スター流のヒーローたちが妖怪軍団とバトルするそうです

モンブラン博士

第1話 保安官のロディは黒い巨大サソリを倒したい

ロディは愛馬を走らせエジプトの砂漠へと向かっていた。豊かな金髪を砂埃に靡かせて正義感に燃える青い瞳は前だけを見据えている。


西部開拓時代から保安官として活躍している彼は困っている人を見ると助けずにはいられない。ただっ広い砂漠の真ん中に降り立ち、ロディは額の汗を拭った。


灼熱の太陽が照り付けている中では茶色のテンガロンハットに紺色のシャツにジーンズ、赤のスカーフに黒のロングブーツを合わせた格好はかなり暑いが服装は彼のトレードマークなので変えるつもりはない。


だらりと長袖の腕を下げて腰の二挺拳銃を引き抜けるように構える。

普段はお気楽な彼も戦闘は真剣だ。


自分が敗北すれば多くの人が犠牲になるとわかっているから命をかけるのだ。

誰もいない砂漠の中、ロディは言った。


「俺は西部開拓時代の正義の保安官ロディだ。隠れてないで出てきな。俺と闘り合おう」

「今の言葉、後悔するなよ。人間……」


どこからかくぐもった声が聞こえたかと思うと地下から大量の砂を噴水のように飛ばして巨大な黒いサソリが姿を現した。優に五メートルは超える巨体で、サソリの姿を一瞥したロディはなるほど地元の警官や軍隊が手を焼くわけだと納得した。


現にこれまでに五十人以上の人々が犠牲となっている。

普通の鉛玉では効果がないことは仲間と共有した情報で知っているのでロディは彼なりの対策を練ってここまでやってきた。


白い歯を見せて笑うと同時に銃を引き抜いて発砲。〇・二秒という人間の速度を超えた早撃ちは数百年という長い月日を極限状態で過ごしたことで養われた。


百発百中の腕前を誇る彼はサソリの眉間を正確に狙った。通常なら即死のケースだがサソリは紫色の血をタラリと流しただけで平然としている。対妖怪用の特殊な弾丸を急所に撃ち込んでも倒れない。ならばと両手で射撃する。


彼の銃は一度弾を込めれば機関銃並に連射しても弾切れを起こさないという魔法がかけられてある。正確に撃ち込むとサソリは紫色の血を噴出するが、目を光らせて巨大なハサミで攻撃してきた。


後方に跳躍して回避。命ギリギリの戦闘はロディの血を滾らせた。


二発、三発。


巨大なハサミを回避しながら銃撃を続けるロディだが、彼の額から汗が流れる。


猛暑の真昼は体力を想像以上に消耗させていく。待機させている愛馬が心配そうな顔をしているが、ロディは笑みを崩さない。彼は常に勝利を考えていた。

ハサミの付け根を狙った一撃が貫通し、サソリの両のハサミが千切れ飛ぶ。


「これで悪さはできねぇなあ。サソリさんよ」

「小癪な。我を甘くみるなよ」

「これからどうしようって言うんだ。諦めて家に帰りな」

「その言葉、貴様にそっくり返してやろう」


漆黒の身体を持つサソリは反り返った尾から電撃を繰り出してきた。ジグザグにスパークを描きながら向かってくるそれをロディは冷静に躱し続ける。


「暴れすぎたな。お前の攻撃は見切ってるんだ。おとなしくあの世にいきな」

「断る」


ロディは嘆息し容赦のない発砲でサソリをハチの巣にしていくが、敵がこれで終わりではないということは理解していた。全身に無数の穴が開いて轟沈する巨大サソリが突如として発光し人型になったではないか。


黒いサソリの鎧。両手のハサミ。腰から伸びた尾。


スマートながら戦士としての貫禄が出ていた。


「やっぱりな。そう来ると思ったぜ。さっき俺が倒したのは殻だろ」

「そうだ。下等な人間ながら我を真の姿にしたことだけは褒めてやろう」

「褒め言葉はありがたく受け取っておくとして……どうする? 第二ラウンド開始か? それとも尾を巻いて帰るか」

「貴様は我に情けをかけるというのか」

「そういうわけじゃねぇが、悪さをしないでおとなしくしてるんなら俺は何もしないってだけだ」

「下等な人間が、我を甘くみるなよ」


漆黒の瞳を光らせ砂地を蹴って低空タックルを浴びせたブラックスコーピオンは勢いをそのままにロディの右足を自慢のハサミで挟み込んでドラゴンスクリュー気味に横転させた。


鋭利なハサミによる一撃を食らったロディは足から大量出血しながらも立ち上がってくる。


「ほう。まだ戦うというのか」

「当たり前だろ。スター流はヤワな鍛え方をしてないんでね。こんなかすり傷ぐらいじゃ俺は止められねぇよ」



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