第34話:灰と鼠の後始末



 翼が描かれた旗が教会各地に立ち上がる。

 『緋色の翼』。ロサやライラックたちが立ち去った後、入れ替わるようにして彼らが現れ、後始末を行なっていた。



「旦那、本当に姐さんに声かけなくてよかったんすか?」



 ロサから事前に連絡を受けていたネズミも姿を現していた。主に情報の整理、隠蔽のためだ。

 そんな彼に「旦那」と声をかけられた男は全身鎧を纏い、顔もろくに見えない。



「大丈夫。会える機会はちゃんと自分で用意しておくさ。それに見逃すとロサに約束してしまったんだろう?」



 男は『緋色の翼』の頭であり、ロサのかつての相棒だった。

 『緋色の翼』ができる前の幼い頃から男はロサと共に荒んだ街を駆け抜け、身を寄せ合って必死に生きてきた。


 だけど、ロサは男の前から立ち去った。


 理由は今でも男は分からない。分からないが、男はロサが必要だった。だから取り戻そうと躍起になり、何度も行方不明になるロサを見つけては連れ戻そうとした。

 一時はロサが亡くなったという情報も届いて気が狂ったりもしたが、今はもういい。


 男は現在は別の怒りを抱えている。



「ライラック・レイヴン。貴女はロサの相棒に相応しくない」



 鐘塔下でライラックと手合わせした時のことを思い出す。



『それは私の相棒のさ』



 彼女はロサのことを相棒だと言った。


 たとえ天使がそれを認めようとも、男は許すわけにはいかなかった。

 見殺ししたレイヴン家は信用できない。

 だから、自分が彼女の相棒であるべきなのだ。

 ……だが、今はその時ではない。



「ロサ、次に会うときまでに僕の隣にいるべきだったと後悔させてあげるね」



 男は無邪気な声で呟く。

 そんなんだから姐さんに逃げられたんすよ。と、出かかった言葉をネズミは飲み込んだ。

 ネズミは自分の命が惜しいため言葉にはしない。言ったら最後、彼の手に握られた剣がネズミの心臓を貫いているだろう。



「……というか、今度からは姐さんに頼み事は控えた方がいいっすね」



 ネズミにとってはちょうどいい駒だったが、これ以上は頭の逆鱗にも触れてしまう。というより、これからはロサを探すために今度は自分が頭にいいように使われそうだ。


 お互い、厄介な仲間がいると大変っすね。


 ため息をつき、ネズミは今も同じ空の下、旅しているであろうロサに同情を寄せた。



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