第25話:◆神父様、わたし、◆




 降神祭。




 リリスがこの地に降り立った日。


 リリス教ができた日。


 リリスが神父様と出会った日。




 もう、神父様と出会って、十年の月日が経つことにわたしは不思議な気持ちになった。

 とっくのとうにお父さんとお母さんと過ごした時間よりも神父様と過ごした時間の方が長くなったのだと。



「神父様……」



 わたしは呟く。こうして、言葉をちゃんと話せるようになったのも、傍でずっと教えてくれた神父様のおかげ。


 神父様はすごい。


 何もできない幼かったわたしをリリスという神様にしてくれた。



『リリス様、これで満足してはいけません。リリス教は天界神教を超えなくてはいけません。アルストロメリア様。あの有翼の天使は貴女にとって脅威の存在。聖戦でいつか討伐する必要があります』



 だけど、神父様にとってはまだまだらしい。

 もっともっと沢山の人を救って、リリス教を大きくしたいと言葉に力を込めながら言っていた。



『だけど、安心してください。全て私が何とかしますので、リリス様は降神祭で人々を救うことだけを考えてください』



 たぶん、神父様なら本当に全部何とかしてくれる。

 でも神父様。ごめんなさい。わたし、リリスでいることがとても難しいみたいです。






 神父様、わたし、リリス教内で救われていない人がいるのを知ってしまいました。


 神父様、わたし、その人たちに何もできないみたいです。


 神父様、わたし、全員ちゃんと救えていると勘違いしていました。


 神父様、わたし、わたし、


 

 外に出て、旅に出たいと思ってしまいました。






 それはとてもいけないこと。


 ライラックと出会ってわたしはリリスに求められていること以外の考えを、願いをもってしまった。

 今朝、鐘塔を訪れ、ご飯を運んできた神父様に気づかれなかっただろうか……?


 わたしが、リリスが、おかしくなっていることに。


 降神祭で人々を救うことだけを考えろ。それさえもできなくなってしまったら、リリスはいらない子になってしまう。それだけは絶対に避けないと。



 

 わたしは瞳を閉じ聖歌を口ずさむ。




 この歌は神父様が初めて教えてくれたもの。

 降神祭で人々を救うための歌で、リリスがリリスであることを教えてくれる歌。



 ……うん、大丈夫。



 リリスは微笑み、明後日に控えている降神祭に心を躍らす。

 ああ、今年も沢山の人々を救うことができますように。



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