第6話 次は必ず......
「要くん。今日、テストが返されますが自信の方はどうですか?」
「そうだな...... 今回のテストで赤点は、とりあえず無いと思う。」
「それは、良かったです!それならとりあえず体育祭には出場出来ますから。では、私との賭けの方はどうですか?」
「まだ、なんとも言えないが、勝てる見込みはあると思ってる。」
中間テスト終了から三日後。二人は学校へ向かって歩いていた。
「それは、とても楽しみですね!。私も今回、要くんがどれ程の順位になったのか気になってましたし」
「そう言う愛鈴は、自分の順位を心配しなくても良いのか?」
「絶対に大丈夫!。とは言い切れませんが、少なくとも九十点を下回るような教科は、一つもないと思いますよ?」
「それほぼ、大丈夫って言い切ってるようなものじゃないか?」
当たり前のことかのように、さらっととんでもないことを言ってのける愛鈴を見て、改めて天才なんだなと実感した。
「いえ、この程度の点数で安心はできませんよ。全教科満点を取れたって言う確証を得られて、ようやく大丈夫だと言えるんです。」
「そんな奴、この学校に一体何人いるんだよ?」
「少なくとも、この学年にはいないでしょうね...... 」
愛鈴は、学年一位の自分ですら、満点を取ったことはなかったので、それより下の順位しかいない同学年には、全教科満点なんて言う生徒はいないとわかっていた。
「凄い人の数ですね...... 」
「みんな自分の順位が気になるからな」
学校につくと、全生徒の学年順位が載った紙が玄関に貼り出さられており、その順位を見にきた生徒が玄関に集まっていた。
「やはり、人がこんなに多いと自分の順位を見つけるのも大変ですね。」
「こればっかりは、慣れるしかないからな」
「私の名前は〜、あっ、見つけました!」
愛鈴が一生懸命端っこから自分の名前を探していると、一番上に自分の名前があるのを見つけた。
名前の隣には、一位という文字が書かれていた。
「愛鈴はやっぱ、今回も一位か...... 」
「要くんは何位でしたか?」
「俺はまだ見つかってなくてな...... 」
「私も探すの手伝いますよ。」
愛鈴に手伝ってもらいながらも、ようやく自分の名前を見つけた。
「あった!え〜っと、俺の順位は...... 」
そこには、名前の隣に、八位の文字が書き記されていた。
「八位...... か」
確かに前回に比べれば、格段に順位が伸びているし、十分に喜べることだ。
でも、その順位は自分にとって、喜びよりも悔しさが上回る順位だった。
要は昔から、何かに向かって、全力で取り組んだことがなかった。
何かを続けようとしても、途中で飽きてしまうし、全力を注ぎたいと思えることにも出会えてこなかった。
そんな自分が、今回のテストで、初めて全力を尽くしたいと思えた。
恐らく、去年までの自分ならば、何も努力しないで赤点を取って、いつも通りのことだと適当に割り切って補習に行っていただろう。
しかし今年は違った。去年とは違い、一人ではなかったのだ。
ずっと憧れていた友達と呼べる関係の人をようやく見つけられた。そして、その友人と一緒に頑張った。
確かに、そのおかげで赤点を回避することが出来、本来の目的を達成することは出来た。
けれど、今回のテストで上位五人の中の一人に入るという勝負には負けた。
残り三人。残りたったの三人を越えられなかったことは、自分にとってはとても悔しいことだった。
「要くん...... 」
愛鈴から見れば、八位と言う順位は以前の順位から比べても、十分過ぎるほどの成長だった。
だから愛鈴は、よく頑張ったと声を掛けようとしたが、要が自分の順位を見つけた時の様子を見て、気がついた。
「要くんはこの順位に納得がいってないんだな」と、だとしたら、自分がかけるべき言葉はたった一つだった。
愛鈴は要の意識をこっちに集中させるために、要の頬に手を優しく当て真剣な眼差しで要に言う。
「要くん!...... 要くんは今回のテストの結果を知って、どう思いましたか。」
「どう思ったって......、 それは...... 」
「要くんは、悔しいと思ったんじゃないですか?」
「............ !?」
「別に、悔しいと思うことは悪いことではないです。むしろ、悔しいって思えるということは、更に頑張ることが出来るということですから。そう思えるのはとても良いことだと思います。」
確かに愛鈴の言ってることは間違ってないし、むしろ正しいことだと思う。でも......
「それに、今年のテストはまだ一つあるはずですよ?。ここで諦めるにはまだ早いんじゃないですか?」
「けど、俺は...... 」
「ここで諦めるんですか?たかが一回のテストで。要くんは今回頑張って、そして成績も伸ばせた。要くんの努力した結果はこうして形となり残った。要くんの努力は決して無駄では無いんです!。だから要くん、もう一度だけ、頑張って見ませんか?」
そう言うと愛鈴は、天使のような笑顔で優しく要の手をギュッと握った。
「愛鈴...... 。」
この時要は、次は必ず五人の中の一人になって見せると決意した。
「次のテスト。今回と同じルールでもう一度、受けて差し上げます。期待してますよ?」
「悪いな。こんな情け無いところ愛鈴に見せちゃって。」
「いえ、別に気にしてませんよ?。それよりも、そろそろ教室に戻ったほうが良さそうです。もうチャイムが鳴りそうなので...... 」
時計を見ると、ホームルームまで残り一分を切っていた。
「急ぎましょう要くん!」
「ああ!」
二人は走って教室へと向かっていった。
昼休み、二人はいつも通り屋上で昼休みを過ごしていた。
「あの、要くん」
「なんだ?」
「中間テストの賭けの話なのですが.........」
要にお願いしたいことが少し、恥ずかしかった愛鈴は年頃の乙女のような表情で、視線を逸らしながら話した。
「そう言えばまだ聞いてなかったな。良いぞ、愛鈴が勝ったんだ、遠慮しないで何でも言ってくれ。俺に出来る範囲のことならなんでも叶えてやる。」
「わかりました。では、もしよろしければ、私と二人きりで今度の休日、出かけてもらえませんか?」
愛鈴からの願いは、予想していたものとは全然違っていて、とても可愛らしい内容だった。
「全然良いが、本当にそんなことで良いのか?」
「ええ!。私が今一番要くんに叶えてもらいたい願いはこれですから。」
「そうか...... 、わかった。じゃあ、そうと決まればいつ行くのかを決めないとな。」
「あのっ!、要くん。前から聞こうと思ってたんですが...... 私達、友達同士なのに互いの連絡先知らないじゃ無いですか?だから、休日の予定を決める為にも、連絡先交換しませんか?」
言われてみれば、一緒に登校する仲になって、大体三週間くらい経つのに、未だに互いの連絡先を知らないでいた。
「そう言えばまだ連絡先交換してなかったな。互いの連絡先知らないのは不憫だし、交換するか。」
「本当ですか!」
「繋いでおかないと何かあった時大変だからな。連絡先繋がるからスマホ出してもらえるか?」
「わかりました!」
愛鈴がスマホを取り出すと、要は自分の連絡先を愛鈴に送り、連絡先を繋げることが出来た。
連絡先を繋げると、愛鈴は嬉しそうに優しく笑った。
「ありがとうございます!では、予定が決まったら連絡いたしますね?」
「ああ。そうしてもらえると助かる。」
連絡先を繋ぎ終わると、丁度休み時間が終わる時間だったので、急いで二人は教室へと戻った。
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