第11話 Scene:光「あのね、大事な話があるの」
「あははははっ!おまっ、それっ!はははっ、どーすんだよっ!」
そんなに笑わなくても。翼が体を捩って笑い転げている。
「人相変わってんぞ、あははは、別人だ!誰だか分かんねーよ!」
「え、そんな?」
「両眼をグーパンチで殴られたみたいになってんぞ、あはははっ」
「じゃ、ボクシングの撮影したって言おうっかな」
「あははははは、ひゃー、おもしれー」
どうしよう。昨日泣き腫らしたので、瞼がぱんぱんになってしまった。
「サングラスしてく」
「あははは、わたくし、芸能人になりましたってか?」
「意地悪言わないで、貸してよ」
翼の部屋に入る。
「どこ?」
「ほら」
大きなサングラスを借りる。
「授業中は、ぷっ、外さな、っきゃ、だけどなっ」
「もう、笑い過ぎ!」
翼と大学へ向かう。
一人じゃないことにホッとしてる半面、サングラスを掛けた私が、人目を引く翼と歩いてたら逆に目立ってるんじゃないか……と心配になってくる。
「私……自意識過剰になっちゃったみたい」
「何気に有名人になりつつあるからな、お前」
「そうなの?」
「CMすごいよ、バズってる」
「へぇ」
教室に入っても、授業が始まるまでサングラスは外せない。
教室にいる人たちが、ひそひそと私たちの事を話してる気がする。
「ひかりー!どぉしたの?芸能人やってるのぉ?」
能天気な望がやって来た。
「そんなとこ」
「似合ってはいるけど、光っぽくないな。別人みたいだ」
颯もいる。
「ちょっと、メイクが合わなかったみたいで、目が腫れちゃって……」
今朝から一生懸命考えていた言い訳を繰り出す。
「見せてやれよ」
「へ?」
「おもしれえから、見せてやれよ」
なに言ってんの?翼、私のバカが移っちゃったの?
もう、どうにでもなれって気持ちで、サングラスを取った。
「「!!」」
「あひゃひゃひゃ!」
ウケてんの翼だけじゃん……あとの二人はドン引きしてる。
「ひどーい!なんで、そんなになっちゃったのー?許せないっ!」
「ホントだよ、笑い事じゃないぜ、マジで!」
怒ってくれた二人、大好き。
目の腫れが引き始めてきた午後。
大学の授業が終わったので、みんなでファミレスに来た。
「久しぶりじゃない?ちょーたのしー、ね?!」
「そうだね」
周りからはどう見えるか分からないけど、私はみんなの顔をちゃんと見たくてサングラスを外した。
「あのね、大事な話があるの」
望が言った。心臓が、跳ねて、暴れて、痛い、壊れそう。
「ねっ?」
望が颯に目配せをする。駄目だ、また泣き出しちゃう。
「これなんだけど……」
颯が楽譜のノートを出した。
「新曲、作ったんだよねっ!二人でー!」
頭が真っ白になった。何も考えられない。
「見て見てー!みんなのイメージで作ったんだよー!」
望が私の腕にピッタリとくっ付いて、そのノートをペラペラ捲って指を指している。
『光の向こうに望む、颯爽と翼で』というタイトルに鳥肌が立った。
「頑張ったんだよー!そろそろ言わないと、練習する時間がもうあんまりないじゃん……?って、どしたー?光?」
せっかく腫れが治まってきたのに、もう、駄目だ。
「ありがとう……」
それしか言えなかった……本当に言うべき言葉は「ごめんなさい」なのに。疑ってごめんなさい。勝手に嫉妬してごめんなさい。自分が後ろ暗いことしてるからって、望まで同じだって決めつけて、本当に、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
「泣くほど嬉しいのー?でも、私たち、光に泣いて欲しくないよー?」
望の優しさが痛い。
「喜んでもらえてよかったよ。でも望の言う通り。泣かないでくれって、光」
「聞いてみるまで、いい曲か分かんないけどねー。なんか思ってたのと違うーとかだったら言ってねー。翼に編曲してもらうからぁ」
「なんで、俺が出てくんだよ」
「だって……私と颯だよー?」
「どういう意味だよ!失礼な……!」
これ。こういうのが好きなの。
こうやって楽しいおしゃべりをしていたいだけなの。
「タイトルが思い浮かばなくてさー、もう無理くりって感じだけどぉ。みんなの名前をねー、どうしても入れたっくてさぁ」
「いいと思うよ。独特って言うか……俺たち曲作りに参加出来なくてごめんな」
「いーよー、翼には光についててあげて欲しかったしー」
近々、レンタルスタジオを借りて練習しようという事で、お開きにした。
帰り道、望と並んで歩く。
「次のフェスで、バンドって解散になっちゃうよねー」
「そうかもね」
「楽しもうねぇ!」
「うん」
先を歩く、颯と翼と距離を置くように、望が歩調を遅らした。
小さい望が背伸びして私に顔を寄せ、小さな声で耳元で囁いた。
「フェス終わったら、私、颯に告白するんだぁ」
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