第6話 桜色ハーモニー -君と紡ぐ日本一周の物語-
■■■■ NOTICE ■■■■
※この話は「ウェブ小説霊安室」に保管された供養断片です。
本編化の予定はありません。
もし「まだ生きてる!」と思う方は――
「ささやき、えいしょう、いのり、ねんじろ」
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第一話 旅立ちの春、余命数ヶ月の原付ライダー
病院の白い天井は、いつも俺を嘲笑っているように見えた。
無機質な照明が放つ光は、俺の残された時間と同じくらい、どこまでも虚ろで、色がない。ベッドに横たわる俺の体は、ただ息をしているだけの抜け殻だ。
「……拡張型心筋症」
主治医の声が、頭の中で何度も反響する。
拡張型心筋症。心臓の筋肉が弱って、全身に血液を送り出せなくなる難病。その日の朝、俺はまた定期検診で病院に来ていた。いつもと同じように検査を受けて、いつもと同じように診察室に入った。ただ、その日の主治医は、いつもよりもずっと真剣な顔をしていた。
「蒼井君、残念ながら……このままでは、もってあと数ヶ月でしょう」
その言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。まるで、今まで見てきた映画のラストシーンが、いきなりモノクロに変わったような感覚。いや、それとも。
(『あ、このBGM、聞いたことある。たしか、主人公が絶望の淵に突き落とされるシーンで流れるやつだ。なんだっけ、あのタイトル…?』)
思考は、いつものように現実逃避を始めた。現実の絶望を直視するのが嫌で、俺はすぐに別のことを考えようとする。これは、病気のことを告げられてからの、俺の悪癖だった。思考の暴走。それは一種の自己防衛本能なのかもしれない。
(『いや、まてまて。今日は診察室だ。BGMが流れるはずがない。それに、俺は主人公じゃない。ただのモブキャラだろ』)
心の中で自分にツッコミを入れる。そう、俺は主人公ではない。人生という物語の、脇役でもない。ただ、終わりに向かってゆっくりと進んでいる、使い古された小道具にすぎない。
そう思っていた、その時だった。
「リク、これ……」
母さんが、一枚の写真を取り出した。
それは、まだ小学生だった俺が、父さんと二人でバイクに乗っている写真だった。あの頃の俺は、バイクに乗ることが大好きだった。風を切る感覚、エンジンの振動、そして、遠くへ行けるというワク進感。いつか、自分だけのバイクで日本一周するのが夢だった。
「これ、完成したわよ」
母さんの言葉に、俺はベッドから身を起こした。
病室の窓の外、入院棟の横にある小さな駐車場に、一台の原付バイクが停まっていた。
桜色のカウルに、銀色のフレーム。俺が、病室のベッドの上で、ネットオークションで少しずつ部品を買い集め、父さんに頼んで組み立ててもらった、俺だけの愛車。名前は『桜号』。
(『あ、そうだ。これを組み立てるのが、俺の最後の目標だったんだ』)
その光景を見て、俺の心に、忘れかけていた熱が、じんわりと蘇るのを感じた。
桜色の車体。それは、まるで俺の病んだ心臓に、再び血が通い始めたかのような、鮮やかな色をしていた。心臓がトクン、と、久しぶりに力強く脈を打った。
「母さん、俺、旅に出るよ」
その日の夜、俺は家族に日本一周の旅に出ることを告げた。もちろん、猛反対された。命を危険に晒すようなことはやめてくれ、と。当然の反応だ。しかし、俺の決意は固かった。
「このままただ死を待つくらいなら、俺は、生きたい。後悔のないように、生きて、走り抜きたいんだ」
俺の強い意志に、父さんと母さんは、やがて何も言わなくなった。ただ、静かに、俺の荷造りを見守ってくれた。
次の日の朝。まだ薄暗い時間だった。
俺は、『桜号』のエンジンをかけた。ブゥン、という低く、力強い振動が、全身に響く。それは、俺の心臓の鼓動と共鳴しているようだった。
「……行ってくる」
家族に別れを告げ、俺は原付バイクを走らせた。風が、まだ冷たい。でも、その冷たさが、俺の頬を叩き、俺が今、生きていることを教えてくれる。
目指すは、日本列島の最北端、北海道。そこから南下し、日本を一周する。そして、その旅の終着点で、俺は、自分の人生に、一つの答えを見つけようと思う。
桜色の原付バイクは、朝日を浴びて、ゆっくりと走り出した。
【診断結果】
いい話なんだよ。
本当にいい話なんだよ。
難病ものとしては完璧な流れ。
でも、主人公がくずすぎたため、心肺停止。
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