2.異世界転生
サンサンと輝く太陽の光。
石造りの道を馬車が駆ける。
レンガ造りの家が立ち並ぶ。
鉄の甲冑を身に付けた兵士らしき人、魔法使い風の服を着た女性、活気あふれる商人達。
絵に描いたような中世世界...いや、ここが...
「異世界だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
俺は喜びで飛び跳ねた、だが次の瞬間。
「がぁっ!?ああああああああぁぁぁぁぁぁぁあっっ!!!!!」
突然頭に激しい痛みが襲ってきた。
頭痛なんて生優しいもんではない、頭がヒビ割れ....何かが無理やり脳みそに入ってこようとしているかの様な感覚、痛みだ。
俺は必死に頭を手で押さえ、倒れ、もがき苦しみ叫び続ける。
周りの人たちが「大丈夫か!!」と駆け寄って来てくれている。
魔法使い風の衣装を着ている女性が「ヒール!」と言っているのが聞こえた。
頭の痛みは一向に治らず、それが約2分間ほど続いただろうか。
痛みが徐々に徐々に.....ようやく治った。
周りには20人程度の人集りができており、心配そうに俺を見ていた。
俺はなんとか立ち上がり、「あぁ...すいません大丈夫ですのでお構いなく...」
そう言うと見物人達は去っていったが、鉄の甲冑を身に付けてる兵士らしき人は残り、俺に一歩近づいて来た。
「本当に大丈夫か?なんだったら近くの病院まで運ぶが」
病院...異世界なのに病院ってあるんだ。
いや傷や病気を治す場所はあるだろうけども、修道院だとか中世風に言わないの?
病院って言われると現代を感じてなんか嫌だな。
「いえ、本当に大丈夫です。それより一つ尋ねたいんですがここは一体ど.......」
「ん、どうした?」
「いえ......すいませんやっぱり大丈夫です」
「?...そうか、体に気をつけろよ」
そう言うと兵士は背を向け去っていく。
ひとまず俺は近くのベンチに座って状況を整理した。
まずここがどこなのか。
ここは『ヴァルノワ帝国』と呼ばれる国の『リンス』という都市だ。
都市の人口は20万人と中世風時代にしては多く、帝国が敵視している『ブリスニア共和国』や亜人の住む土地からは離れているからか、帝国軍の規模は小さい。
(.......なんで俺はそんな事知ってるんだ?)
不思議だ、考えれば考えるほどこの世界についてわかってくる、いやまるで元から知っているかの様だ。
この世界の歴史、全ての魔法、スキルと呼ばれる技、権能と呼ばれる力、地理、文明、亜人、モンスター......。
(そう言えば女神様から貰った力は一体どん...)
俺は考えてる途中で全てを理解した。
女神様から貰った力....いや権能と呼ばれる能力、それは『賢者の知識』だ。
この世の全ての知識を貰える力....簡単に言うならすっごく知識が増えた。
心がバクバクと踊る。
熱く、熱く、滾ってくるこの気持ち。
この力は間違いなくチート級だ。
この世全ての魔法が知れた、つまり全ての魔法が使える俺は最強の存在となった......はずだ。
「あ!そうだ魔法だよ魔法!!早速使ってみたいな!!!」
魔法を発動しようと、手を前に出し....手に念じる。
何も起きない。
空に向けて手を伸ばし、ひとまず威力の低い初級魔法<ファイア>を撃つ。
何も起きない。
これはあれだ....現代の『力』と一緒だ、出し方がわからない。
いくら賢者の知識を持っていても、体の動かし方なんて考えるまでもなくできる様な事は知れない。
異世界の人達にとってはそのくらい普通にできて当然の様な事なのだろう。
どうしたものか。
(いや待てよ...異世界転生物のお決まりであるじゃないか、覚醒イベントが!!)
覚醒イベント、チンピラやモンスターに襲われた転生間もない主人公が突如自身の眠っていた力を呼び起こすあれだ。
俺もチンピラかモンスターに襲われて絶体絶命のピンチになれば、火事場の馬鹿力的な感じで魔法が使えるかも知れない。
「よし、そうとなればとりあえず......お決まりの冒険者協会に行ってみるとするか」
俺は異世界を歩き出し冒険者協会へ向かう。
◆
俺は冒険者協会に向かいながら考えていた。
賢者の知識でわかった事だが、この世界にはしっかり魔法が存在する。
魔法の種類は、初級魔法→中級魔法→上級魔法→極級魔法→絶級魔法、とあり主に基本属性の、火・水・雷・土・氷・風・聖・闇を扱うらしい。
初級は教えれば誰でも使えるような魔法。
中級は主に魔法使いを本業としている者が習得している魔法。
上級は魔法使いの中でも才能のある者が習得しているレベル。
極級は魔法の才能のある者であろうと習得が困難なレベル、現在では数えられる程度しか習得者は存在しないらしい。
そして絶級...神に選ばれし魔法使い、国を滅ぼす力......現在習得者が2人しか存在しない。
威力、使う魔力量、習得難易度、それらで等級は決まっており、かつて世界に君臨していた魔王を討伐した勇者....その仲間であった全ての魔法を扱える伝説の魔導士マーリンによってこの等級は設定されたらしい。
......はい、魔王はとっくの昔に死んだみたいです。
女神様はどうやら俺に嘘を吐いてたみたいです。
まぁ冷静に考えて魔王なんて絶対に強いはずだし、戦わなくて済んだと思えばいいが。
それでもゲーマーとしてちょっと残念ではある。
(しかしなぜ女神様は嘘を吐いたのだろうか。本当は地獄行きだったけど、女神様が転生させてくれたおかげでそれが免れた...つまり転生させて俺を守ってくれたのか?)
魔王がいると知ればゲーマー魂を持つ俺は絶対にその世界に行っていた、現に今来てる。
なるほど、伊達に人を見守っていたわけじゃないな、しっかりと1人1人の性格を観察してやがる。
....っと一瞬考えたが、俺は魔王がいなくても普通に異世界転生していたと思うし違うか?
女神様が何を思って嘘をついたのか、賢者の知識でもわからないし考えるだけ今は無駄か。
そんな事を考え歩いていたら、ついに冒険者協会の建物にたどり着く。
「おお!絵に描いたような冒険者協会だな!」
かなり大きい建物だ、中からは男達の笑い声や怒鳴り声が聞こえる、そしてこの匂いは...父さんが飲んでた酒の匂いに似ている。
協会の中に酒場もあるのかもしれない。
冒険者協会、賢者の知識によればそこは冒険者と呼ばれる人たちが集まる場であり、中には国から都市から....街に住む一般人などからくる依頼が掲示板に貼られており、冒険者達は自分のやりたい依頼を選び、協会はそれを受注し依頼が完了次第報酬を払う仕組みらしい。
冒険者になるには協会の受付で登録する必要がある。
イメージ通りの冒険者協会の姿に目を輝かせつつ、緊張と興奮で心臓がドキドキしながら協会の扉を開ける。
中には如何にも冒険者の格好をした、俺と歳が変わらなそうな男や、見るからに屈強な30代後半くらいの男、トンガリ帽子にローブ姿の如何にも魔法使いの若い女性。
他にも弓を装備している男に盾を手に持っている女性、大剣を背負っている男。
依頼が貼られている大きな掲示板を見て相談している様子の冒険者達。
そしてやはり酒場が併設されている。
かなり騒々しい中、少し屈めば谷間の見えるであろう服を着てズボンを穿いているウェイトレスと思われる女性がビールを運んでいる。
運ばれたビールを飲み、大声で笑い合ってる男達に黙々と1人で食事をしている男。
ゲームの世界に入って何度も見た光景ではあるが、ゲームと違う生の空気.....本物の異世界に来た実感を...感動を味わえた。
一通り周りを見た俺は、受付に向かって歩く。
歩いていると、なんだか周りの視線が集まってきているような気がした。
多分原因は服だろう、ジャージなんて絶対異世界には存在しないだろうし珍しがられてるはずだ。
視線が集まるのは少し怖い。
だが別に絡まれる事なく受付に到着できた。
受付にはウェイトレス女性と同じで、谷間を強調する服を着た茶髪ロングの若く可愛い女性と、スーツを身につけ身だしなみをしっかりと整え如何にも仕事ができますアピールをしている若い男がいる。
さてどっちに行くか、異世界に来て最初の選択肢だ。
当然女性の方だ、可愛い女性と話せるチャンスを無駄にするわけがない。
俺は女性の方へ向かおうと足を動かした.....が、気がつくと男の方に向かっていた。
無理、あんな可愛い女性と話すなんて。
引き篭もり歴約2年の童貞には難易度が高すぎる。
女神様の時は緊急事態だったから話せたけども、意識し始めると絶対会話にならない、絶対ごにょって恥をかく。
仕方なく俺は男の前に立つと、「いらっしゃいませ!ようこそリンス冒険者協会へ!」と、明るい声で出迎えてくれた。
男は続けて喋る。
「本日はどうなされましたか、何か依頼の相談でしょうか?」
俺の事を街に住む一般人と見ているのだろうか。
「えっと、冒険者登録をしたいんですが...」
「あ、冒険者登録ですか!畏まりました、書類をお出し致しますので少々お待ちください!」
男はそう言うと受付カウンターから書類を取り出して俺に見せてきた。
なんとなく冒険者登録って、冒険者になります→水晶らしき物で職業やステータスチェック→今日から俺も冒険者!....みたいな感じだと思ってたけどこんな事務的手続きなのか。
一つ夢が潰れた様な気がした。
「ではご存知かもしれませんが規則ですので冒険者の説明をさせていただきます。冒険者というのは、モンスターや獣、場合によっては盗賊などの犯罪者の退治、薬草や鉱石などの採取、この都市以外では亜人の討伐などもあり、それらの依頼をこなす者の事です。」
賢者の知識で知っていたが、ゲーム『ファンクエ』とほとんど同じ仕様の冒険職だな。
それから男の職員は冒険者保険やパーティーやギルドの仕組みなどを話してくれた。
冒険者保険は簡単に言えば生命保険だ。
依頼をこなしている最中に死んだら遺族に金が支払われるらしい。
俺には関係のない話だ。
そしてパーティーとギルドの仕組み、この世界の大抵の冒険者は『パーティー』というグループを結成して活動している。
そしてこのパーティーの人数が10人以上になったら協会にギルド申請を行え、承諾された場合『パーティー』から『ギルド』に変更することができる。
ギルドになれば協会と国から特典として、協会の所持する訓練所の無料使用、武器や防具などの装備の割引、さらに人数が30人を超えたらギルド拠点となる場所....一軒家の提供などなど、かなり太っ腹だ。
さらに、互いを高め合う目的のためか『ギルドランキング』というものが存在する。
一部の国では違うが基本完了した依頼の数、メンバーの総数、凶悪モンスターの討伐....などでランキングは決まるらしい。
一通りの説明を聞き、俺は心の中でニヤケ笑いが止まらなかった。
この『賢者の知識』はきっと誰もが欲しがる権能だ。
冒険者となり活躍すればどのギルドからも誘いが来ることは間違いない。
.....けど誰かの作ったギルドに入るのは個人的に嫌だな。
やはりここは1からパーティーを作り、俺に選ばれし英雄達でギルドを結成するのが王道でかっこいいか。
俺が心の中でそんな事を考えている間も男職員の説明は続いた。
「...という事で以上で説明は終わらせていただきます。それでは冒険者カードを作成致しますのでご職業を教えていただけますか?」
「え、あ...あぁ職業ね............」
何と言えばいいのだろうか。
冒険者達はそれぞれ職業を持ち、剣を扱う『剣士』、魔法を扱う『魔導士』、『アーチャー』に『拳闘士』など....。
賢者の知識で知っていたが、よくある異世界ものみたいに水晶だとかで冒険者の適性を調べることとかはせず、職業は自己申告制。
さて俺の職業は何でしょうか、答えは......。
知らん。
魔導士と言いたいところだが、今は魔法を使えない。
職業を申告したら本当にその職業の最低ライン......魔導士ならば中級魔法を1個、アーチャーは的当て、剣士は模擬戦などで超えているかを確認される。
なのでまだ魔法の撃ち方を知らないから魔導士なんて言えない。
しかし冒険者になるからには何らかの職業を言わないといけない。
「...どうしましたか?」
受付の男職員はじっとこっちを見てくる。
俺は顔を斜めに傾け、手を顎に当て目を閉じて考え、ついに捻り出した。
「俺の職業は........賢者です」
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