第12話 よっぱらいの公爵令嬢は今日も暴れる

■■■■ NOTICE ■■■■

※この話は「ウェブ小説霊安室」に保管された供養断片です。

本編化の予定はありません。

もし「まだ生きてる!」と思う方は――

「ささやき、えいしょう、いのり、ねんじろ」

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第1話:『最強の炎魔法使い、火花散らして施設へご案内』


 その日、公爵令嬢エリザベス・ローゼ・フォン・アウローラは、執務室で午後のティータイムを満喫していた。窓から差し込む柔らかな日差しが、彼女の黄金の髪をきらきらと照らす。手元には、最近お気に入りの伯爵家秘蔵のブランデーが注がれたグラス。琥珀色の液体が、ゆらゆらと揺れる。


「……ふふ、やはりこれがないと、どうも一日が締まりませんわね」


 グラスを傾け、優雅な微笑みを浮かべる。完璧な令嬢を絵に描いたようなその姿に、側に控えていた老執事が深々と頭を下げた。


「お気に召されたようで何よりでございます。しかし、殿下。先ほど、最後の在庫となりました。次の入荷は、早くて三日後かと……」


 執事の言葉に、エリザベスの口元が一瞬だけ引き攣る。しかしすぐに完璧な微笑みに戻り、努めて平静を装った。


「あら、そうですの。では、この一杯を心ゆくまで味わうとしましょう。……ええ、わたくし、我慢は得意ですから」


 その完璧な笑顔の奥に、ほんのわずかな焦りが滲んでいることを、老執事だけが知っていた。


 ちょうどその時だった。街の方から、耳をつんざくような爆発音が響いてきた。次いで、轟音と共に熱波が執務室の窓ガラスを震わせる。


「くそっ、見ろよこの力!これが俺の炎魔法だ!俺こそが、この世界を救う最強の炎魔法使いだ!」


 野太い声が、街中に響き渡る。


 エリザベスは、グラスを静かにテーブルに置くと、窓辺へと歩み寄った。街の中心では、炎を自在に操る一人の男が、自慢げに両腕を広げていた。彼の周囲には、巨大な岩が燃え、騎士たちが後退している。


 その男こそ、この世界に転移してきたばかりの、自称「最強の炎魔法使い」フレイムだった。


「……あらあら、またいらしたのね。困った子たちだわ」


 エリザベスは、ため息と共に呟くと、老執事に命じた。


「執事。馬車の手配を。少々、躾が必要な方がいらっしゃるようですわ」


 馬車の中で、エリザベスは再び微笑みを浮かべた。しかし、その瞳は先ほどよりもわずかに冷たい。


「……ふふ、今日という今日は、手加減も必要ですわね」


 街の中心部。フレイムは騎士たちを嘲笑い、巨大な火球を生成していた。


「どうした?そんなチンケな剣では、俺の炎は消せないぜ?ははは、ざまあみろ!」


 その時、彼の背後から、美しい声が響いた。


「あら。貴方様の炎、とても熱くて、わたくし、感心してしまいましたわ」


 フレイムが振り向くと、そこには完璧な笑みを浮かべたエリザベスが立っていた。フレイムは、彼女の美しさに一瞬だけ目を奪われる。


「お、おう、どうだ?これが俺の炎だぜ?すげえだろ?」


「ええ、とても素晴らしいですわ。ですが、一つだけ疑問がございましてよ。……貴方は、本当に『最強の炎魔法使い』で、いらっしゃるのですか?」


 エリザベスの言葉を聞いた瞬間、フレイムの身体から、鮮やかな赤い魔力の線が、彼女の瞳へと吸い込まれていくのが見えた。


「な、なんだこれ!?俺の、俺の力が……!」


 フレイムが慌てて火球を放とうとするが、彼の両手から出るのは、かろうじてマッチ棒ほどの小さな火花だけだった。


「え、うそだろ!?なんでだ!?」


 フレイムが混乱する中、エリザベスは優雅に微笑んだ。


「貴方が『自称』したからでしょう?貴方の魔力は、貴方の言葉に強く結びついていますわ。わたくしの神眼は、その繋がりを断ち切る能力でしてよ」


 フレイムは絶望した表情でエリザベスを睨みつけた。


「て、てめぇ……!能力を奪ったのか!俺の力を返せ!」


「お返しすることはできませんわ。貴方が自分で『最強の炎魔法使い』だとおっしゃったのですもの。それに、貴方の力は、この世界には必要ございませんのよ」


 フレイムは激怒し、拳を固めてエリザベスに襲い掛かった。


「ふざけるな!チートがなくても、この身体能力があれば……!」


 エリザベスは、静かに、しかし冷たい光を宿した瞳でフレイムを見据える。その視線は、まるで魂の深奥を見透かすかのように、相手の存在そのものを否定する。


 彼女は、僅かな動きでフレイムの攻撃をかわすと、優雅な仕草で彼の腕を掴んだ。


「……貴方、本当に惨めですわね。ご自身の器を知らぬ愚か者は、この世界には不要です」


 エリザベスの言葉に、フレイムの顔から血の気が失せていく。


「いいことを教えて差し上げます。貴方の価値は、骨を砕く音よりも軽い。さあ、どこから折って差し上げましょうか?……ええ、まず、その自慢の右腕から参りましょうか。二度と、無用な力を振りかざすことがないように」


 エリザベスの指先が、まるで精密機械のようにフレイムの腕に触れる。次の瞬間、鈍い音と共に腕の関節が不自然な方向に曲がった。フレイムは痛みよりも、自分の存在が完全に否定されたことによる精神的ショックで声も出ない。


 周囲の騎士たちや市民は、ただただその光景を恐怖で震えながら見守っていた。


 エリザベスは、完全に戦意を喪失したフレイムの前に立つと、優しい声で語りかけた。


「さあ、施設へどうぞ。貴方には、己の無力と、この世界の広大さを、存分に味わっていただきますわ。……ええ、心ゆくまで」


 そうしてフレイムは、騎士たちによって「転移者保護更生施設」へと連行されていった。その日の夕暮れ、執務室でエリザベスはグラスの残りを飲み干した。


「ふふ、やはりこれがないと、どうもわたくし、我慢ができませんわ」


 彼女の完璧な微笑みは、もう誰も見ることのできない、孤独なものだった。







【診断結果】

プロットがいまいちだったので、心肺停止。

ウェブ小説霊安室に安置しました。

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