第26話:子どもかよ
ライラックがリリス教の神様に会ったらしい。
本日分の仕事である降神祭の準備を終えたロサはそのまま主聖堂の座席に腰を下ろし、頭を抱えていた。
昨夜、隠された通路を使って地下に潜り込んだロサたち。その時、ロサはずっと地下にいたが途中でライラックは別の場所で確かめたいことがあると言って、一旦は分かれた。
その確かめたい場所で、リリスという少女に遭遇したのだ。
そう、少女だ。
神様は少女だった。
年に一度、降神祭で姿を現しているので教会の多くの人はリリスを見たことがある。新入りのロサは当然知らない。見たことがある者に聞いても神秘的、歌が綺麗など讃える言葉が出てくるだけでろくな情報がない。話の雰囲気から女性だとは思っていたが、自分よりも年下の少女だとは思わなかった。
『とは言っても、天使……リリウム様も、アルストロメリアも年をとらないから、神様と言われているリリスも同じかもしれないがな』
では、本当に神様で中身はババアなのか?と聞くとそうではないらしい。
『神秘的ではあるが、やはり人の子のように感じた。中身も見た目と同じだろう』
『紛らわしい言い方するなよ。じゃあ、リリス教は、』
ただの少女を神に仕立て上げ、道具として利用し、重い役割を背負わせている。
そう考えが辿り着き、ロサの内側でやるせなさと怒りが渦巻いた。
しかし、ロサとは反対にライラックはいたって冷静に話を続ける。
『そうだな。人の子を神と仕立てている可能性が高いかもな。まあ、傀儡にするとしたら大人より考えが未発達な子どもの方が適切ではあるな』
地下の子どもといい、今回のことといい。確かに事実ではあるが、もう少し言い方に気を付けたらどうなのかと苦言しようとする。だが、ライラックはロサに詰め寄って話を続けた。
『本題に戻るが、リリスを旅の仲間に入れていいか?』
そこでおや?とロサは首をかしげる。
大人でも、同情してしまうような境遇の子どもでも、思い入れすることなく、良く言うと平等に、悪く言うと冷めた態度をとっていたライラックが、リリスに執着している。
『そう言われると確かにそうだな……。だが、私にもよく分からない。ただ、リリスと一緒に旅をしたいと思った。それだけだ』
子どもかよ。と、ロサは呆れた。
旅の仲間が増える。人数が増えれば増えるほど気軽な移動が難しくなる。しかも、ずっと一つの場所で過ごしていたのならなおさら。ライラックは偶然、この生活に適応したが、リリスという少女が合うとは限らない。
それに、ロサたちと過ごすよりも、きっと後処理で動くであろう『緋色の翼』に引き取ってもらった方がずっといい。衣食住が保障されて安全だし、同年代の子どもも沢山いる。
『もう、彼女には約束してしまった』
だというのに、なんてものを約束しているんだ。
ロサはため息をついたが、ライラックは次の言葉で封殺した。
『それに、神として扱われていた者が、信者や他の者たちと同じ空間に馴染めるか?』
その言い方は、ずるい。
リリス教の従順な信徒、地下にいたリリス教を強く憎む子どもたち。そんな彼らと一緒にリリスという少女を本当に一緒にしてもいいのだろうか?
そんな考えがよぎり、ロサは首を縦にも横にも振ることができなかった。
結果、話は一旦保留にはなったが、早く決断しないといけない。
そう悶々と考えているうちに、ロサ以外誰もいなくなっていた主聖堂に人影が現れた。
「悩める仔羊よ、どうかしましたか?」
「神父さん」
少し茶目っ気のある言い回しで神父はロサに微笑んだ。
「珍しいですね、ロサ殿。いつもは業務を終えたら子どもたちと時間を過ごしていますのに」
「ああ、ちょっとライラックに……」
「レイヴン家のご令嬢ですか。彼女から奇想天外なことを頼まれたのですか?」
「まぁ、そんな感じだな」
「ふふ、貴女方は相変わらず仲が良いのですね。それにしてもこんな中、お二人がどうやって出会ったのかは気になりますね」
出会った当初は賢く、どこか裏があるように感じて警戒していた神父。しかし、ここで過ごしていくうちに、他者や子どもにも気遣う態度や言葉に嘘偽りは感じず、決して悪のような存在とは思えなくなっていた。
それなりにロサは人を見る目があると思っているし、それに救われてきたことも何度もあった。だからより一層、昨夜地下で知った出来事が、神父が犯したことが、受け入れがたいことだった。
「ああ、じゃあ、私の悩み事を聞いてほしいです」
「アタシに、か?」
「ええ、ぜひロサ殿のご意見も聞きたいです」
「わかった。と言っても、アタシが神父さんの力になれるかは怪しいところだけどな」
「いえいえ、そんなことありませんよ。では、ロサ殿、」
今までと変わらぬ笑みで神父はロサに質問した。
「昨夜、地下で貴女たちは何をしていたんですか?」
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