第4話 入学式

 4月初旬。小学校の校庭内に植えられた桜が舞う中、紗理奈さりなが入学式を終えて両親のところに戻ってきた。

 この日のために用意した「おめかし」した衣装で親のところまでトコトコ歩いてくる姿はとても愛らしい。




「おお! 紗理奈さりな! どうだった? 新しい友達は出来たか?」

「うん『かなえちゃん』がいた」

「ん? そういえば『かなえちゃん』って確か幼稚園にもいたよな?」

「そうだよ。その『かなえちゃん』だよ」

「そうかそうか。幼稚園の頃から一緒の子なら小学校も安心だな」


 厚皮は小学校に上がる紗理奈さりなの身に何かが起きないか心配していたが、大丈夫そうだ。

 特に最近の学校ではいじめが流行ってるそうなので、彼女が巻き込まれないか不安がっていたが、そこも問題なさそうだ。




紗理奈さりな、パパやママと記念写真を撮るぞ」


 記念写真を撮るために、厚皮は校門前に妻と娘を呼んだ。

 まずはパパと紗理奈さりな、次いでママと紗理奈さりなで写真を撮る。

 そして今度は家族3人そろっての写真。なるべく「自撮り棒」が映らないように、それでいて家族3人がしっかりと映るように、スマホを使って撮影する。


「どう? ちゃんととれてる?」

「大丈夫だ。ちゃんと撮れてる。見てみるかい?」

「うん。なんかパパのかお、へんだなぁ」

「アハハッ。パパったら緊張して顔ガチガチじゃない」


 らしくもなく緊張している厚皮の顔を見て、妻も娘も笑ってた。




 入学式は午前中で終わり、せっかくのハレの日だからとお昼は家族3人でおいしいと評判のラーメン屋に車に乗って行くことにした。

 その道中。


「コホッ、コホッ」


 紗理奈さりなが咳をしていた。


「? どうした紗理奈さりな? 風邪か?」

「うん、大丈夫」


 彼女が咳をしだしたのは今日で初めてだ。まぁ1~2回くらいなら特に心配するようなものではあるまい。とその時は軽く流すことにした。




「お、ここだここだ」


 最近店舗数を増やしていて、都内でも見かけることが多くなったとあるラーメンチェーン店。その新店舗が家の近所で今年の4月1日にオープンしたので寄ってみることにした。


「いらっしゃいませ。3名様ですか? 奥のテーブル席へどうぞ」


 オープンしたばかりで汚れの無いピカピカの店舗に従業員の声が響く。よく教育もされていて感じも良くてなかなかの店なんじゃないか、と厚皮は思っていた。

 彼らは席に座ると注文を頼んだ。


 しばらくして……。




「お待たせいたしました。味玉ラーメンに、中華そば、それにお子様ラーメンになります」


 注文の品がやって来た。

 最近流行りの豚骨醤油ベースのスープはクセはあるが美味い。一方で、妻はあまり好みではないので昔ながらの「中華そば」だ。


「やっぱりお店のラーメンは美味しいわね」

「そりゃあ、店の味が家で出されたら商売あがったりだろ? 専用の設備だってあるんだし」


 確か中華料理屋で定番のチャーハンなんかもガスコンロの火力が根本的に違ってて、家では絶対に出来ないパラパラのチャーハンになる。とは聞いている。

 そもそも家庭用の調理器具とは根本的な部分から違うという知識はあった。


 厚皮はお子様ラーメンを食べている娘に視線を移した。




紗理奈さりな、おいしいか?」

「うん、ラーメンおいしい。うっ、コホッ、コホッ」


 紗理奈さりながまた咳をしていた。


「……」


 厚皮は娘の容態を真剣に見ていた。春だというのに風邪か? 意外にも春風邪は多いとは聞いているが、気になる。




「医者に診てもらった方が良いんじゃないのか?」

「もう、パパったら大げさなんだから。この程度の咳なんて大したことなんて無いでしょ?」

「だといいが……」


 どれだけ大きな出来事であっても、きっかけは「ビックリする位」ささいな物だ。

 この時の娘の咳が後に彼の破滅の原因となるのだが、この時の厚皮は知る由もない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る