちの力を、人の限界値と定め、その数値を9999として相対評価するものだ。


 そのシステムで天使どうしが測り合ったとき、堕天使の能力は全て7000を超えいてた。英雄とまではいかないが、並の人間では及ぶものではない。


 目の前にいるのが高山超新星であろうと、そうでなかろうと、サヴァイヴァリアの人間なら自分が劣るはずがない。圧倒的なプレッシャーを感じながらも、堕天使はその不安を振り払うべく、紳士に向かい合う。


(『測定の天眼』!!)


 それがサヴァイヴァリア担当の天使が使うスキル。目の前にいるものがどれほどの力を持つのか、サヴァイヴァリアの基準で測れるものだ。


 緊張しているせいなのか、測定が終わるまでの時間がやたら長く感じられたが、やがて堕天使の目の前に紳士のステータスが表示された。


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名 前:つよつよにくだんご

ジョブ:超超究極宇宙闘士 Lv:3

生命力:1336081 攻撃力:1055162 防御力:1073906 速 度:1036987

魔力量:1000006 魔攻力:1000001 魔防力:1042609 技 巧:1042166

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「いや、小学生か!!」


 そこに表示されたのは全ての能力が100万を超えるという、小学生が自由帳に書くような『ぼくのかんがえるさいきょうのじょぶ』。


 思わずのツッコミで大声を出せたためか、プレッシャーから解放された堕天使は目の前の現実へと向き合う。


「え、ほんと、え、なにこれ? ちょうちょう究極きゅうきょく宇宙うちゅう闘士とうし? え、ほんと何?」


「はっはっは! 残念ながらこれはちょうスーパー究極アルティメット宇宙コズミック闘士ファイターと読みます。珍しいジョブですから読み方がわからないのも無理がありませんな!! しかしさすがは天使様、私の情報をご覧になるスキルをお持ちで?」


「いや、盗み見たのは悪かったけど、そうじゃなくて! 普通『あなたが考えた最強のジョブに、そのジョブに付くために必要な最低の能力を持った状態で転生させる』って言われたらさ、勇者とか賢者とか英雄とかそういうものを思い浮かべるものでしょ!? ねえ!?」


「はて、私の認識では『自分で新規ジョブの名前と、それに就くため必要な最低ステータスを設定しろ』というものだったのですが。勇者だ賢者だというのはレトロゲームから続くRPGの定番で、既存ジョブと考えておりました。まぁそのような称号は他者から自然と呼ばれるべきものであり、ジョブと考えること自体甚だ疑問ではありますがね」


「正論を止めろ! よくもまああの時の短いやり取りの間にそこまで考えられたわね!? いや、正しいんだけど!! 正しいんだけど、そうじゃなくて……!!」


 いつもなら死に戻って来た相手にたいして吐くセリフで、カウンター論破された堕天使は地団太を踏んで悔しがるものの、今はそんなことしてる暇はないと思い直してなおも問い詰める。


「そうじゃなくて、能力の最大値は9999のはずでしょ!? それなのに全部が100万超えとか、どんなチート使ったのよ高山たかやま超新星スーパーノヴァ!!」


高山たかやま超新星スーパーノヴァ?」


 ぴくりと紳士の眉が動いたのを見て、堕天使は慌てて口を塞いだ。だが、もう遅い。名前は高山超新星にとってのトラウマ。それのせいで苦労を強いられ、世界を憎んでいたのを知っていたのに……己の行動の迂闊さに、堕天使から流れる汗はその勢いを増した。

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