第23話:◆わたしはだぁれ?◆





 わたしはだぁれ?


 わたしはだぁれ?


 わたしはだぁれ?





 わたしはわたしが何者なのかぐちゃぐちゃになっている。



 わたしはリリス。わたしは神様。


 本当に? 本当に?



 ちゃんと答えられているはずなのに、違うよと誰かが囁いてくる。

 それがとても煩くて、怖くて、嫌になる。



『それに、誰かを救うのに神である必要があるのか? 貴女自身ではだめなのか?』



 彼女がわたしに、リリスに亀裂をいれた。

 暗闇をまとった不思議な人。


 神父様しか訪れないはずのこの塔に彼女は現れた。


 どうやって来たのだろうか?


 ここまでの道のりは神父様しか知らないはず。神様を守るためには必要なことだって言ってた。でも、彼女は来た。


 翼でも生やして空を飛んだのだろうか?

 では、天使様なのだろうか?

 ……いや、天使様とはちょっと違う。



 鴉。



 ああ、そうだ。鴉だ。

 私に亀裂をいれた彼女には黒い翼が似合う気がした。


 だけど、どうしよう。

 降神祭はもうすぐなのに心が揺らいでしまったら誰かを救う歌を歌うことができない。

 だから、ちゃんと、リリスにならなくちゃ。



『なら、一緒に行くか?』



 ふと、彼女の言葉を思い出す。


 リリスには許されない、いけないことだけど、わたしにとって、とても魅力的な言葉だった。


 旅は楽しい。


 そう話す彼女の瞳はキラキラとしていて、羨ましいと思ってしまった。

 旅ができるとしたら、自分はどこに行くのだろうか?

 昔、どこかで聞いた、海や砂漠というところに行ってみたい。






「ライラック」



 でも、自分は、リリスは旅はできない。



「ライラック」



 これからもずっと鳥籠の中に居続けるのだろう。



「ライラック」



 だから、うん。一緒に行こうと言ってくれただけでも嬉しかった。



「ライラック」



 わたしは自由な鴉の名前を何度も呼ぶ。



「ライラック」



 彼女のせいで苦しくなってしまった。でも、彼女の言葉はわたしに希望を与えたから。



「ライラック」







 叶わなくても、夢見ることくらいは赦されますよね?






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