第11話「吸血」
「という訳で学級委員長は
それに対し教室の多くが賛同する。
六時間目の道徳の時間を食い潰して行われる委員会決めが今、納得いかない形で決着しそうになっていた。
「先生…!なんで僕がやる事になってるんですか…!?」
教壇に立たされている僕は小声でそばにいる先生に問いただす。
エルが言い出して何故だかトントン拍子で話が進んでいるからだ。
「仕方ないだろ、他にやりたい奴がいないんだから」
「そうよ、堪忍しなさい」
同じく教壇に立たされていたエルが小さな声でそう言った。
得意げにふんすと鼻を鳴らしているちくしょう!!
今年も何もやらず目立たないようにしようと思ってたのに…!!
「それじゃ二人で決定だな、座っていいぞ」
その先生の発言に対して形式的な拍手が行われる。
僕を茶化す様な男子生徒の声も多く聞こえてきた。
なんて事だ、本当に副委員長になってしまった…どうしてこんな事に…
「よろしくね、湊音くん?」
「……お願いしますね…エルさん…」
たっぷりと嫌味が込められた言葉に対して僕が出来ることと言えば否定でも抗議でも無く、同じく若干の嫌味を込めた返答なのだった。
なんでこんなことに…
ーーーーー
「ということがあって…副委員長をやることに…」
学校が終わりそろそろ日も暮れる頃。
僕はアリアさんと夕飯を食べながら今日あった出来事をため息混じりに話していた。
ちなみに献立はハンバーグとお味噌汁にマッシュポテトだ。とても美味しい。アリアさんがこの世で一番の料理人である事疑いないね!!!
「天使ちゃんらしいねぇ…」
僕のちょっとした小言に対して微笑ましい様子で頷き、続け様に質問を投げかけた。
「でも湊音くん、学級委員って言っても具体的には何をするの?」
「ちょっとした雑用から文化祭や体育祭と言った行事の仕切りまで、何かとやる事が多いみたいです…」
特に僕が懸念しているのは文化祭などの大きなイベントである。
どうもあの手の行事は肌に合わない。言ってしまえば苦手なのだ。
それは僕の人の顔色や感情を必要以上に伺う癖からくる物なのだが、それが特に過敏になってしまう。
「確かに大変そうだね。でも天使ちゃんが委員長なんだし、湊音くんはそのお手伝いをする感覚で入れば良いんじゃないかな?それほど気負わなくても大丈夫だよ思うよ」
アリアさんはやはり優しく心強い。
僕は初めての経験に緊張し物事の核を見落とすところだった。
あくまで僕は副委員長であり、委員長ではない。何もクラスの中心に立つのは僕では無くエルだ。
であれば僕の仕事は彼女の手助けであり、ひとまずそれだけを考えていれば良いのだ。
「そうですね…なったものは仕方ないし、頑張ってみます」
「うん、それが良いと思う。よおし偉いねぇ!ほれほれ、良い子にはこれをあげよう!」
そう言いながらアリアさんはお皿に乗せられたハンバーグを半分も僕にくれた。
その行いに対して感謝を述べつつも、僕は昨夜話していた内容をふと思い出した。
「そういえば、血は飲まないんですか?」
昨日の会話を思い出すに、人と同じ食事でも生きていけるというのは理解している。
しかし、それだけが血液を口にしない理由にはならないような気がする。吸血鬼なら好物だろうし…
「最近は…飲んでないねぇ」
「なら僕の血飲みますか?」
それを聞いた途端、含んだお茶を勢いよく吹き出した。
「湊音くん…!?」
この発言は自分なりの善意のつもりだった。
日頃からアリアさんには感謝しても仕切れないほどの事をして貰っている。
普段の家事から先日の黒い吸血鬼騒動まで、生活と命の二つを守って貰っている。
だというのに僕は何一つとして恩返しをしていないのだ。勿論口頭での感謝は伝えているが、それだけでは足りないような気がする。
ならばと自分が差し出せてかつ、吸血鬼であるアリアさんが喜びそうなものをと考えたのがコレである。
「あのね、吸血鬼相手にそんな事いっちゃ駄目だよ…」
「吸血鬼だからとかじゃなくて、アリアさんだから言ってるんですよ?」
「ちょっと待って、吸血は食事…!私は湊音くんが健やかに暮らすために守る立場な訳だよ。それなのに血を吸うなんて出来ないよ」
なにやらぶつぶつと言い訳をしているが、何をそんなに躊躇う必要があるのだろうか。
確かに吸血されるのは痛みが伴うだろうし、それを特大過保護のアリアさんが良しとしないのもなんと無く予想がつく。
だが吸われる側である僕が当たり前のように了承しているのだからそこまで悩む必要はないと思う。
となると考えられるのは…
「僕の血って不味いんですか…??」
そうだ、それしかない。
そんなぁ…これでもアリアさんの完璧な食生活管理によって超健康体である事を自負しているのに…
買い食いだってしてないし揚げ物とかお菓子とかもそんなに食べてないのにぃ…なんかショックだ…
「いやいやいや湊音くんの血はすごい美味しそ……う……」
しまった…と言った風に口元を抑えた。
おや?おやおや?その反応からするに嘘では無さそうだ。
思い出したが昨夜襲ってきたあの黒い吸血鬼も僕の事は美味そうとかなんとか言ってた気がするし、ほぼ確定だろう。
「なら良いじゃないですか!どこから吸いますか?」
「その発言吸血鬼的にはすごくえっちだからね!?自分で何言ってるかわかってる!?」
「そうですか…アリアさんは僕に恩返しを一つさせてはくれないんですか…?」
「その言い方はずるくない!?」
自分でも少し卑怯な言い方になってしまったなと思った。
それでも僕はアリアさんに何か恩返しをしたい。
これは少々強情だろうか。
そもそも行為の押し付けは恩返しになるのだろうか。
いや大丈夫だ。アリアさんなら理解してくれると僕は信じている。
「…わかった、ありがたく頂戴するよ。指、出してくれるかな」
半ば諦めたように了承してくれた。
「本当ですか…!わかりました!」
そう言って僕は左の人差し指をアリアさんの方へと差し出す。
それをアリアさんは優しく包むように噛み、じっくりと僕の血液を吸い出した。
「わ……」
不思議な感覚だった。予想では怪我をした時に出血するのと同じようなものだと思っていた。
しかし実際はなにかこう…体温が吸われる方へと向かっていくような、でも体は暖かくなっていくような体感したことのない経験だった。
アリアさんはなるだけ指の傷を少なくかつ血を吸い過ぎないように気を遣っているようで、真剣な顔で僕の指を咥えている。
しばらくして、アリアさんは満足したのか僕の指を離した。
「どうでしたか…?」
「ガチで美味い」
驚きと嬉しさが入り混じったような声だった。
少し嬉しい。
「そうですか…!よかったです!」
「ビックリするほど美味しかったよ!普通じゃないね!」
アリアさんは笑顔でそう言ってくれた。
良かった、どうやら喜んでくれたみたいだ。
「また定期的に吸って下さいね」
「また今度ね!!」
そう言って僕たちは再び夕飯を食べ始めた。
この時アリアさんの表情が曇っていたのだが、その事に僕は気づかずにいた。
後に思えば僕のとある体質について憂いていたのだとわかるが、当時の僕には考えも付かなかった。
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